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第6編 海洋の区分(4):国際海峡

第1章 定義

 (1)公海公海、あるいは公海領海とを結び、(2)国際航行に使用される海峡は国際海峡International Straits)」と呼ばれ、海上交通路確保のため特別な制度が設けられている。国連海洋法条約では、これを「(1)公海または排他的経済水域の一部分と公海または排他的経済水域の他の部分との間にあって(=地理的基準(2)国際航行に使用される(=使用基準海峡」と定義している(海洋法条約第37条(※注1)
 「国際航行に使用される(which are used for)」とは(1)過去の使用実績から見て判断されるもので、地理的に国際航行に使用される(2)潜在的可能性を含まない。よって、公海たる紅海Red Sea)と、イスラエル・ヨルダン・エジプト・サウジアラビアの4ヶ国の領海に囲まれたアカバ湾Aqaba Bay)とを結ぶティラン海峡については、必ずしも通航権が保障されないことになる(※注2)(※注3)

※図1 国際海峡

国際海峡

 世界中の国際海峡の内、ジブラルタル海峡Estrecho de Gibraltar、大西洋と地中海を結ぶ)、コンスタンチノープル海峡(=ダーダネルス(Dardanelles)海峡及びボスポラス(Bosporus)海峡)、マゼラン海峡等の重要な海峡、バナマ運河スエズ運河キール運河等の海峡に準じる重要な運河は、特別条約(後述)によって通航制度が整えられたが、その他の海峡については、海洋法条約が適用される。

※注釈
1:
栗林前掲書、275ページ。また、山本前掲書、375ページ。香西他前掲書、146ページ。
2:山本前掲書、375ページ。
 但し、1967年の
国連安保理決議第242号は、この海域が国際的海域として承認されることを求めている。
3:後述する我が国
領海法上の「特定海域」は、この潜在的可能性を考慮して設定されている。

第2章 通過通航制度

第1節 経緯
 国連海洋法条約により領海幅が3カイリから12カイリに拡張された結果、それまで公海部分を自由通行すればよかった100ヶ所以上の国際海峡が沿岸国の領海となることが明らかとなった。しかし、そうなると、領海では船舶無害通航しか認められず、航空機公海上空飛行は認められない(沿岸国の裁量の下に置かれる)ことになってしまう。そこで、海洋における軍事戦略海上交通の自由を主張する先進諸国の主張により、(1)公海公海経済水域を含む)とを結ぶ国際海峡は、(原則として沿岸国の主権下にあるものの)すべての船舶・航空機に通過通航権(right of transit passageが認められることとなった(海洋法条約第38条(※注1)
 もっとも、(2)公海領海とを結ぶ国際海峡については、(従来の慣習国際法を変更して)沿岸国は単に無害通航権right of innocent passage)を停止してはならないとされるに留まった(海洋法条約第45条@(b)、A(※注2)。また、(3)海峡が本土と島で形成されており、航行上・水路上同様に便利な航路がその島の海側に存在する場合(※図2参照)は、そちら(下図の)を利用すればよいので、通過通行制度の適用は無く、単に領海の無害通航権(下図の)が保障されるのみである(※注3)。例えば、イタリアの本土とシシリー島との間のメッシナ海峡は、西側にがあるので通過通航制度適用されない

※図2 通過通航権が無い場合

通過通航権が無い場合

第2節 旗国の権利義務
 すべての船舶航空機は、継続的・迅速な通過のためにのみ行われる航行上空飛行の自由=通過通航権を有する(海洋法条約第38条)。潜水艦は、潜航したまま通航しても構わない(※注4)
 他方、通過通航制度を利用する船舶航空機は、以下の義務を負う(海洋法条約第39条)。

(1)海峡又はその上空を遅滞なく通過すること。
(2)武力による威嚇又は武力の行使を差し控えること。
  @海峡沿岸国の主権・領土保全・政治的独立に対するもの
  A国際法の諸原則に違反するもの
(3)不可抗力・遭難の場合を除いて、通過の通常の形態に付随する活
   動以外の如何なる活動も差し控えること。
(4)海上安全(衝突予防等)・船舶からの汚染防止のための国際的規
   則・方式の遵守(船舶の場合)
(5)国際民間航空機関が定める航空規則の遵守、航空管制当局によ
   り割り当てられた無線周波数又は国際遭難無線周波数の常時聴
   守(航空機の場合)

 なお、外国船舶は、沿岸国の事前の許可なしに調査活動測量活動を行うことが出来ない(海洋法条約第40条)。

第3節 沿岸国の権利(管轄権)
 沿岸国は、通過通航を妨害・停止してはならず、通航上の危険で自国が知っているものを公表する(海洋法条約第44条)。また沿岸国は、権限ある国際機関の関与を経て、海峡内に航路帯を指定し、分離通航方式を設定することが出来る(※注4)

※注釈
1:
栗林前掲書、276ページ。また、山本前掲書、376ページ。香西他前掲書、146ページ。松井他前掲書、153ページ。
2:前期
コルフ海峡事件では、国際司法裁判所の判決が、国際慣習法上、公海と領海を結ぶ国際海峡に外国軍艦無害通航権を有することを確認した。
3:栗林前掲書、276ページ。また、山本前掲書、376〜377ページ。香西他前掲書、146〜147ページ。
4:
香西他前掲書、146ページ。また、松井他前掲書、153ページ。

第3章 国際化された海峡・運河

第1節 海峡
 ダーダネルス(Dardanelles)海峡及びボスポラス(Bosporus)海峡(マルマラ海Marmara Deniziを経由して地中海Mediterranean Seaと黒海Black Seaを結ぶ)は、共に両岸がトルコ領になっているが、1936年のモントルー条約(海峡制度ニ関スル条約)(昭和12年条約第1号。但し、対日平和条約により我が国は一切の権利・利益を放棄)で通航制度が確立された(※注1)
 それによると、基本的に(1)商船通過・航行の自由が認められ(海峡制度条約第1条)、(2)非軍用航空機は海峡の禁止地帯以外に設けられた航空路を通過することとなった(海峡制度条約第23条)。(3)1923年のローザンヌ条約で設定されていた非武装地帯は廃止されたが、(4)海峡を同時に通過できる外国海軍兵力は1万5000トン又は9隻以内(黒海沿岸国を除く)とされ(海峡制度条約第14条)、(5)国際委員会への通報が要求された。(6)黒海内部では、外国海軍兵力は3万トン(黒海沿岸国の最強力艦隊の現存兵力が条約署名当時のそれ(=署名当時の最強力艦隊)より1万トン以上多い場合は、4万5000トンを上限としてその超過分も加算される)(海峡制度条約第18条@)に、(7)滞在時間は21日海峡制度条約第18条A)に、それぞれ制限された(※注2)。よって、例えばイギリス海軍のイラストリアス級軽空母(約2万トン)はそもそも海峡に侵入できない。一方、(8)黒海沿岸国は、これらの規定に関わらず軍艦を通過させることが出来るが、主力艦1隻につき水雷艇は2隻以下とされた(海峡制度条約第11条)。
 東西冷戦中は、地中海のアメリカ第6艦隊・NATO海軍と旧ソ連黒海艦隊が対峙していたが、現在では黒海艦隊はロシア連邦とウクライナに分割され、セバストーポリ軍港をロシアが租借しているのみで、軍事的緊張はむしろバルカン半島、キプロス島、中東を抱える東地中海へと移った。
 なお、この条約には、黒海沿岸国の他我が国、イギリス、ソ連(沿岸国)が参加したが、アメリカは参加していない。

第2節 国際運河

1、スエズ運河
 スエズ運河Suez Canalは、地中海と紅海、更にインド洋を結ぶ重要な航路であり、1869年にフランス人レセップスにより開削された。その後、「暴動鎮圧」を理由にイギリスが占領・基地を建設したが、1888年の「スエズ運河の自由航行に関する条約」(コンスタンチノープル条約)(エジプト、宗主国トルコ、その他7ヶ国で調印)により、全ての国の商船・軍艦に、平時・戦時を問わず開放された。条約は軍隊・軍艦の駐留、要塞の構築、及び運河内での戦闘行為を禁じ、交戦国艦船は互いに24時間の間隔を空けて出発しなければならず、管理権は万国スエズ運河公社が行使する(1956年にエジプトが国有化)ものとした(※注3)

2、パナマ運河
 パナマ運河Panama Canalは、南北米大陸の中央で太平洋とカリブ海(大西洋)を連絡する重要な航路で、1901年アメリカとイギリスのヘイ・ポンスフォート条約により自由通航・中立化が認められ、1903年、パナマ独立に伴ってヘイ・ヴァリラ条約に引き継がれた。但し、(1)ヘイ・ヴァリラ条約はアメリカ・パナマ間の閉鎖条約(第三国の加盟を認めない)で、諸外国はこの条約の反射的利益を受けるに過ぎず、(2)アメリカ合衆国のみが運河管理権を持ち、(3)運河地帯Canal Zone)を永久に租借し、(4)軍事警察権を持っていた(※注4)。この条約に伴ってアメリカは南方軍(USSOCOM)を運河周辺に配備し(司令部:クウォーリー・ハイツ)、フォート・クレイトンに陸軍1個旅団(約7000人)等を配置していた。
 しかし、1977年にはこれらにかわってパナマ運河条約及びパナマ運河の永久中立と運営に関する条約(パナマ運河永久中立条約)が新たに締結された。新条約では、(1)パナマ運河は全ての国の平和的航行に対して平等に開放されるとされ、(2)西暦2000年以降は運河管理権はパナマ共和国に委譲され、(3)運河地帯の租借地は返還され米軍部隊は撤収した。更に、附属議定書が全ての国の加入のために開放された。

3、キール運河
 キール運河Keil Canalは、ユトランド半島のドイツ連邦共和国領土を横断し、バルト海と北海を短絡する運河だが、1919年のベルサイユ条約第380条で自由通航が認められ、1923年8月17日のウィンブルドン号事件(判例国際法17事件)常設国際司法裁判所(PCIJ)判決もこれを認めた(※注5)。その後、ドイツは一旦は1936年にこれを廃棄したが、現在、同国はこれを開放している(※注6)

※注釈
1:
栗林前掲書、275ページ。また、
  高須廣一「トルコ共和国海軍の発足とその推移」『世界の艦船』2000年9月号、77ページ。
2:高須前掲書、78〜79ページ、他。
3:栗林前掲書、241〜242ページ。また、香西他前掲書、141ページ。
4:栗林前掲書、242ページ。また、香西他前掲書、142ページ。
5:『判例国際法』、74ページ。
6:栗林前掲書、243ページ。

第4章 我が国の対応:特定海域

第1節 経緯
 我が国は、1977年の「領海法」で従来の領海3カイリ制度を12カイリに改めたが、付則第2項により、特定海域については、当分の間3カイリ制度を維持し、具体的な基線は同第3項により政令で定めることとしている(※注1)。この制度は、直線基線が採用されたあとも維持されている。これは、これらの海峡を領海としておくと、米ソ両海軍の核兵器を搭載した艦艇の領海通航を事実上認めざるを得ず(海上自衛隊等で阻止行動に出るわけにもいかないので)、非核三原則と抵触する惧れがあったからである、といわれている(※注2)
 なお、核兵器搭載艦艇の領海通航については、1968年4月17日第58国会・衆議院外務委員会において、三木武夫・外務大臣(当時)は以下のように答弁し、それが「無害通航」とは言えない、との見解を示している(※注3)

三木国務大臣「無害通航権は一般的な権利をして認められておるわけでありますから、これをむやみに制限するということはよくない。しかし、いま御指摘のように、無害通航権というものには、沿岸国の平和、秩序、安全を害さないという前提があるわけでありますから、何でもかんでも無害通航は認めなければならぬという性質のものだとは考えられません。したがって、一般的な軍艦についての通告制度というものについては、もう少し検討をしてみたい。これに対してはいろいろな実際の場合に照らしてみて検討を加えたいと思うのであります。
 しかし、いま御指摘にもありましたように、
常時核兵器を装備しているポラリス潜水艦、あるいはまたポラリスといわなくても、これに類似の軍艦というものは、これはやはり軍艦の通過というものが無害だとは考えていないのであります。したがって、これは原則的に断わるという考えでございます。しかし、アメリカの場合は、日本及び極東の安全のために行動するという日米安保条約のたてまえからして、特別の配慮が必要であると考えております。しかしながら、実際問題として、アメリカのポラリス潜水艦が浮上して領海を通るような場合は、実際のケースとしてはほとんど考えられないと思っております。ましてや、ほかの国はなおさらそうだと思うのであります。したがって、実際の問題としては、そういうケースが起こる場合はほとんど考えられませんが、たてまえとしての政府の考え方はいま申したような点でございます。」

 これらの海域は我が国の措置により公海となっており、自由通航が認められているのであって、前期の国際海峡の通過通航制度を適用しているのではない。
 「領海法」が指定する特定海域は、(1)宗谷海峡(2)津軽海峡(3)対馬海峡西水道及び(4)東水道(5)大隅海峡の5ヶ所である。

第2節 宗谷海峡
 宗谷海峡は、樺太(1952年サンフランシスコ対日平和条約で我が国は放棄)と北海道に挟まれ、日本海(Japan Sea)とオホーツク(Okhotskoe)海を結ぶ海峡である。なお、直線基線の採用により、礼文島・利尻島は内水に含まれる。

※図3 宗谷海峡の領海及び内水(★)


色の海域は内水/内海、色の海域は領海である。

第3節 津軽海峡
 津軽海峡は、本州(青森県)と北海道に挟まれ、日本海と太平洋を結ぶ海峡である。かつて東西冷戦時代には、旧ソ連太平洋艦隊の艦船が頻繁に海峡を通過したが、現在では時折ロシア海軍と中国海軍の艦船が通過するのみである。なお、図のように津軽海峡それ自体は公海(経済水域)となっているが、青函トンネルについては我が国の主権が及ぶ。

※図3 宗谷海峡の領海及び内水(★)

第4節 対馬海峡西水道及び東水道
 対馬海峡は、本州と対馬、対馬と韓国に挟まれ、日本海と東シナ海を結ぶ海峡である。かつて東西冷戦時代には、ここも又旧ソ連太平洋艦隊の艦船が頻繁に海峡を通過したが、現在では時折ロシア海軍と中国海軍の艦船が通過するのみである。

※図4 対馬海峡の領海及び内水(★)

第5節 大隅海峡
 大隅海峡は、九州本島と種子島・屋久島に囲まれた、太平洋と東シナ海を結ぶ海峡である。

※図4 対馬海峡の領海及び内水(★)

※注釈
1:
栗林前掲書、276ページ。また、
  
栗林忠男 「海洋法の発展と日本」『日本と国際法の100年 (3)海』 三省堂、2001年 15ページ。
2:松井他前掲書、172ページ。
3:吉井前掲書、47ページ。なお、答弁中「ポラリス潜水艦」とあるのは、アメリカの第一世代型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM、戦略核兵器)であるポラリスA-3型を登載した原子力弾道ミサイル潜水艦(SSBN)のことである。
★:海上保安庁水路部ホームページより引用。


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