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第4編 海洋の区分(2):領海

第1章 領海の地位

 国家の沿岸(基線baselines)にそって一定の幅12カイリを持つ帯状の海域は領海Territorial Sea, TS)」と呼ばれ、沿岸国の主権が及ぶ(海洋法条約第2条)。なお、この管轄権は、上空領空海底及び海底の下にまで及び、生物・鉱物資源の採取について独占権を有する。1919年のパリ国際航空条約は各国が領土・領水上空について主権を持つことを明文で認めており、例えば、領海上空を無断で飛行する外国空軍機は領空侵犯となる(※注1)
 もっとも、領海は、完全な主権が及ぶ内水とは異なり、無害通航権(後述)など国際法上いくつかの制限を受けるし、国内法令が領海に自動的に適用されるわけでもない(各国の裁量に任されている)。その為、領海の性質を巡って、(1)基本的には領土と同等の完全な主権があり、ただ国際法上の制約を受けているとする領域主権説(2)領土と同等の意味で主権が及ぶわけではなく、主権と同様の管轄権が及んでいるとする管轄権説と、(3)制限物権の一つであるとする地役権説が対立している(※注2)
 領海は内水の範囲及び領海の範囲を決定し(領海の陸地側内水であり、海洋側公海である)、更に沿岸国の領空の水平的限界を決定するので、非常に重要である。

※図1 領水(内水と領海)(再録)

 領海は、領土自然・不可分の従物appurtenance)であって、主物領土)の移転に附従して移転する(「従物の処分は主物の処分に従う」)(※注3)。この地位は強行法規であって、何れの国も当事国間の特約で領海のみを主物と分離して処分できない。つまり、領土と領海はセットで割譲されるのである。例えば、我が国が北方領土をロシアに売却する場合、4島と共に領海や経済水域も一セットとして売却するのであって、領土だけロシアに渡して領海と経済水域だけ日本領とすることは出来ない。

※注釈
1:
栗林前掲書、266ページ。また、山本前掲書、360〜361ページ。香西他前掲書、131〜132ページ。
2:山本前掲書、361〜362ページ・367ページ。
3:
山本前掲書、361ページ。
グリスバダルナ事件常設仲裁裁判所判決。

第2章 領海の幅

 1982年の国連海洋法条約(1996年・平成8年条約第6号)では、領海の幅は12カイリとされ、我が国の「領海及び接続水域に関する法律(領海法)」(1977年・昭和52年法律第30号)(施行、昭和52年7月1日政令第209号)でも特定海域(後述)を除いて領海12カイリを採用した(領海法第1条(※注1)
 領海の幅は、19世紀末までは一般に3カイリ(1カイリ=約1.853キロメートル)とされていた。これは、沿岸国の管轄権が及ぶ物理的範囲から弾き出された距離であり、オランダの国際法学者バインケルスフークCornelius van Bynkershoek、1673年〜1743年)は、「土地の権力は武力の尽きるところに終わる」として、沿岸砲の射程距離を以って領海とする「着弾距離説」を提唱(1702年)。それ(着弾距離)は1リーグ(緯度1度の20分の1)即ち3カイリであるとした。但し、北欧諸国やロシアは、1リーグを「緯度の15分の1」と解して了解幅を4カイリとした(1745年、デンマーク)。これらの主張は、遠洋漁業・海運の自由にとって有利な解釈であり、一定の支持を得ていた。なお、我が国は、1977年の「領海法」までは国内法上特に領海幅を定めた規則を持たなかったが、普仏戦争における中立を宣言した明治3年太政官布告第54号では中立法上の「防止義務」の範囲となる海域を3カイリとしている他、明治3年太政官布告第492号明治3年太政官布告第546号で3カイリ領海を再確認し、かつ、「凡三里(陸地ヨリ砲丸ノ達スル距離)」と規定して着弾距離説を採用した(※注2)
 しかし、軍事技術の発達で沿岸砲の射程距離は次第に延伸し(※注3)、安全保障上、資源配分上、また環境保護上の観点から、統一的な国際慣習法は第ニ次世界大戦前後には崩れはじめていた(※注4)。例えば、1894年には万国国際法学会が、1895年には国際法協会がそれぞれ「領海6カイリ」を提唱した他、1945年9月のトルーマン宣言(保存水域宣言、大陸棚宣言)では、自給自足体制確立のために領海外の大陸棚について鉱物資源の管轄権を主張。1952年のサンチアゴ宣言では、チリ、ペルー、エクアドルの三国がフンボルト(ペルー)海流のアンチョビ漁を確保するために領海200カイリ(後の経済水域の幅となる)を主張した。
 領海の幅を巡っては、その後、1958年の第一次国連海洋法会議とその成果である「領海条約」(「領海及び接続水域に関する条約」、昭和43年条約第11号)、1960年の第二次国連海洋法会議でも合意が得られなかった。これは、(1)全世界の海で操業していた自国漁業の利益を守りたい先進漁業諸国「狭い領海」を主張した(特に我が国は終始「領海3カイリ」を主張していた)のに対して、沿岸漁業を規制して食糧不足解消をはかろうとした発展途上国「広い領海」を主張したこと、(2)空母機動部隊をはじめとする優勢な海軍力を持つ西側諸国が行動範囲を広げるため「狭い領海」を主張したのに対して、海軍力で劣勢に立つ東側諸国が逆にそれを狭めるため「広い領海」を主張したことが重なったためである(※注5)。また、アメリカ等によって、(3)沿岸国が負担する船舶の航行安全の確保(レーダー、灯台の性能、視界)や海上保安警備費用、中立国の中立を維持する義務の負担を考えても、領海の拡大は困難だとする立場も表明された(※注6)
 結局、この問題は、その後の各国の国家実行により領海12カイリ経済水域200カイリが定着し(1975年には、領海3カイリの国が23ヶ国、領海12カイリの国が53ヶ国あった)、1977年には我が国も前述の「領海法」を公布して、特定海域を除き領海12カイリ制度を採用した(領海法第1条(※注7)。そして、こうした流れは第三次国連海洋法会議・国連海洋法条約(UNCLOS)で追認される形となった(※注8)。現在、世界各国はほとんどが国連海洋法条約の規定に沿う形で領海を12カイリ、接続水域を24カイリとしているが、幾つかの国ではこれと異なる制度をとっている(下表参照)。

※表 特殊な領海幅を採用する諸国

国 名   国 名  
バングラデッシュ 接続水域18カイリ ヨルダン 領海3カイリ
パラオ 領海3カイリ パプア・ニューギニア 一部で領海3カイリ
トルコ 領海6カイリ(黒海、地中海を除く) シリア 領海35カイリ
接続水域41カイリ
サウジアラビア 接続水域18カイリ ベナン 領海200カイリ
コンゴ 領海200カイリ シンガポール 領海3カイリ
ガンビア 接続水域18カイリ リベリア 領海200カイリ
シエラレオネ 領海200カイリ ソマリア 領海200カイリ
スーダン 接続水域18カイリ トーゴ 領海30カイリ
ドミニカ共和国 領海6カイリ ベリーズ 一部で領海3カイリ
エクアドル 領海200カイリ エルサルバドル 領海200カイリ
ニカラグア 領海200カイリ ベネズエラ 接続水域15カイリ
ギリシャ 領海6カイリ・10カイリ フィンランド 接続水域14カイリ
ノルウェー 領海4カイリ
接続水域10カイリ
イギリス 一部で領海3カイリ

※出典:外務省経済局海洋室より一部改変(2001年6月現在)
赤字のものは国連海洋法条約の規定に反するもの。

※図2 我が国の領水及び経済水域(★)

我が国の領水及び経済水域

 
領土Territory
領水Territorial Waters:内水+領海12カイリ)
接続水域Contiguous Zone:基線から24カイリ)
経済水域Exclusive Economic Zone:基線から200カイリ)
それ以外(公海、他国領水)
他国領土

※注釈
1:
山本前掲書、362ページ。
 従来我が国は、明治3年以来領海3カイリ制を採用していたが、@日本漁船が外国の
200カイリ経済水域から排除されだしたこと、A日本沿岸にソ連等近隣諸国の漁船が進出し沿岸漁業を圧迫したこと、の2つから、12カイリ制に転換した。
2:
栗林前掲書、267ページ。また、山本前掲書、363ページ。また、
 吉井 淳 「領海制度の史的展開ー日本の領海制度」『日本と国際法の100年 (3)海』 三省堂、2001年 32ページ以下。
3:吉井前掲書、28ページ。
 実際、例えば、(沿岸砲ではないが)旧海軍の戦艦「大和」は口径18インチ=46センチで射程距離は約45キロ=約24カイリあった。もっとも、戦艦「大和」の巨大な砲でも射程距離は24カイリであったことを考えれば、一般の沿岸砲の射程距離はもう少し短く、12カイリ程度と言ってもよいかもしれない。ただ、現代では、100キロ以上の射程を誇る地対艦ミサイルやロケット推進砲弾といった新技術により、いよいよ「着弾距離」は外洋へと伸びている。
4:奥脇・小寺前掲書、119ページ。
5:
元々、第2次世界大戦中、海洋で空母機動部隊同志の決戦を行っていたのは日米両国で、ソ連はもっぱら自国本土に侵入したドイツ軍を追い払うことに専念しており、海軍は戦争末期になってバルト海艦隊の一部が限定的に活躍したに過ぎなかった。その為、大戦後「七つの海」を支配したのは米英両国で、はじめから劣勢だった旧ソ連は、潜水艦部隊・対艦ミサイル搭載爆撃機を使って欧州に送られてくる米軍の増援を阻止することとし、海上航空戦力の整備は遅れた(その為、ソ連海軍の軍艦は概して重武装であった)。
6:山本前掲書、364ページ。
7:従来は、我が国は
領海3カイリ制度を採用しており、戦後の1951年11月5日第12回国会・参議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会において、西村熊雄政府委員(外務省条約局長)は、「領水というのは領海と解釈されていいと思います。国際法上領水と申しますが、それは領海のほかに内水、湖沼等を含む意味において領水という字を使うわけであります。領海とお考え下さつて結構でございます。範囲は、日本は三海里説を從來とつております現在もさようでございます。」と答弁している。吉井前掲書、32ページ。
8:栗林前掲書、268ページ。また、山本前掲書、364ページ。香西他前掲書、132ページ。
 なお、1960年の
第2次国連海洋会議では、アメリカとカナダが提案した「領海6カイリ・漁業専管水域6カイリ」の案が否決された(我が国は棄権)が、実際には多くの国で採用された。
★:海上保安庁水路部ホームページより引用、加筆修正。

第3章 他国との領海の境界

 他国との領海の境界は、原則として等距離中間線による(領海条約第12条、海洋法条約第15条(※注1)。もっとも、歴史的経緯や複雑な地形等で隣国との特約があれば、それに従うことになる。

※注釈
1:
山本前掲書、365〜366ページ。また、奥脇・小寺前掲書、119ページ。

第4章 基線

 領海の幅員は、沿岸国が公認する大縮尺海図に記載されている海岸の低潮線Lowest Astronomical Tide, LAT)を基準として設定されるが、この領海の幅員を測定する基準線を「(領海)基線Territorial Sea Baselines, TSB)」(通常基線)と呼ぶ(領海条約第3条海洋法条約第5条(※注1)
 もっとも、基線の引き方には、いくつかの例外がある。

第1節 低潮高地
 領海の内側にある低潮高地(満潮時には海面下に没するが干潮時は海面上に出てくる、自然に形成された土地:図2参照)(海洋法条約第13条@)は(1)通常基線として用いることが出来る。しかし、(2)直線基線(後述)の基準として用いるためには、その上に恒久的工作物(灯台等)が存在しなければならないし(下図B)(存在しない場合は使えない)(海洋法条約第7条C)(又は、低潮高地を含めることに国際的承認がある場合)、(3)領海の外側にあるものは通常基線・直線基線共に用いることが出来ない(海洋法条約第13条(※注2)

※図3 直線基線の基準として用いることが出来る低潮高地

直線基線の基準として用いることが出来る低潮高地

第2節 港湾工作物等
 港湾施設の不可分の一部である恒久的な(1)港湾工作物は、海岸の一部と看做す。しかし、(2)沖合いの港湾工作物(人工島等)は、海岸とは看做されない(海洋法条約第11条)。
 また、
(3)積込み・積卸し・船舶の投錨に通常使用されている停泊地は、その全部又は一部が領海の外側の限界よりも外方にある場合にも、領海とみなされる(海洋法条約第12条)(※注3)

※図4 港湾工作物

港湾工作物

第3節 礁
 環礁又は裾礁があるときは、沿岸国が公認する海図に適当な記号で示される礁の海側(外側)の低潮線を基線とする(海洋法条約第6条(※注1)

第4節 直線基線
 海岸が複雑に入り組んでいたり、無数の沿岸群島coastal archipelago)がある場合、基線を一律に「低潮線」としたのでは不都合が生じる(例えば、ノルウェー海岸のスカエルガールドskjaergaard)。そこで、1951年12月18日のイギリス・ノルウェー漁業事件(判例国際法34事件)国際司法裁判所判決等を契機として、国連海洋法条約第7条領海条約第4条は、低潮線上の2地点間を結んだ直線基線Straight Baselinesを一方的行為としてとることが出来るとしている(海洋法条約第7条(※注4)。但し、その直線基線が国際法上有効なのは、それが実定国際規範に合致して引かれた場合に限られる(※注4)。なお、この制度は、大洋群島(群島国家)mid-ocean archiperagoには適用されない(「群島水域」の制度が適用される:後述)。
 直線基線は、(1)海岸の一般的方向と著しく外れる形で引くことは出来ず、また(2)内側は内水となるので、管轄権を及ぼすのに十分な陸地との関連性を有しなければならない。なお、直線基線によって形成された内水では、外国艦船は無害通航権を引き続き有する。また、直線基線は、(3)第13条の規定にも関わらず低潮高地を基準として引いてはならない(その高地の上に灯台等恒久的に海面上にある施設が存在する場合を除く)。
 我が国が採用した直線基線は下図の通りである(領海法第2条@)。それによれば、北海道西岸、渡島半島・内浦湾、陸奥湾、石川県以東の北陸海岸、三陸海岸、相模湾・駿河湾、若狭湾、伊勢湾、志摩半島、瀬戸内海、山口県日本海岸、九州西方海上は全て内水となっており、「湾の法理」が適用されないような湾(例えば、若狭湾)も含めて内水扱いされている。
 我が国の直線基線採用に関して、1997年6月、島根県沖合いの我が国領海で操業中の韓国漁船「第909テドン」号が外国人漁業規制法違反で拿捕された事件(韓国漁船拿捕事件、判例国際法36事件)で、広島高等裁判所は、漁業水域において旗国主義を定めた日韓漁業協定第4条第1項は、我が国が我が国領海で主権を行使することを妨げるものではなく、領海漁業水域とは異なる概念であって、国連海洋法条約に従った我が国の領海拡大には違法はない、とした(※注5)

※図5 我が国の直線基線(★)


色の海域は内水/内海である。

第5節 河口・湾口・内海の閉鎖線
 河口湾口(24カイリ以下)、内海の入口については、直線の閉鎖線を引き基線とする(前章参照)。

※注釈
1:
栗林前掲書、269ページ。また、山本前掲書、364ページ。松井他前掲書、150ページ。奥脇・小寺前掲書、118ページ。香西他前掲書、129ページ。
2:栗林前掲書、269ページ。また、山本前掲書、364ページ。
3:栗林前掲書、269ページ。また、山本前掲書、364ページ。香西他前掲書、129〜130ページ。
4:栗林前掲書、270ページ。また、山本前掲書、365ページ。また、奥脇・小寺前掲書、118ページ。香西他前掲書、129ページ。『判例国際法』、148ページ。
 ノルウェーは、自国沿岸の漁場を自国漁船に確保するために、勅令により、直線基線方式をはじめて採用したが、これに対してイギリスが国際法違反を理由に提訴した。判決では、ノルウェーの直線基線が国際法違反にならなないこと、湾口10カイリ原則の国際慣習法していないことを明らかにした。
5:『判例国際法』、148ページ。
 
日韓漁業協定第1条第1項但書には、両国が漁業水域の設定にあたり基線を直線基線に変更するときは、両国で協議するとの条文があったため、弁護側は、国連海洋法条約に従った我が国の直線基線採用・領海拡大は日韓漁業協定第1条第1項但書違反にあたる、と主張した。
 本件は現在、最高裁判所で係争中である。
★:海上保安庁水路部ホームページより引用。

■第5章 旗国の権利:無害通航権

第1節 定義
 領海は、沿岸国の領域主権の管轄下にある(但し、前述したように制限的)。しかし、1840年代以降、重商主義から自由貿易主義への転換で、船舶の旗国法益・航行利益の保護が求められるようになると、無害通航の概念が形成された。そして、そうした経緯を経て成立した国連海洋法条約第17条領海条約第14条は、全ての国(沿岸国であろうと内陸国であろうと問わない)の船舶に、領海(直線基線により新たに内水となった水域を含む:図1b部分)における無害通航権」(right of innocent passageを認め、沿岸国に受忍義務を課している(※注1)
 もっとも、領海上空は領空であり、無害通航権は船舶にのみ認められるのであって、航空機には類似の「通行権」は無い。この点、国際海峡通過通航権(後述)とは異なる。

第2節 「通航」の定義
 通航passageは、以下の3つの場合にのみ認められる(領海条約14条AB、海洋法条約第18条@(※注2)。従って、徘徊滞留を目的とした領海立入は認められない。

(1)(内水や停泊地、港湾施設に立ち寄ることなく)領海の通過(下図A)
(2)内水にむかって、又は内水からの航行(下図C)
(3)内水の外にある停泊地・港湾施設に立ち寄ることを目的とした航行(下図B)

※図6 無害通航権

 

 通航は、「継続的かつ迅速」でなければならない。停船・投錨が認められるのは、以下の場合に限られる(海洋法条約第18条A)。

(1)公海に通常付随するものである場合
   (給油、給水、水先案内人乗船)
(2)不可抗力遭難により必要とされる場合
   (台風避難、急病人発生、機関故障)
(3)危険若しくは遭難に陥った人・船舶・航空機に援助を与える場合   (救助)

 これら以外の停船は「通航」とは認められない。なお、水中航行機器潜水艦)は、(1)浮上航行し、(2)船籍国の国旗を掲揚しなければならない(海洋法条約第20条(※注3)
 もっとも、いくら無害通航権があるといっても、外国船舶が領海内を無秩序に航行しては、混乱が生じる。そこで、沿岸国は、領海における無害通航に関する国内法令航路指定(航路帯・通航分離方式)を行うことが出来る(海洋法条約第21条・第22条)。こうした規制では、外国船舶の設計・構造・配乗・設備について国際規則基準を上回る重い規制を適用してはならない(海洋法条約第21条)。また、沿岸国は、(特定役務の対価以外の)単なる通航の対価として課徴金を要求してはならない(海洋法条約第26条(※注4)

第3節 「無害」の定義
 無害通航をする船舶は、沿岸国法益、即ち沿岸国の平和秩序又は安全peace, good order or security)を害しないように通航しなければならない(海洋法条約第19条@)。その第一次的判断権沿岸国にあるが、国連海洋法条約第19条Aは、「無害通航」に該当しないものとして特に次の態様を提示している(※注5)

(1)武力による威嚇若しくは武力の行使
 @沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの
 A国連憲章に規定する国際法の諸原則に違反する他の方法によるもの
 →平和・秩序又は安全を害するものと見なされる。

(2)
武器を用いて演習又は訓練
  武力行使ではないが、軍事演習は事実上「武力による威嚇」に近いため、
 無害とはされない。

(3)
沿岸国の防衛又は安全を害する情報の収集を目的とする行為
  偵察等の他、沿岸国海軍の練度や武器の性能を調べるために、かつて
 米ソ両大国は情報収集艦(軍艦然としたものや、漁船を装ったものもあっ
 た)を派遣していた(現在も保有しているし、その他の国も保有している)
 が、これも無害とはされない。

(4)
沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
(5)
航空機の発進着船又は積込み
  民間船舶にはヘリ(回転翼機)甲板を備えた船も存在するが、固定翼機
 の発着艦が出来るのは軍用の航空母艦ぐらいしか存在しない。

(6)
軍事機器の発進着船又は積込み
 空母艦載機の他、ミサイル・弾薬類の発射や補給も含まれよう。

(7)
沿岸国の法令に反する商品等の積込み・積下ろし
 沿岸国の通関上・財政上・出入国管理又は衛生上の法令に違反する商品、
通貨又は人の積込み・積み下ろしである。麻薬、奴隷、密輸等が該当する。

(8)
この条約に違反する故意の、かつ重大な汚染行為
(9)
漁業活動
(10)
調査活動又は測量活動
(11)
沿岸国の通信妨害
 沿岸国の通信系又は他の施設もしくは設備の妨害を目的とする行為である。

(12)
通航に直接の関係が無い他の活動
 この判断は、沿岸国の裁量に任されている。

 なお、通航に関する沿岸国の国内法令に反した通航(航路帯・通航分離方式)をする船舶については、(1)分離説(軽微な国内法令違反には刑罰を以って対応すればよく、無害通航権までも否認できるわけではない、とする。19〜20世紀に英米法国が採用)と(2)接合説(合法性と無害性を結びつけ、違反行為があれば無害通航権を失う、とする)、(3)折衷説があるが、国連海洋法条約第19条領海条約第14条Cは分離説を採用している。従って、違反が重大であれば無害通航権を失うと解すべきであろう。
 沿岸国は、特に自国の軍事的安全の保護に不可欠な場合に無害通航権を停止できる海洋法条約第25条(※注6)
 もっとも、以上のような態様基準の他に、通航の意図・目的から無害性を判断する通航目的基準、搭載貨物の種類・最終目的港を基準とする積荷・目的港基準、船の種類や性質を基準とする船種基準が従来から用いられてきた。例えば、軍艦は、船種基準では有害とされても、態様基準では無害とされることもある。その点、海洋法条約第19条A態様基準を採用して無害性の基準を列挙したものだが、その性格を巡って(1)Aは@の例示であって、Aが態様基準を採用する以上@を根拠に船種基準はとれないとする説と、(2)@には特段の限定が無いので、通航目的基準や船種基準といった幅広い基準を採用し得るとする説がある(※注7)
 1946年のコルフ海峡事件(判例国際法33事件)The Corfu Channel Case)では、アルバニア領海内のコルフ海峡を航行していたイギリス艦隊(巡洋艦2隻、駆逐艦2隻)が触雷して駆逐艦2隻が損害を受けたとして、イギリスは同年、アルバニアの同意を得ずに同海域に掃海部隊を派遣して掃海・機雷掃討を行ったが、これについて1949年4月9日の国際司法裁判所判決は、「掃海行動無害通航として正当化されない」との判断を下した(※注8)

第4節 軍艦と無害通航権
 領海条約第23条によれば、軍艦及び政府船舶も又無害通航権を有するとされる。態様基準からすれば、軍艦といえども無害性の基準を満たす限り無害であるということになる。しかし、軍艦については、沿岸国の中には(1)事前の許可や通告を求める例、(2)明文で認める例があり、統一された解釈は存在しない(※注9)
 軍艦が領海の通航に係る(1)沿岸国の法令を遵守せず、かつ、(2)軍艦に対し行われた法令遵守の要請を無視した場合には、沿岸国は、その軍艦に領海から直ちに退去することを要求することができる(海洋法条約第30条(※注10)
 なお、政府船舶のうち商業用政府船舶について民事・刑事裁判権が及ぶかどうかについては争いがあるが、一般商船なみに及ぶと見るべきであろう(※注11)
 ところで、我が国は閣議決定により「非核三原則」(核兵器を作らず、持たず、持ちこませず)を宣言しているが、これとの関連で核兵器搭載艦の通航が無害通航に該当するかが問題となった。昭和43年(1968年)衆議院外務委員会での三木外務大臣答弁では、政府はポラリスA3潜水艦発射弾道ミサイル(Submarine Launched Ballistic Missile, SLBM)を搭載した弾道ミサイル原潜(SSBN)の通航は無害通航とは考えず事前協議制度の対象とすることを表明した(※注12)。こうした処置をとるには、核搭載艦の通航が通常の軍艦と比較して特別に有害・危険であり、そのことを国際的に周知させておく必要があろう。

※注釈
1:
栗林前掲書、271ページ。また、山本前掲書、366ページ。香西他前掲書、143ページ。松井他前掲書、150〜151ページ。
2:栗林前掲書、271ページ。また、山本前掲書、367ページ。
3:栗林前掲書、271ページ。また、松井他前掲書、151ページ。
4:栗林前掲書、274ページ。また、山本前掲書、371ページ。香西他前掲書、144ページ。松井他前掲書、151ページ。
5:栗林前掲書、271〜272ページ。
6:栗林前掲書、272ページ。また、山本前掲書、370〜372ページ。松井他前掲書、152ページ。
 松井他前掲書は、現代でも、軍艦それ自体が沿岸国に脅威を与える可能性はあるとしている。
 我が国では、昭和29年
クリコフ船長事件札幌地方裁判所判決が折衷説を採用しているといわれている。
7:栗林前掲書、272ページ。また、山本前掲書、370ページ。
8:栗林前掲書、274ページ。また、『判例国際法』、142ページ。
 掃海活動は機雷原の撤去作業であり、沿岸国が海防上設置した機雷まで撤去されてはその国の防衛にも関わることから、無害通航と言えないとされたのであろう。
9:山本前掲書、373ページ。また、松井他前掲書、152ページ。
10:香西他前掲書、145ページ。
11:香西他前掲書、145ページ。
12:山本前掲書、374ページ。
 もっとも、今日では、潜水艦の魚雷発射管から発射するサブ・ハープーンやトマホーク、SS-N-26といった巡航ミサイルに核弾頭が搭載される場合もあり、トマホーク搭載艦は通常弾頭と核弾頭を共に装備できるので、潜在的な核兵器搭載艦艇にはなり得る。但し、アメリカ海軍は、冷戦終結後水上艦艇に配備したこれらの核兵器を全廃した(弾道ミサイル原潜のみ残存)。

■第6章 沿岸国の権利・権限

第1節 立法管轄権
 沿岸国は、その法益を守るために、(1)領海における無害通航の方法・基準・条件に関する法令制定権(立法管轄権)(航路帯・通航分離方式)を持つが(海洋法条約第21条・第22条)、(2)外国船舶の設計・構造・配乗・設備について国際規則基準を上回る重い規制を適用してはならない(海洋法条約第21条)。また、(3)沿岸国は、(特定役務の対価以外の)単なる通航の対価として課徴金を要求してはならない(海洋法条約第26条(※注1)

第2節 執行・司法管轄権(強制管轄権)
 沿岸国は、内水に立ち寄らないで領海を航行中の外国船舶について強制措置を発動できるが、無害通航権そのものまで否定出来ない(実質的に阻害してはならない。)(海洋法条約第24条@(※注2)
 船内犯罪については、(1)犯罪の結果が沿岸国に及ぶ場合(密輸、不法入国、汚染、安全保障)や平和・秩序を乱す場合、(2)船長・旗国外交官・旗国領事官の援助要請がある場合、(3)麻薬・向精神薬取引の阻止に必要な場合は沿岸国に、(4)それ以外は旗国刑事裁判権がある(※注3)沿岸国法益航行利益を比較衡量した結果である。

※注釈
1:
栗林前掲書、274ページ。また、山本前掲書、371ページ。
2:山本前掲書、372ページ。
3:山本前掲書、372ページ。


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