国鉄債務28兆円の行く先
〜道路財源を活用せよ〜

小林 祐樹

1、はじめに
 現在、約28兆円にのぼる旧国鉄債務の処理策を巡って、政府とJR各社との激しい攻防が続いている。2年前の1996年、この債務問題に関する法改正によって、最終的に国側とJR側がそれぞれいくら負担をするのかが決着した。しかし、政府はここにきて債務の一部を新たにJR側に負担させる法案をつくり、国会での可決にこぎつけた。むろんJR側は、約束違反だとして政府の方針に激しく反発している。特にJRの中でも東日本と西日本は、法案の成立に対し、訴訟も辞さない構えを見せている。
 JRグループへの追加負担を迫る政府の姿勢は、明らかに民営化に逆行するものである。本来、財政構造改革の一貫として解決されるのが望ましい旧国鉄債務問題が、なぜ民間企業を圧迫するような静観し難い事態になったのかを見ていきたい。

2、国鉄崩壊と新生JRの苦悩
 戦後の復興期が終わりに近づいた1950年代半ば、経済成長の一つのネックとして考えられたのが、鉄道輸送力であった。高度成長期の到来も手伝って鉄道産業は発展の一途をたどると考えられた。しかし、60年代に入って自動車時代を迎えると、鉄道投資の採算は次第に悪くなり、もはや成長産業とは言えなくなった。ところが64年の東海道新幹線開通によって鉄道投資への熱気は盛り上がり、70年代前半には田中内閣によって山陽新幹線建設を初めとする狂気のような拡張政策がとられた。その惰性が80年代初期まで続けられたため、投資による借金と借金から生まれる借金とで国鉄の負債は膨らみ続け、経営破綻への道を歩んだのである。
 こうして1987年4月1日、国鉄は分割・民営化され、鉄道の再生を図るためにJRが誕生した。その時点で旧国鉄関係の債務は37、1兆円あり、そのうち22、7兆円は国、14、5兆円はJR各社の責任となった。この14、5兆円という額は、JRが旧国鉄から引き継ぐ財産に基づいて計算されたものの、バランスシート上、健全経営がギリギリ行える債務負担額であった。このようにJRは誕生当初から、厳しい経営状態だったのである。それにも関わらず、JRはこの10年間で8、1兆円の利払いをしたうえで、元本の返済にも努め、現時点での債務残高を12、5兆円まで減らすことに成功したのである。

3、国鉄債務問題先送りの構図
 一方、国側は22.7兆円あった債務を26.2兆円までに増やしている。これは一般会計からの支出に否定的であった国が、高金利の財政投融資によって一時しのぎの対策しかせず、そのため金利が金利を生むといった事態をまねいたことが起因している。このことから考えると、国側の債務を大きくしてしまったのは、言うまでもなく財投の投入によって問題を先送りしてきた大蔵省である。財投の管理を行う大蔵省資金運用部で定められている資金運用部運用法第一条によると「その資金は確実かつ有利な方法で運用すること」とある。事業団発足後も財投を投入し続けたことは、この法律に違反していることを考えると、大蔵省の責任は大きいと言わざるを得ない。
 さらに、国鉄債務問題を先送りしたもう一つの要因として、整備新幹線建設問題が挙げられる。1996年10月の総選挙の際、国鉄長期債務問題の処理策を訴えるチャンスであったのに、債務問題は票にならないためか具体的な公約はなく、争点になり得なかった。対照的に整備新幹線建設促進ばかりが訴えられ、議員ばかりか国民まで債務問題の現実を見失っていった。このように国鉄長期債務問題への世論の関心は、整備新幹線問題の影に隠れ、盛り上がりを見せることはあまりなかった。
そればかりではなく、運輸省はJRに対して「JRが整備新幹線建設のための財源確保に協力すれば、国鉄債務問題でJRに対して新たな追加負担を求めることは阻止する。」といった半ば取引的提案を持ち出した。JR側は、整備新幹線建設への負担増加は上場企業である以上、株主権を侵害するものだとして運輸省の要請を強く拒否した。整備新幹線建設という政治的圧力によって、市場原理、市場ルール、グローバルスタンダードなどの国鉄改革の理念だけでなく、国鉄債務問題までもが歪められているのである。このような性格を持つ以上、整備新幹線建設は一刻も早く凍結されるべきである。

▲整備新幹線建設はJRの負担に繋がる
(写真は北陸新幹線軽井沢駅)

4、新たな財源確保に向けて
 28兆円の債務の内、未だに財源のめどがついていない分は1997年4月1日時点で、実に21兆円にものぼる。これは整備新幹線建設費用の実に3倍もの金額に達する。この21兆円をいったいどのように処理するのかという問題に対し、私は、国鉄債務のための新たな財源として、同じ交通問題として関連性のあるガソリン税などの道路財源の活用が必要と考える。今までガソリン税からの収入は、過剰なまでに道路だけに投資されてきた。めったに車の走らない場所にやれ道路をつくれ、やれ橋を架けろといった具合に、貴重な税金が無駄な公共事業に使われているのである。こういった公共事業が景気対策の一貫だからといって、目先の景気対策ばかりに気をとられ、子供の世代、孫の世代までの借金を雪だるま式に増やしていて良いのだろうか。
 財源の活用法を見直すことは、歳出構造や財政構造の改革を進展させることにもなるという点で大いに意義がある。しかし道路財源をターゲットとすると、バックにいる建設族議員の反感を買うということで、大蔵省は道路財源の活用にあまり前向きではない。それゆえ結局はJRに負担金を出してもらうか、JRの利用者に税金を課す「JR利用税」を導入するかということになってしまう。「国鉄改革を総合的に考えた場合、JRは歴史の業を負ってはいないか。」とのある大蔵省幹部の発言からも見られるように、「まずJR負担ありき」が大蔵省の基本スタンスなのである。

5、JR負担は得策か
 このように、大蔵省は新財源確保のための歳出構造改革には極めて消極的であり、それゆえJR負担を第一に考えている。それでは、JR負担は果たして得策なのであろうか。
 結論から言えば、ノーである。第一の理由として、右肩上がりを前提とした経済が崩壊した今日、鉄道産業の成長は限界にきている点が挙げられる。首都圏では、沿線の生産人口の減少や東京一極集中化の終焉などによって、1990年代初頭をピークに定期客が減ってきている鉄道が見られるようになった。また、鉄道会社の資金調達力は、不動産事業を柱とした関連事業の力によるところが大きかったのだが、バブル崩壊によって地価が下がり、頼みの不動産事業にも成長の限界がきている。このような状況下で鉄道会社に対し負担を押し付けるのは、経営破綻の道を歩んで下さいと言っているようなものだ。
 そして第二の理由として、JR株に対しての外国人投資家の関心が強いということが挙げられる。このため国鉄長期債務の一部をJRに肩代わりさせるという日本政府の政策に対する反響は大きい。アメリカやイギリスのマスコミ、投資家を中心に、日本政府の姿勢は市場経済に反するものだとして非難されている。またメリル・リンチの試算によると、10%の負担で30%のJRの利益が失われるとされている。これではJR株は急落してしまう。このようにJRに対する負担をせまることは、今後の日本経済活性化に必要な企業の安定を揺るがすだけでなく、日本政府自身も失うものが大きいのではないか。

6、おわりにかえて
 考えてみれば、JRは発足当初の14.5兆円もの債務を10年間で12.5兆円まで減らし、国鉄清算事業団の方も高金利の財政投融資に頼らず、低金利の民間資金を活用するといった努力をしてきたのである。にも関わらず、大蔵省はいまだ身をすり減らすまでの努力を行っていない。歳出構造改革についても、政治の圧力を怖れて具体的な政策を打ち出していないのが現状である。歳出構造を見直すこともしないでひたすらJRに対して負担を求めることは、国内国外問わず、理解を得られないであろう。国鉄長期債務問題は既得収益化した歳出構造を改革する絶好の機会であり、それは財政構造改革の進展にも寄与する。是非とも大蔵省がしのぎを削ることによって、国鉄長期債務問題が財政構造改革の一貫として解決への道を歩んでいくことを願って止まない。

※補足説明1:ガソリン税について
 総額で年間2兆8931億円(1klあたり5万3800円)にのぼる。この内全体の8割以上が道路整備に使われている。道路整備にはガソリン税の他、軽油引取税(1klあたり3万2100円)と、石油ガス税(1klあたり9800円)が利用されている。これらの財源から、1994年には道路整備のために総額8兆2000億円が使用された。このように、道路財源は一定の収入が望め、かつ無駄な公共投資の温床となっているため、真っ先に歳出構造改革の対象とされるべきである。

※補足説明2:現在考えられている主要財源
 国鉄債務のための新財源として予定されているのは、もちろんJRへの追加負担のみではない。今回は、JRへの追加負担を求める行政の理不尽さを強調するために、あえてJR負担の是否について重点的に論じた。この他の財源には以下のようなものがある。
 @ 元国鉄用地と政府保有のJR株の売却
 A 郵便貯金の黒字分
 B たばこ特別税
 まず@について。バブル崩壊前、国鉄清算事業団は不動産ブームに乗じて元国鉄用地の売却を一気に進めようとしたが、政府があまりの加熱に歯止めをかけようとしたため、売却が思うよう進まず、ここですでに借金を膨らませてしまった。バブル崩壊後、現在に至るまで、汐留地区に代表されるように用地の売却は進んでいない。
 一方JR株の売却であるが、現在証券市場が低迷していることをうけて、政府が売却に歯止めをかけているため、こちらも財源確保には至っていない。従って@からの財源は現在あまり期待できない状況である。
 次にAとBについてであるが、そもそもこれらは規模が小さすぎ、抜本的な解決にはならない。せいぜいできたとして、利子の返済くらいであり、肝心の元本返済には到底及ばない。Bはすでに実現する運びとなったが「都合の悪いものはたばこ税で解決しよう」的考えでは何の根本的解決も望めない。
 このようなことから、やはり歳出構造の見直しといった痛みの伴う解決策が求められるのである。

小林祐樹(こばやし・ゆうき) 大学生


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