■はじめに

 ゲーム事件簿#1は、本ページで1999年ごろに掲載していた『海賊版』を再構成したものです。誤記の訂正を行うとともに最新の情報を追加していく予定です。

■コンピュータゲーム黎明期の事件

 コンピュータゲームの黎明期、数多くの海賊版が横行しました。このような海賊版に対して各ソフトメーカーはいくつかの裁判を行っています。このような事件の代表例としては、スペース・インベーダー事件(横浜地裁昭和54年)、スペース・インベーダー・パート2事件(東京地裁昭和57年)、パックマン事件(東京地裁昭和56年)などが挙げられます。
スペース・インベーダー事件やスペース・インベーダー・パート2事件が、プログラム自体の著作権や不正競争防止法を理由としていたのに対して、パックマン事件ではゲームが初めて映画の著作物として認められたため、ドンキーコング・ジュニア事件(大阪地裁堺支部昭和58年)など以後のゲーム関連の訴訟では映画の著作物としての著作権侵害の主張が定着しました。

■パックマン事件

S59. 9.28 東京地裁 昭和56(ワ)8371 著作権 民事訴訟事件
 パックマン事件は、ゲーム機「パックマン」を製造販売していたナムコが、ナムコに無断でROMを複製したゲーム機を購入して店舗に設置し客にプレイさせていた被告を訴えたもので、ナムコは「パックマン」が映画の著作物であるとして、上映権侵害を主張したじけんです。
 東京地裁は、映画の著作物であるための要件として、

(一) 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること
(二) 物に固定されていること
(三) 著作物であること

を挙げ、各々を検討の上「パックマン」は映画の著作物に該当すると判断し、被告の上映権侵害を認めました。
 映画の著作物と認めれるメリットは、まず、本事件のように上映権侵害を問えるというところにあります。本事件では、被告自身はROMの複製を行っていなかったためプログラムの著作権に基づく著作権侵害を問えなかったのですが(現行法では可能だと思いますが)、このような場合でも、上映権でたたけるというのが大きなメリットです。
 次に、本事件はデッドコピーのため関係ありませんが、プログラム自体が全く異なっていても表現自体が類似すれば、映画の著作物の複製権侵害を問えるのも大きなメリットであり、さらには自己同一性保持権などの隣接権も問うことができ、非常に重要です。ソフトウェア会社同士が争うようなケースは、ほとんどがこれだと思います。
 次に、映画の著作物であれば頒布権がついてくるというのも重要なメリットです。頒布権とは、権利者が販売などした後にまでその複製物の流通を規制することのできる権利であり、非常に強力なものです。中古ゲームの販売に絡み、ゲーム会社−中古販売業者間で争いが絶えませんでしたが、最高裁は適法な第一譲渡により頒布権は消尽する判断し、中古ゲームに関しては決着しました。しかしながら、海賊版のごときケースにおいては、いまだなお活用の余地のある強力な権利であると思います。
 さらには、著作権者の決め方など、映画の著作物には著作権法上特異な規定がいくつもあり、ケースによってはこれまでに考えられなかったような理論構成で戦うことができるかもしれません。

 さて、パックマンは、次に引用画面を挙げるように画面上のドットを消していくというドットイータ形式のゲームです。当時はHead OnやLady Bugなど様々なものがあり、1つのゲームジャンルを構成していました。その後も、ドット(オブジェクト)を取っていくというフィーチャは、例えばスーパーマリオブラザーズのコインのようにその後のゲームに引き継がれ現在に至りますが、画面上のオブジェクトをすべて消せばクリア、というゲームはなくなりつつあるように思います。

アトラクト影像 プレイ影像

 アトラクト影像中で紹介されるモンスターの特徴が判例中に示されていますので、以下に引用してみます。各モンスターの動作アルゴリズムがわかって面白いです。なお、日本では上記のアトラクト影像(画面)をデモ画面と呼ぶことが多いですが、正確にはアトラクトなのだそうです。

・オイカケアカベイ
 追跡中はパックマンを最短距離で追跡し休息中は画面右上付近を動き回る。
・マチブセピンキー
 追跡中はパックマンの目の向いている3つ先のマスに向い待伏せをし,休息中は画面左上付近を動き回る。
・キマグレアオスケ
 追跡中は(i)とパックマンを中心とする点対称のマスを目指し,休息中は画面右下付近を動き回る。
・オトボケグズタ
 追跡中はパックマンから半径約130ドットの外ては(i)の性格をもってパックマンを追跡し,右半径内ではパックマンの移動と無関係に動く。

 パックマンは最近でも復刻版が出たりしていますが、モンスターの追跡アルゴリズムがわかれば、攻略につなげることができるかもしれませんね。

 さて、本事件とは関係ありませんが、パックマンは大変な人気を博したため、数多くの海賊版が登場しました。次にそれら海賊版のいくつかを紹介していきます。
 海賊版の多くは、単にデッドコピーしたものやタイトルを変えただけのものが多いのですが、

Nwepuc2 スキャンダルマン ザ・ハングリーマン

 1980年に登場したNewpuc2は、キャラクタのデザインを変えています。また、1981年にカミヤから登場したスキャンダルマンはドットがハートマークになっており、また3面以降はパワーエサを取ると壁が消えます。同様に1981年にIGLECKから登場したザ・ハングリーマンもパワーエサを取ると壁が消えるフィーチャが導入されています。
 筆者はスキャンダルマンもザ・ハングリーマンも当時にプレイしたことがあるのですが、壁が消えるフィーチャが加わったパックマンの続編と思い込んでいました。

 ドットやキャラクタのデザインを変えるだけであれば、非常に簡単な改変といえますが、壁を消すフィーチャを入れたものでは壁判定自体もなくす改変を行っているものもあり、ゲーム性もだいぶ変わってきています。プログラム作業的には手間がかかっていると思われるのですが、これだけの手間をかけてオリジナルの権利者の追及を逃れられるかといえば、そうでもないので(つまり、あまり意味のない作業なので)この手の海賊版はこの時期特有のものだったといえるかもしれません。ナムコのディグダグをコピーしたジグザグも同様のケースでした。

■ジグザグ事件

東京地裁昭和59年(ワ)第12619号損害賠償等請求事件 (判決はヒットしません→)
 パックマン事件と同様にナムコから映画の著作物であると提訴された事件として、LAXのジグザグ事件があります。これは、ナムコ製のゲーム「ディグダグ」を改変したものです。ディグダグは次のようなものです。

アトラクト影像 プレイ影像

 パックマン事件と違って、問題となったジグザグはディグダグとは異なるいくつかのフィーチャのあるゲームでした。

アトラクト影像 プレイ影像

 おおよそ画面の雰囲気は同じなのですが、つるはしというアイテムが追加されており(プレイ映像参照)、これを取るとプレイヤの移動速度が一定時間早くなるというものでした。被告側はここらを争ってもらいたかったのですが(争ってどうにかなるものではないと思いますが)、口頭弁論期日に出頭せず自白擬制されLAXが負けています。

■パックマンフリーウェア事件

H 6. 1.31 東京地裁 平成04(ワ)19495 著作権 民事訴訟事件
 ゲームが映画の著作物として認められるということは、プログラムの複製・改変のみ著作権侵害ではなく、同様の表示を行うプログラムも著作権侵害となりうることを示しています。これを如実に現わしているのがパックマンフリーウェア事件です。
 この事件はウィンドウズ用のゲーム「Chomp」が映画の著作物であるパックマンを違法に利用したとして

Chompの影像は,本件ビデオゲームの影像に依拠し,これに僅かな修正を加えて再製したもの,即ち本件ビデオゲームの影像の複製と認められる。

と判示された事例です。逆アセンブルなどのリバースエンジニアリングをしなくとも、同様の画面が表示されるようにプログラムを作成すれば、著作権侵害になるというわけです。
 これは、著作権法は表現を保護するものでありアイデアを保護するものではない、という原則からして、かなり強力な権利を与えているように思います。つまり、通常プログラムの著作物は逆アセンブルなどのリバースエンジニアリングを行いアルゴリズムを分析した上で、新たにソースコードを作成した場合は、著作権法上の複製には当たりません。しかし、映画の著作物と認定される場合においては、その影像自体に著作物性が認められるわけですので、これと類似する(原作品をイメージさせるような)影像を出すゲームである限り原著作物の複製に当たるということになります。もっとも、ゲームの場合キャラクターの問題もありますので、映画の著作物とされない場合においても、著作権法や不正競争防止法などで考慮すべき点は多いと思います。

■その他さまざまな海賊版

 その他にも種々の海賊版が存在しました。

◆Mr.Do!

 Mr.Do!はユニーバーサル(現アルゼ)が開発したゲームで、タイトルを変えたMr.Du!という海賊版がありました。

ユニバーサルのMr.Do! 海賊版のMr.Du!

 タイトルをもじっただけ、といよりはタイトル画面の一部を切り取っただけというお粗末な感じがとてもするのですが、ほとんど小細工をしていないという意味では好感が持てます。

◆ゼビウス

 ゼビウスは、パックマンやディグダグと同じくナムコ製のゲームで、非常に人気のあるゲームです。ゼビウスの海賊版として、次のようなゼビオス、バトルスがありました。

ナムコのゼビウス ゼビオス(海賊版) バトルス(海賊版)

 ゼビウスは登場が1983年とパックマンやディグダグよりも後のため、これまでになかった海賊版対策が施されています。その対策とは、ゲームがスタートして直後、画面の右下に自機を移動させザッパー・ブラスタを打ち続けるという特定の操作を行うことにより特定の表示(ナムコのクレジット)が画面下に出るというもので、これら海賊版では次のような表示が出ます。

ナムコのゼビウス ゼビオス(海賊版) バトルス(海賊版)

 ゼビオスでは「DEAD COPY」の表示がされ、まんまと引っかかったというかんじですが、バトルスではうまく表示をごまかしています。
 ゼビウスのこの仕様は当時ゲーム雑誌などに掲載され、プレイヤー間に広く知られていましたため、バトルスの海賊業者はこれを回避できたのだと思いますが(回避しているかどうかはさて措きますが)、著作権侵害の立証を容易にするためにこのような仕掛けをナムコが施したというよりは、プレイヤーに広く知ってもらうことにより海賊版をプレイすることを思いとどまらせることを狙ったのではないかと思います。

◆ドンキーコング

 「トランプやかるたの遊び方にパテントが無いように、遊びに本来パテントは存在しないんです。」とのたまい タイトーの「スペースインベーダー」のコピーゲームを過去に作っていた任天堂も、ヒット作「ドンキーコング」の頃には海賊版対策に頭を悩ませています。
 ドンキーコング、マリオが初めて登場したゲームとしても有名で、変化のあるステージ構成が当時とても衝撃的でした。

ドンキーコング(タイトル画面) ドンキーコング(プレイ画面)

 ドンキーコングのコピーとしてはクレージーコングが知られています。

クレージーコング(タイトル画面) クレージーコング(プレイ画面)

 ゲーム画面の色合いとステージがオリジナルと微妙に異なり、また、サウンドも一部異なっています。特にマリオがジャンプするときの「ホヤ!」と聞こえるサウンドが印象的です。
 ちなみに当時は、クレージークライマー、クレージーバルーンなど、クレージー○○○というタイトル名のゲームが多かったです。

■参考ページ

 プログラムが絡む事件に関しては法情報(明治大法学部夏井教授のページ)をお勧めします。

記載については充分注意を払っておりますが、なにぶん無資格者が学習の目的とはいえ趣味の範囲で行っているものですので、万一内容に起因する損害や不利益などが生じても一切責任は負いかねますので、予めご了承下さい。