日本の階級呼称
〜自衛隊・海保・警察・消防・監獄・判事・検事・外交官の官名〜

中島 健

1、はじめに
 現在、我が国の公務員の中には、その職務の特質上、一定の階級を持った官吏が存在している。階級呼称で一番よく知られているのが警察官の階級だが、実際にはこの他にも、海上保安官や刑務官、入国警備官、判事(裁判官)、検事(検察官)、外交官にも独特の階級呼称があり、興味深い。
 そこで、今回は、そうした官吏の階級呼称を見て行きたい。

2、軍事組織の階級呼称
 我が国の軍事組織の階級呼称は、戦前の陸海軍は諸外国とほぼ同様のものを採用しているが、戦後の警察予備隊海上警備隊保安隊警備隊及び自衛隊は、「軍」の保持を禁じた憲法上の制約から、特異な階級呼称を採用している。例えば、警察予備隊は、兵にあたる階級が「警査」という造語(「巡査」を元にしたのであろう)で、下士官が「警察士補」、幹部士官が「警察士」「警察正」「警察監」といずれも「警察」を全面に打ち出している(もっとも、初期の警察予備隊では応募した全員が「警査」だったという)。「○○正」「○○監」という名称は、後に見る警察官や消防官といった文民の組織にいかにも似ている。同時期に発足した海上警備隊のほうは、「兵」にあたる階級を「警備査」とするわけにもいかず、結局「海上警備員」という、民間人っぽい野暮ったい名称になっている。さすがにこれは不評だったのか、保安庁が設置されて海上警備隊が警備隊になると、警察予備隊が保安隊になり、「兵」の階級が「警査」から「保査」になったのを奇貨として?、「海上警備員」を「警査」に改めている。
 海上保安庁は、法律上明文で「軍事組織ではない」と規定しており(海上保安庁法第25条)、実際の職務も警察的であるが、軍事組織形態をとるアメリカの沿岸警備隊を手本としたこと、海上警備隊を持っていたこと等の名残から、海上警備隊と保安隊が混ざったような、軍事組織的な階級呼称になっている。

※表1 我が国の軍事組織・準軍事組織の階級呼称

  陸軍 海軍 総理府
警察予備隊
海上保安庁
海上警備隊
保安庁
保安隊
保安庁
警備隊
防衛庁
自衛隊
海上保安庁
幹部 陸軍大将
General
海軍大将
Admiral
        統幕会議
議長・幕僚
長たる将
長 官
陸軍中将
Lieutenant
General
海軍中将
Vice
Admiral
警察監 海上警備監 保安監 警備監 次 長
警備救難監
一等海上保安監(甲)
陸軍少将
Major
General
海軍少将
Rear
Admiral
警察監補 海上警備監補 保安監補 警備監補 将 補 一等海上保安監(乙)
陸軍大佐
Colonel
海軍大佐
Captain
一等警察正 一等海上警備正 一等保安正 一等警備正 一 佐 二等海上保安監
陸軍中佐
Lieut. Col.
海軍中佐
Commander
二等警察正 二等海上警備正 二等保安正 二等警備正 二 佐 三等海上保安監
陸軍少佐
Major
海軍少佐
Major
三等警察正 三等海上警備正 三等保安正 三等警備正 三 佐 一等海上保安正
陸軍大尉
Captain
海軍大尉
Lieutenant
一等警察士 一等海上警備士 一等保安士 一等警備士 一 尉 二等海上保安正
陸軍中尉
First Lt.
海軍中尉
Lt. Junior grade
二等警察士 二等海上警備士 二等保安士 二等警備士 二 尉  
陸軍少尉
Second Lt.
海軍少尉
Ensign
三等警察士 三等海上警備士 三等保安士 三等警備士 三 尉 三等海上保安正
准尉 陸軍准尉
Warrant
Officer
兵曹長
Warrant
Officer
        准 尉  

(下
士官)
曹 長 上等兵曹 一等警察士補 一等海上警備士補 一等保安士補 一等警備士補 曹 長 一等海上保安士
軍 曹 一等兵曹 二等警察士補 二等海上警備士補 二等保安士補 二等警備士補 一 曹 二等海上保安士
伍 長 二等兵曹 三等警察士補 三等海上警備士補 三等保安士補 三等警備士補 二 曹 三等海上保安士
            三 曹  

(兵)
兵 長 水兵長 警査長 海上警備員長 保査長 警査長 士 長 一等海上保安士補
上等兵 上等水兵 一等警査 一等海上警備員 一等保査 一等警査 一 士 二等海上保安士補
一等兵 一等水兵 二等警査 二等海上警備員 二等保査 二等警査 二 士 三等海上保安士補
二等兵 二等水兵   三等海上警備員   三等警査 三 士  

3、警察・消防組織の階級呼称
 我が国の警察・消防等の組織の内、階級制度を持っているのは警察官・皇宮護衛官(国家公安委員会)、消防官(自治省消防庁)、刑務官(法務省矯正管区)、入国警備官(法務省入国管理局)の4つである。
 警察官・皇宮護衛官の階級呼称は、刑事ドラマや推理小説でもお馴染みであり、「警部」や「警視」が主役となっているものも多い。最近ヒットしたテレビドラマ「踊る大捜査線」では、警察組織における上下の意思疎通の難しさをよく表わしていた。ただ、「警視正」以上の階級、即ち「警視長」と「警視監」の2つについては、あまり馴染みが無いのではないだろうか。「警視監」は各道府県警察本部長の、「警視総監」は警視庁(即ち東京都警察)のトップの階級である(警視総監は官名であるとともに職名でもある)。警察官は「司法警察職員」だが、これには自衛隊でいう「幹部」にあたる「司法警察員」と、「曹士」にあたる「司法巡査」がある(警察法第62条)。
 翻って、消防官の階級呼称は、消防マニアでもない限りあまり知られてはいない。最下級の「消防士」はともかく、「消防司令補」だとか「消防司令長」というのは、どうも耳慣れない言葉である。消防組織は、警察と違って(都道府県単位ではなく)市町村単位(東京都23区は東京消防庁)またはいくつかの市町村が集まって創った一部事務組合単位で組織されているが、階級呼称は統一されており、東京消防庁のトップのみ「消防総監」の階級を持つ。
 更に知られていないのが、法務省が管轄する刑務所(監獄)を管理する刑務官(刑務所等及びそれらの支所に勤務する法務事務官)及び入国管理を担当する入国警備官の階級呼称である。刑務官と刑務所は、全国をブロック毎に分けた矯正管区の下にあり、そのトップが「矯正監」(かつては「典獄」と呼ばれた)(「矯正監」は官名であるとともに職名でもある)。以下、「看守」まで合計7階級あり(平成13年法務省令第3号「刑務所、少年刑務所及び拘置所組織規則」第29条)、全国に約1万5000人が居る。階級章のデザインは、消防官やかつての警察官のそれ(即ち、かつての陸海軍のそれ)と類似したものだが、「矯正監」を除いて桜の紋章は1個か2個である。「主任たる看守」「主任たる看守部長」は、それぞれ独自の階級章を持っている。また、入国警備官の階級は、「警備監」「警備長」「警備士長」「警備士」「警備士補」「警守長」「警守」の7階級になっている(昭和25年政令第313号「入国警備官階級令」)。ちなみに、入国警備官入国審査官は共に武器を携帯することが許されているが、入国審査官のほうには階級は無い。
 こうして見ると、文民の階級呼称は、「○○」「○○部長」「△△」「△△長」「△△正」「△△監」「△△総監」というのが定番なのであろう。

※表2 我が国の警察組織・消防組織等の階級呼称

  警察官 皇宮護衛官 消防官 刑務官 入国警備官
(司法警察員) 警視総監
Superintendent-General
  消防総監
Fire Chief
   
警視監
Superintendent Supervisor
皇宮警視監 消防司監
Deputy Chief
矯正監 警備監
警視長
Chief Superintendent
皇宮警視長 消防正監
First Assistant Chief
矯正長 警備長
警視正
Senior Superintendent
皇宮警視正 消防監
Assistant Chief
矯正副長 警備士長
警 視
Police Superintendent
皇宮警視 消防司令長
Battalion Chief
看守長 警備士
警 部
Police Inspector
皇宮警部 消防司令
Fire Captain
 副看守長  警備士補
警部補
Assistant Police Inspector
皇宮警部補 消防司令補
Fire Lieutenant
   
(司法巡査)       主任たる
看守部長
 
巡査部長
Police Sergeant
皇宮巡査部長 消防士長
Fire Sergeant
看守部長 警守長
巡査長
Senior Policeman
  消防副士長
Assistant Fire Sergeant
主任たる
看守
 
巡 査
Policeman
皇宮巡査 消防士
Fire Fighter
看 守 警 守

注意:司法警察員・司法巡査の区分は、警察官についてのものである。

4、司法・検察の階級呼称
 我が国の司法府である裁判所の裁判官と、公訴権を独占している準司法機関たる検察庁の検察官には、それぞれ階級呼称がある。もっとも、これらの階級呼称は、上記2つの執行機関の階級とは違い、階級章があるわけではない。なお、検事には「検事正」という名称もあるが、これは官名ではなく職名(地方検察庁の長)である。
 「最高裁判所長官」は内閣の指名によって天皇が任命し、「最高裁判所判事」、「検事総長」、「次長検事」と「高等裁判所長官」、「検事長」(高等検察庁の長)は内閣が任命し天皇が認証する(認証官)(裁判所法第5条)。
 検察官には「1級」と「2級」の区分があり、「1級」は「検事総長」「次長検事」「検事長」と一部の「検事」が、「2級」は一部の「検事」と「副検事」がこれに該当する。この区分は、旧憲法時代の「勅任官」「奏任官」「判任官」の区別を終戦後「一級官」「二級官」「三級官」と言い換えたときの名残であるという(検察庁法)。

※表3 我が国の司法組織・準司法組織の階級呼称

  裁判所 検察庁
最高 最高裁判所長官 検事総長
最高裁判所判事 次長検事
高等 高等裁判所長官 検事長
地方 判事 (検事正)
検事
判事補 副検事
簡易(区) 簡易裁判所判事  

5、外務公務員の階級呼称
 一般的に、国際儀礼上、各国の外交官領事官には階級がある。そこで、我が国の外務省職員(外務公務員)にも、在外公館で勤務する際には階級名が付けられ、実際に他国外交官と交渉する際にはこの官名を名乗ることになっている(但し、これらは「名乗っている」のであってこの名前の官に就くのではない。官名はあくまで「外務事務官」である)。もっとも、ある国にある我が国在外公館に、これらの全ての階級の職員が勢ぞろいしているわけではない。中規模・小規模の公館では、職員は「大使」、「公使」と「参事官」だけだったりするし、大半は「領事」又は「書記官」で、たまに「理事官」「電信官」が数名おり、「通訳官」「翻訳官」は滅多に居ない(昭和27年4月22日外務省令第7号「外務職員の公の名称に関する省令」)。
 なお、国際法上は、「大使」には更に「特命全権大使」「臨時代理大使」「代理公使」の3階級がある。

※表4 我が国の外交官・領事官の階級呼称

  領事事務 外交事務 外交領事事務 電信 通訳 翻訳 防衛駐在官 医務官
  総領事 大使            
    公使            
  領事 参事官            
    一等書記官 一等理事官 一等電信官 一等通訳官 一等翻訳官 防衛駐在官 医務官
  副領事 二等書記官 二等理事官 二等電信官 二等通訳官 二等翻訳官
    三等書記官 三等理事官 三等電信官 三等通訳官 三等翻訳官
  領事官補 外交官補 副理事官 電信官補 通訳官補 翻訳官補
  外務書記          

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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