少年法改正に賛同する
〜説得力を欠く改正反対論〜

中島 健

1、はじめに
 自民、公明、保守の連立与党3党は9月12日、少年法改正に関するプロジェクトチームの会合で、臨時国会に提出する少年法改正案の議員立法案を決定し、提出した。この改正案の要点は、(1)検察官送致(逆送)の対象年齢を、従来の「16歳以上」から刑法上の可罰年齢である「14歳以上」に引き下げる(2)殺人や傷害致死など故意に生命を奪う犯罪(交通事件等における過失致死は除く)を犯した16歳以上の少年については、原則として家庭裁判所から検察官に逆送致し刑事裁判を受けさせる(「原則逆送」)、(3)重大犯罪についての家庭裁判所の決定による検察官の関与(4)被害者への情報公開等となっており、実現すれば少年法制定以来の大改正となる。法案は既に臨時国会に提出されているが、折りからの参議院に非拘束名簿方式を導入する公職選挙法改正案を巡る与野党の対立で野党4党が審議拒否戦術に出たため、10月21日になってようやく実質審議が可能となった状態で、10月31日には衆議院で自民・公明・保守・民主・自由の与野党5党の賛成多数で可決され、参議院に送られた(民主党は、反対派の法務委員会委員3人を差し替えて賛成にまわったが、一部議員が本会議での採決の際、退席した)。もっとも、審議拒否中も与党だけで開催された衆議院法務委員会では、神戸児童連続殺傷事件(酒鬼薔薇事件)や山形マット死事件の被害者の遺族が参考人として招致され、改正の必要性を強調した証言を行っている。

※参考:少年法改正法案(抜粋)
●第二章第一節中第五条の次に次の二条を加える。  
 第五条の二(被害者等による記録の閲覧及び謄写)
 裁判所は、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る保護事件について、第二十一条の決定があつた後、最高裁判所規則の定めるところにより当該保護事件の被害者等(被害者又はその法定代理人若しくは被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下この項及び第三十一条の二において同じ。)又は被害者等から委託を受けた弁護士から、その保管する
当該保護事件の記録(当該保護事件の非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)に係る部分に限る。)の閲覧又は謄写の申出があるときは、当該被害者等の損害賠償請求権の行使のために必要があると認める場合その他正当な理由がある場合であつて、少年の健全な育成に対する影響、事件の性質、調査又は審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるときは、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせることができる。第三条第一項第二号に掲げる少年に係る保護事件についても、同様とする。
 2 前項の申出は、その申出に係る保護事件を終局させる決定が確定した後三年を経過したときは、することができない。
 3 第一項の規定により記録の閲覧又は謄写をした者は、正当な理由がないのに閲覧又は謄写により知り得た少年の氏名その他少年の身上に関する事項を漏らしてはならず、かつ、閲覧又は謄写により知り得た事項をみだりに用いて、
少年の健全な育成を妨げ関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し、又は調査若しくは審判に支障を生じさせる行為をしてはならない
●第九条の次に次の一条を加える。  
 第九条の二(被害者等の申出による意見の聴取)
 家庭裁判所は、最高裁判所規則の定めるところにより第三条第一項第一号又は第二号に掲げる少年に係る事件の被害者又はその法定代理人若しくは被害者が死亡した場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹から、
被害に関する心情その他の事件に関する意見の陳述の申出があるときは、自らこれを聴取し、又は家庭裁判所調査官に命じてこれを聴取させるものとする。ただし、事件の性質、調査又は審判の状況その他の事情を考慮して、相当でないと認めるときは、この限りでない
●第十七条第三項の次に次の二項を加える。
 4 前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、更に
二回を限度として、行うことができる
 5 第三項ただし書の規定にかかわらず、検察官から再び送致を受けた事件が先に第一項第二号の措置がとられ、又は勾留状が発せられた事件であるときは、収容の期間は、これを更新することができない。
●第十七条に次の二項を加える。
 9 第一項第二号の措置については、収容の期間は、通じて
八週間を超えることができない。ただし、その収容の期間が通じて四週間を超えることとなる決定を行うときは、第四項ただし書に規定する事由がなければならない。
●第十七条の次に次の二条を加える。  
第十七条の二(異議の申立て)
 少年、その法定代理人又は付添人は、前条第一項第二号又は第三項ただし書の決定に対して、保護事件の係属する家庭裁判所に異議の申立てをすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、異議の申立てをすることができない。
 2 前項の異議の申立ては、審判に付すべき事由がないことを理由としてすることはできない。
 3 第一項の異議の申立てについては、家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。この場合において、その決定には、原決定に関与した裁判官は、関与することができない。
 4 第三十二条の三 第三十三条及び第三十四条の規定は、第一項の異議の申立てがあつた場合について準用する。この場合において、第三十三条第二項中「取り消して、事件を原裁判所に差し戻し、又は他の家庭裁判所に移送しなければならない」とあるのは、「取り消し、必要があるときは、更に裁判をしなければならない」と読み替えるものとする。  
第十七条の三(特別抗告)
 第三十五条第一項の規定は、前条第三項の決定について準用する。この場合において、第三十五条第一項中「二週間」とあるのは、「五日」と読み替えるものとする。
 2 前条第四項及び第三十二条の二の規定は、前項の規定による抗告があつた場合について準用する。
第二十条ただし書を削り、次の一項を加える(「原則逆送」)。
 2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、
故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
●第二十二条第一項中「なごやかに、これを行わなければならない」を次のように改め、更に第3項を加える。
「和やかに行うとともに、
非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない」
 3 審判の指揮は、裁判長が行う。
第二十二条の次に次の二条を加える。
第二十二条の二(検察官の関与)
 家庭裁判所は、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る事件であつて、次に掲げる罪のものにおいて、その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは、決定をもつて、
審判に検察官を出席させることができる
  一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
  二 前号に掲げるもののほか、死刑又は無期若しくは短期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪
 2 家庭裁判所は、前項の決定をするには、検察官の申出がある場合を除き、あらかじめ、検察官の意見を聴かなければならない。
 3 検察官は、第一項の決定があつた事件において、その非行事実の認定に資するため必要な限度で、最高裁判所規則の定めるところにより、事件の記録及び証拠物を閲覧し及び謄写し、審判の手続(事件を終局させる決定の告知を含む。 ) に立ち会い、少年及び証人その他の関係人に発問し、並びに意見を述べることができる。
第二十二条の三(検察官が関与する場合の国選付添人
 家庭裁判所は、前条第一項の決定をした場合において、少年に弁護士である付添人がないときは、弁護士である付添人を付さなければならない。
 2 前項の規定により家庭裁判所が付すべき付添人は、最高裁判所規則の定めるところにより、選任するものとする。
 3 前項の規定により選任された付添人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。
●第二十五条の次に次の一条を加える。
第二十五条の二(
保護者に対する措置
 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、保護者に対し、少年の監護に関する責任を自覚させ、その非行を防止するため、調査又は審判において、自ら
訓戒、指導その他の適当な措置をとり、又は家庭裁判所調査官に命じてこれらの措置をとらせることができる。
●第二章第二節中第三十一条の次に次の一条を加える。
第三十一条の二(被害者等に対する通知
 家庭裁判所は、第三条第一項第一号又は第二号に掲げる少年に係る事件を終局させる決定をした場合において、最高裁判所規則の定めるところにより当該事件の被害者等から申出があるときは、その申出をした者に対し、次に掲げる事項を通知するものとする。ただし、その通知をすることが少年の健全な育成を妨げるおそれがあり相当でないと認められるものについては、この限りでない。
  一 
少年及びその法定代理人の氏名及び住居
  二 
決定の年月日、主文及び理由の要旨
 2 前項の申出は、同項に規定する決定が確定した後三年を経過したときは、することができない。
 3 第五条の二第三項の規定は、第一項の規定により通知を受けた者について、準用する。
第五十一条中「無期刑を科し、無期刑をもつて処断すべきときは、十年以上十五年以下において、懲役又は禁錮を科する」を「無期刑を科する」に改め、同条に次の一項を加える。
 2 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、無期刑をもつて処断すべきときであつても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、十年以上十五年以下において言い渡す。
●第五十六条第一項中「言渡」を「言渡し」に改め、「少年」の下に「(第三項の規定により少年院において刑の執行を受ける者を除く。)」を加え、同条に次の一項を加える。
 3 懲役又は禁錮の言渡しを受けた十六歳に満たない少年に対しては、刑法第十二条第二項又は第十三条第二項の規定にかかわらず、十六歳に達するまでの間、
少年院において、その刑を執行することができる。この場合において、その少年には、矯正教育を授ける。

2、少年法問題の核心
1、根強い「改正反対」の主張
 ところで、こうした少年法のいわゆる「厳罰化」 に対しては、なお根強い反対論がある。
 例えば、「朝日新聞」は、この問題が国会に上がって以来「少年法改正を考える」と題した連載記事を掲載しており、現場の家裁裁判官や少年院関係者の声を反映させ、「厳罰化は少年の更正や犯罪予防に役立たない」「少年犯罪は凶悪化していない」「『少年に愛と光を』という少年法の理念に反する」といった意見が連日掲載されている。その他、法学の視点からは、「福祉的な行政処分である審判に訴追官たる検察官を関与させるのはおかしい」「刑務所では少年を処遇する設備が不十分」といった論点も出されている。更に、国会では、与党三党の他民主党、自由党が改正に賛成(自由党はより踏み込んだ改正案を提案)している中で、社会民主党と日本共産党が強力な反対論を主張している。
 だが、これらの反対論は、いずれも
議論の地平を違い、説得力を欠くものと言わなければなるまい。何故ならば、現在の与党改正案が目指しているのは、そうした理念そのものの改正ではなくて、その適用対象に関するものだからである。

2、少年法の真の問題点
 現在の少年法の真の問題点は、それが
加害者が「少年である」という理由だけで、紛争それ自体=被害者が蒙る被害を全く捨象した保護処分の決定が為されている点にある。
 そもそも、少年法上の「保護処分」とは、本質的には
行政処分の一種であり、つきつめて言えば自動車運転免許の発行や飲食店開業許可と同じ種類のものである。例えば、飲食店の営業許可について考えて見よう。もし、許可を受けた飲食店で食中毒が発生したとき、地区の保健所は、その店に対して出した営業許可を取消す行政処分を行う。しかし、この行政処分は、その飲食店が「食中毒を出す」という「悪いこと」を「した」から行われたのではなくて、「今後も」その飲食店が「また食中毒を出すかもしれ」ず、それをそのまま放置すると住民の健康を守れないから、取消処分を下したのである。ここが、「過去に起きた具体的な紛争を法的権利義務関係に再構成し、実定法を解釈適用して紛争を処理する」裁判との大きな違いである。つまり、裁判が、過去の紛争を法的に処理するものであるのに対して、行政処分は、特定の行政目的達成のために、同種の事態の将来に向けた再発防止を目的として、具体的事実に関して権力的に規制を加える行為なのである。だから、少年法を適用する家庭裁判所の少年審判廷においては、裁判官は司法官としてよりもむしろ少年福祉行政の担い手(行政官)として、犯罪を犯した少年と向き合って着席し、あたかも実の親の如く、少年との対話の中から、将来に向けた再教育のあり方を探るようになっている。これは、原告と被告が双方の言い分を主張し、中立公平な第三者である裁判官がそれに対する判断を示す通常の裁判とは大きく異なるものである。

※表 保護処分と刑罰の相違

  本質 本質 類例
保護処分 行政処分 将来に向けた再発防止
(行政目的の達成)
破壊活動防止法上の解散処分
飲食店の営業許可取消処分
刑 罰 司法裁判 過去の紛争の法的処理
(犯罪行為の非難・制裁)
裁判

 これを、少年法の問題に置き換えて見ると、次のようなことが言える。即ち、行政処分である保護処分は、その少年が、将来に向けて再び非行に走ることの無いように、即ち再発防止を主要な目的としているため、その少年が過去に起こした犯罪行為被害者との紛争を処理するという視点が全く欠落している。それ故、現行の少年法の下では、被害を受けた者は法的にはほとんど救済されないことになり、また少年保護に携わる現場の専門家も、「紛争の処理」という司法制度の根本的な使命を忘れて、ひたすら「少年の保護」ばかりを主張する、ということになるである。勿論、被害者としては、不法行為に対する損害賠償請求として民事訴訟を提起することは出来よう。しかし、民事訴訟において提示可能な「処理策」とは賠償金の支払いだけ(厳密には、この他にも「謝罪広告の掲載」があり得るが、民法は金銭賠償主義をとっており、名誉毀損事件でもなければこうした処置を命ずる判決は期待できない)であり、紛争の本質(例えば、生命侵害)に対する「処理策」としてはあまりにも「解決されざる側面」が大きすぎる。「金を貰えば気が済むというものではない」のである。そしてそれ故に、少年犯罪の被害者達は、より本質的な「正義の回復」として、「刑罰」を望むのである。これは、加害者が未熟であろうとなかろうと、心身喪失者であろうとなかろうと、大人であろうと子供であろうと変わることが無い。何故ならば、その犯罪行為という「紛争」の本質は、加害者が誰であろうと全く変わらないのであって、故に、それを「裁判」によって処理する必要性も又不変だからである。
 そして、この「保護処分」と「裁判」との落差が特に問題となるのが、殺人等の重大な少年犯罪の場合においてである。例えば、もし私が、少年の万引き(窃盗罪)の被害者になったとしよう。そのとき、私は次のように考えるであろう。即ち、万引き程度の軽い犯罪(とはいえ、軽い犯罪を繰り返すことはより重大な犯罪を犯す前提となるから、決して無罪放免するわけにはいかないが)ならば、被害者が蒙る財産的損害は民事訴訟の賠償金で補填し得るし、被害も軽微である。であるならば、私が蒙った損害に目をつぶって犯人の少年を「赦し」(=「法の下の平等」に反して刑事手続の適用を免除し)、その少年の更正と将来のため、少年法の理念に従った保護処分を受けさせてもよい、と。しかし、もし私が(あるいは私の家族が)、少年の殺人事件の被害者になったとしたらどうだろうか。「殺人(生命侵害)」という重大な損害を蒙ってもなお、「可塑性に富む」彼の将来を案じて犯人の少年を「赦し」、彼に刑事手続を受けさせないこと=たかだか行政処分に過ぎない保護処分を甘受しなければならないのか。それとも、「殺人」は「窃盗」と違って取り返しがつかない侵害であり、
「斯くの如き重大な損害を受忍してまで、少年法の理念を受け入れるべき道理は無い」として、少年を刑事法廷に送致するのか。つまり、我々が少年犯罪被害者の当事者となったときに、どこまで自分自身を犠牲にして、刑罰による紛争処理を回避させ、非行少年を「赦す」ことが出来るのか(「赦す」べきなのか)。加害少年の住所氏名すら「知ることを我慢」すべきなのか。これこそが、現在問い直されている「少年法問題」なのである。

3、不十分な現行少年法
 無論、現行少年法も、例えば「検察官送致」という形で、16歳以上の少年に限っては刑事裁判に付することも出来るようになっている。しかし、「検察官送致」は少年審判が実質的に始まる前の段階で家裁裁判官によって決められてしまう(決めなければならない)こともあって、実際に逆送されるのはごく僅かの例に過ぎないし、殺人事件であっても、加害者少年は必ずしも逆送されない。犯罪事実の認定の前に刑事処分か行政処分かを選択させること自体、そもそも不備ある立法なのであるが、恐らく、この背後には「少年審判は一種の行政処分で、刑事手続とは異なるから、審判の前に逆送するかどうか決めなければならない」という思想があるものと思われるが、そうであればそもそも「少年審判は行政処分」という考え方自体誤りというべきであろう。実際に成人の刑事裁判の方式をそのまま導入するかどうかはともかく、原則として事実認定等については少年も「刑事手続」の一環としての「裁判」を受け、しかる後に、「保護処分で足りる」と思われる被告少年を少年院に送致するなり刑務所に引き渡すなりする・・・これこそが、本来のあるべき姿なのではないだろうか。今必要なのは、行政処分としての少年審判を規定する「少年法」ではなく、少年に対する刑事裁判に関し種々の特例を設ける「少年事件訴訟法」であろう。
 また、被害者に対する情報公開が全く不十分なのは、言うまでも無い。よく知られているように、保護処分の対象となる少年の氏名や犯行の状況は一切伏せられたままだし、審判を傍聴することも、出席して意見を述べることも出来ない。これまでは、わずかに被害者側が民事訴訟を提起した場合に限り、一部の情報(犯行状況等)を知る事が出来たに過ぎなかった。無論、こうした問題に対しても、一部の改正反対派は「被害者はこれを受忍すべき」と主張しているが、到底妥当な主張とは思われない。

4、「虞犯少年」の段階でどんどん保護せよ
 更に、現在の
少年法には、対象となる「非行少年」の中に、「犯罪少年」(14歳以上で犯罪行為をした者)(少年法第3条1項1号)、「触法少年」(14歳未満で刑事無責任だが犯罪行為をした者)(少年法第3条1項2号)の他に「虞犯少年(ぐはんしょうねん)」(少年法第3条1項3号)なるカテゴリーを設けている。「虞犯少年」とは、文字通り「罪を犯す虞(おそれ)のある少年」のことだが、彼らは発見されれば児童相談所に通告され、あるいは直接家庭裁判所に通告・送致される。そして、法制度上は、最も重い場合、「犯罪少年」と同じく少年院送致処分を下される場合もある。つまり、少年法は本来、少年を未成年者であるとして「寛大な扱い」をする一方で、少しでも犯罪の傾向のある者を、早いうちから保護処分に付することが出来るようになっているのである。
 例えば、「虞犯少年」について定義した少年法第3条第1項第3号は、「保護者の正当な監督に服しない性癖」、「正当の理由がなく家庭に寄り附かない」、「犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入」、「自己又は他人の特性を害する行為をする性癖」があるといった理由だけで家庭裁判所の審判に付することが出来るとしており、考えようによっては、大人より遥かに厳しい内容となっている(成人であれば、単に「いかがわしい場所に出入」りしたから、「将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる好意をする虞」があるとして逮捕されることはない)。この条文の定義からすれば、「家出をした少女」や「言う事をきかない悪い子」、「暴力団事務所に屯していた暴走族」、「風俗営業で不法に働いていた女子高生」、「たばこを吸っていた中学生」はことごとく家庭裁判所に送致され、処分を受けることになるだろうし、それでよいはずである。何故ならば、
なるべく罪が軽い内にこれを矯正することこそが、少年本人にとって真の意味での「更正」だからである。恐らく、少年法の理念からすれば、本来は、こうした「虞犯少年」をどんどん審判に送致することが必要なのであろうが、実際には、審判を受ける少年のうち「虞犯少年」は数%に過ぎない(平成5年度の少年院収容者数で3.7%)。

※参考資料
少年法第1条(この法律の目的)
 「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して正確の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」
少年法第20条(検察官への送致)
 「家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮にあたる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。但し、送致のとき十六歳に満たない少年の事件については、これを検察官に送致することはできない。 」
少年法第22条(審判の方式)
「@審判は、懇切を旨として、なごやかに、これを行わなければならない。 A審判は、これを公開しない。」
少年法第3条(審判に付すべき少年)
「@次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
 一 罪を犯した少年
 二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
 三 次に掲げる事由があつて、その正確又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
  イ 保護者の正当な監督に服しない性癖にあること。
  ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
  ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
  ニ 自己又は他人の特性を害する行為をする性癖のあること。
A 家庭裁判所は、前項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、これを審判に付することができる。 」

3、説得力を欠く改正反対論
 さて、以上の点を踏まえたとき、現在の
改正反対論はいずれも何等説得力を持たないことは明らかであろう。
 例えば、よくある反対論に「厳罰化は少年の更正や犯罪予防に役立たない」「国親思想に反する」というものがある。なるほど、確かに「厳罰化」は必ずしも刑事政策上の得策ではなく、むしろダイバージョン(なるべく軽い処罰で済ますこと)によってこそ、犯罪発生率は低下するのかもしれない。しかし、現在議論されている改正問題は、そうした
刑事政策上のメリット・デメリットを問題としていない。早い話、「自らの生命を犠牲にしてまで少年を赦さなくてもよい」ことが最大の正義なのであって、例え法改正で少年犯罪が増えたり更正が上手く行かなくなったとしても、構わないのである。何故ならば、現行少年法は、そうした「国親思想」なる保護主義にあまりにも偏りすぎるあまり、「過去におきた紛争の法的処理」という司法制度の根本的任務を少年事件についてほとんど放棄しており、その結果、少年犯罪被害者を中心にそうした「助けにならない」現行法制度に対する信頼そのものがぐらついているが為に出てきた議論だからである。このように、少年法問題を単なる刑事政策上のメリット・デメリットとしか捉えられていないところに、改正反対論者の根本的な視野狭窄がある。
 また、「『少年に愛と光を』という少年法の理念に反する」という意見があるが、この文言の妥当性はさておくとしても、現在の与党改正案では
この理念を真っ向から否定しているわけではない。ただ、この理念によって被害者に強いる負担を軽減しようとしているだけである。もし、軽犯罪から凶悪犯罪まで、あらゆる場合に加害少年を赦免すべきと主張するのであれば、改正反対派は、まずは凶悪少年犯罪の被害者に対して「何故、肉親を殺した加害少年を愛しなければならないのか(法的紛争処理をあきらめねばならないのか)」を説得する義務がある。無論、現場の更正関係者からすれば、自らの専門である少年の保護更正を第一に優先したい気持ちが強いのだろうが、こうした専門家の見解は、(それなりに尊重するとしても)改正反対論の究極的な理由とはなり得ない。何故ならば、前述したように、今回の改正は、本質的には刑事政策上のメリットを求めて為されているものではないし、故に刑事政策の専門家は却って視野狭窄に陥っている可能性が高いからである。一部報道の中では、「厳罰化」を求める世論を専門的見地から批判するものも見られるが、無論世論をたしなめることはあってもいいにせよ、世論が沸騰した原因を探らないでは、専門家の批判も「焼石に水」である。これは、同じ問題を「軍事」の分野で論じてみればわかりやすいだろう。例えば、純粋な軍事的な思考からすれば、我が国が核兵器を持つことは即ち我が国の軍事力を高めることにつながり、「制服組」と呼ばれる現場自衛官は賛成するかもしれない。しかし、問題はそれほど単純ではなく、「軍事の専門家」たる現場自衛官の声だけが唯一の正解ではない。少年法改正問題も又、同じである。
 その他の反対論も、総じて
枝葉末節を論じるものである。例えば、「少年犯罪は凶悪化していない」というのもその典型であるし、「刑務所では少年を処遇する設備が不十分」というのも、反対論としては全く無意味である(不十分であれば、少年院の運営に使っていた予算を投じて設備を充実させればよい)。「福祉的な行政処分である審判に訴追官たる検察官を関与させるのはおかしい」というのも一面的な理解であり、「法の正しい執行」に関与すべき検察官の職務(現行制度上、検察官は、刑事事件の公訴提起だけでなく、一定の事項については、民事事件にも関与している)からすれば、むしろ関与が当然であろう。

4、与党改正案の意味するもの
 では、以上の観点から、現在の与党改正案はどのような意味があるのであろうか。
 今回の与党案の最大の焦点は、言うまでもなく故意の殺人に関して「原則逆送」(つまり、原則として刑事処分を相当とする)を認めている点である。つまり、与党案には「国民の皆さん、非行少年を赦してあげることは大切だが、自分の命を犠牲にしてまで赦すことはないですよ」とのメッセージが込められているのであり、そしてこの考え方は極めて妥当である。
 ただ、現在の与党案にも、問題が全く無いわけではない。それは、「
例外規定が多すぎる」(家裁の裁量が多すぎる)ということである。例えば、改正後の第31条の2は、被害者が加害少年本人及びその親の住所氏名、保護処分決定の内容等を知ることが出来るようにした画期的な規定だが、「少年の健全な育成を妨げるおそれがあり相当でないと認められるものについては、この限りでない。」として、裁判所の裁量を認めている。しかし、既に少年事件に対しては、検察官逆送を定めた第20条が、本来は「原則逆送」的な文言で規定されているにもかかわらず、実際には現場(少年保護)関係者の「信念」によって「原則不逆送」的な扱いをされており、「少年の更正」を錦の御旗とした超拡大解釈が行われている。改正法の第31条の2についても同じ危険があり、裁判官が「少年の健全な育成を妨げるおそれがある」等とのたまって被害者の「知る権利」を容易に踏みにじる可能性が高い。それも、結局は裁判官個人の心証で「妨げるおそれあり」と判断しているに過ぎないのであって、その根拠を具体的・科学的に示すことは要求されていない。つまり、裁判官の胸三寸で、被害者を改正前と同じ状況に置けるのであり、これでは改正の趣旨を没却することになろう。同じことは、被害者の意見陳述権を定めた改正法第9条の2についても言えることで、「事件の性質、調査又は審判の状況その他の事情を考慮して、相当でない」等という理由で、折角の意見陳述権を反故にされる可能性が大いにあるのである。第一、「被害者が被害の心情を訴えると、加害少年の更正に支障をきたす」などという事態があり得るのであろうか。むしろ、被害者の心情を加害少年が聞かないことのほうが、遥かに「少年の健全な育成を妨げるおそれがあ」るのではないだろうか。この部分については、但書を削除し、どんな場合であっても被害者の意見陳述権と「知る権利」が保障されるようにすることを求めたい。
 もっとも、こうした問題点があるとはいえ、現在の与党改正案が現行法よりも遥かに優れていることは確かである。国会は10月下旬になってようやく正常化して実質審議に入ったが、参議院での改正案の早期成立を願って止まない。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


目次に戻る 記事内容別分類へ

製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
 
©KENRONKAI/Takeshi Nakajima 2000 All Rights Reserved.