■判例随想#15

◆もくじ

 maxcell事件、抗ダイオキシン健康食品事件、ヘルプボタン事件、インクボトル事件控訴審、エアワイパー事件、2画面特許事件、東芝温水器用ステンレス鋼製缶体事件、採光窓付き鋼製ドア事件、ヤマダ電機vsコジマ事件、年金管理会社の事件〜問合せ先の間違い、影付き文字事件、創英知的財産研究所事件、食玩事件、ダンロップ事件、eサイト事件

 文字色は、判決文よりの引用法律条文の引用、となっています。

■eサイト事件

H16.12. 1 東京地裁 平成16(ワ)12137 商標権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第40部市川裁判長)

 e-sightとの商標権を有するXが、ドコモの携帯電話に関するeサイトを商標権侵害で訴えた事件です。
 e-sightとeサイトでは称呼は“イーサイト"と全く一致するのですが、裁判所は、観念の相違、外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると、同一又は類似の役務に使用されたとしても、被告標章と本件商標との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず、 被告標章が本件商標に類似するとは認められない、として商標権侵害を認めませんでした。
 この出所誤認の話は、Xがインターネット上で長崎の地域情報を掲載しているホームページにて本件商標が使用されており、Yの業態と大きく離れており、Yのサイトを訪れた人がXのサービスであると誤認することはない、という事実認定に基づくものですが、じゃあ、Xが携帯電話に関係する業態で本件商標を使用しだしたらどうなるの?XがYと関係あるように誤認されてしまうのでは?といったことを疑問に感じました。
 もっとも、Xの損害賠償を請求した金額が5000万円にも上ることを考慮すると、Xが、たまたまYが使用しだした標章に称呼が同一となる商標権を取得していたことを奇貨として、Yに吹っかけたのかなと思わなくともないですが。

(2004.12.11執筆)

■ダンロップ事件

H16.11.30 大阪地裁 平成15(ワ)11200 商標権 民事訴訟事件(大阪地方裁判所第21民事部小松裁判長)

 並行輸入に関する事件です。
 問題となった商標はダンロップで、元々は英国のダンロップ社が起源なのですが、日本ではこの英国ダンロップ社が設立した日本ダンロップ護膜社がその後住友グループに加わり、現在では住友ゴム工業(本事件の原告)となっています。  一方、Yは輸入業者で、英国ダンロップ社の子会社(DSGL社)からライセンスを与えら得たマレー企業(DSFE社)からダンロップ商標の付されたゴルフ用品を日本に輸入していたのですが、この行為がXの持つ商標権を侵害するものだとして訴えたのが本事件です。
 Yは、イ号製品は真正商品であり、Xと英国ダンロップとに同一性があるとして、違法性はないと主張しました。
 で、裁判所の判断ですが、まずフラットペリー事件最判を引用し

 商標権者以外の者が我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害する(商標法2条3項、25条、37条)。しかし、そのような商品の輸入であっても、@当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、A当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、B我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である(最高裁判所平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁参照)。

本事件においてこれら要件が満たされるか検討し、

 ウ 以上からすれば、被告製品には、被告標章3の欧州における商標権者であり、かつ被告標章1、2及びSPORTの文字からなる標章について商標登録出願している者(DSGL社)から使用許諾を受けた者(DSFE社)によって被告標章が付されたということはできるが、原告とDSFE社との関係においても、原告とDSGL社との関係においても、同一人又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があるとは認められない。また、原告が直接的に又は間接的に被告製品の品質管理を行い得る立場にはない上、実際にも、被告製品は、原告が国内の需要者に保証しているだけの品質を有していないというべきである。
 そうすると、本件においては、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的な違法性を欠くと判断されるための前記要件を明らかに充足していないといわざるを得ないから、被告の被告製品輸入販売行為が違法性を欠くということは到底できない。

として、商標権侵害に当たるとされました。
 本事件では、日本の商標権者が、オリジナルの商標権者を技術的に指導するような立場になっており、そこら辺の事情は判決を読んでいただければと思いますが、並行輸入を阻却するための上記要件のうち、Bの品質管理については、並行輸入対策として参考になるのではないかと思いました。

(2004.12.11執筆)

■食玩事件

H16.11.25 大阪地裁 平成15(ワ)10346等 著作権 民事訴訟事件(大阪地方裁判所第21民事部小松裁判長)

 海洋堂vsフルタ製菓の事件です。
 会社の同僚にも食玩好きの人が多いですが、チョコエッグをはじめこれまでの食玩をリードしてきた海洋堂とフルタ製菓がもめた事件ということで、個人的には驚きました。
 もめた原因というのは、海洋堂とフルタ製菓が結んだ契約についてで、契約は、海洋堂がフルタ製菓のために食玩の原型を制作して引き渡し、その対価としてフルタ製菓は製造した食玩の数に基づくランニングロイヤルティを支払う、というものなのですが、結構な数が売れたためフルタ製菓がロイヤルティの支払いを渋ったというのが事件の発端です。
 で、この契約自体は著作権使用許諾契約という形式をとっており、食玩の原型が著作物であるのかどうかがまず争われたのですが、裁判所は、

 「美術の著作物」については、著作権法2条2項が「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と定めている。同条項は、絵画、版画、彫刻等のような純粋美術のほかに、実用品であっても一品製作による手工的な「美術工芸品」が「美術の著作物」に含まれていることを明らかにしている。この点に関し、美術工芸品以外のいわゆる応用美術についても著作権法によって保護されるかどうかが問題になるところである。現行著作権法制定の経緯や、著作権法による保護と意匠法等の工業所有権法による保護との関係等に照らせば、著作権法上の前記条項は、実用に供され、あるいは産業上利用されることを目的とする美的な創作物、すなわち、実用品と結合された美術的著作物、量産される実用品のひな型として用いられることを目的とする美術的著作物、実用品の模様として利用されることを目的とする美術的著作物等、一般に応用美術の範疇に含まれるものについては、専ら美の表現のみを目的とするいわゆる純粋美術と同視できるような創作性、美術性を有するもののみを、「美術工芸品」に準じて、著作権法上の「美術の著作物」として著作権法による保護の対象とした趣旨であると解するのが相当である。
 チョコエッグ、チョコエッグ・クラシック及び妖怪シリーズの模型原型は、まさに、上記のような大量に生産されるある種の実用品(おまけないし玩具)の模型原型(ひな型)としての性格を有するものであるから、著作権法上保護される著作物に該当するかどうかを判断するためには、著作権法2条2項の観点からの検討が必要である。

とした上で、

 イ そこで、本件のチョコエッグ、チョコエッグ・クラシックや妖怪シリーズの模型原型について、いわゆる純粋美術と同視できる創作性、美術性を有するかについて検討する。
 まず、チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックの模型原型は、上記のとおり、高度の技術が用いられて、実在の動物を写実的に模したものであり、お菓子のおまけとして安価で広く頒布されるフィギュアとしては美的な価値も備えており、この種のフィギュアの蒐集家にとっては、その精巧さや種類の豊富さもあって、それなりに美的鑑賞の対象ともなり得ることは否定できないところである。しかし、動物を写実的に模すのに、制作者の技術や工夫が見られるといっても、大量に製造され安価で頒布される小型のおまけであるから、純粋美術の場合のような美的表現の追求とは異なり、一定の限界の範囲内での美的表現にとどまっていることも否定できないのであり、客観的にみて、一般の社会通念上、美的鑑賞を目的とする純粋美術に準じるようなものとまではいえない。したがって、チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックの模型原型は、著作権法2条2項の規定の趣旨に照らして、「美術の著作物」には該当しないものというべきである。

として、著作物ではないと判断しました。
 じゃあ村上隆のシリーズはどうなの?と思ったりもしますが、大量生産される応用美術に関する著作権は本事件に限らずいろいろと問題があるようで、また、じゃあ意匠登録しておけば良かったの?というと、食玩自体はお客さんの目に触れない態様で販売されるので意匠もちょっと...というところでしょうか。
 ともあれ、本事件は、食玩の原型に著作物性は認められなかったものの、契約はその料率も含め有効と判断され、フルタ製菓に違約金を含む支払いを命じています。
 そもそも、海洋堂側がフルタ製菓が製造数量を正確に申告していないことを、監査に入った税務署から聞いたというのも面白いというか、税務署、恐いですね。

(2004.10.23執筆)

■創英知的財産研究所事件

H16.11.12 東京地裁 平成16(ワ)12686 著作権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第46部三村裁判長)

 創英国際特許法律事務所の創英知的財産研究所が発行した書籍(SOEI-VOICEか?)を共同執筆したXが、著者名として自己の名前が掲載されなかったことが著作者人格権(氏名表示権)等に当たるとして、創英国際特許法律事務所の所長Yを訴えた事件です。
 Xは元創英国際特許法律事務所所員で、辞める前に原稿を頼まれたが、といったちょっとややこしい経緯があります。一方Yは、本件原稿は職務著作に当たり、また著作権譲渡の契約をYと結んでもいるので、著作者人格権を侵害しないと反論しています。
 裁判所の判断は、書籍の執筆はXの業務ではないので職務著作ではなく、著作権譲渡契約において執筆者として表示されないことまでXが同意していたとは認められないとして、著作者人格権侵害を認め、Yに損害額50万円、弁護士費用50万円の計100万円の支払いを命じました。
 元々Yは、創英国際特許法律事務所を辞めることになっていたXの原稿を使うつもりはなかったものの手違いで掲載されてしまった、という事情もあったようです。
 ということで、著作権も業務に入る事務所が犯すような事件ではないなあというのが率直な印象で(まあパソコンソフトをコピーしまくった東京リーガルマインドの事件もそうですが)、通常なら創英国際特許法律事務所の名前が出ないように早々に和解すべきところだろうと思うのですが、正々堂々裁判で戦ったところは評価すべきなのでしょうか。創英国際特許法律事務所のHPでは本事件は触れられたおりませんでしたが。

(2004.12.11執筆)

■影付き文字事件

H16.10.29 東京地裁 平成15(ワ)27420 特許権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第47部高部裁判長)

 ヘルプボタン事件に引き続き、松下vsジャストシステムです。ヘルプボタン事件では、ジャストシステムのソフトウェアがプリインストールされたパソコンの仮処分事件が絡んでいましたが、今回はそのような事情はうかがえませんでした。
 で、対象となった松下の特許2893836の概要を次に示しますが、ベクトルフォントに関しそのベクトルデータを基に影データを生成するというもので、松下がジャストシステムを特許権侵害で訴えています。

特許番号:第2893836号
登録日 :1999年3月5日
出願番号:特願平2−90840
出願日 :1990年4月5日
名称  :文書作成装置及び文書作成方法
特許権者:松下電器産業株式会社
特許請求の範囲
【請求項1】
文字パターンをその輪郭線上の座標列で表したベクトルデータを記憶する記憶手段と,影付き文字の生成を指示する指示手段と,前記指示手段からの指示に応じて,前記ベクトルデータから影付き文字のベクトルデータを生成する影付き文字ベクトルデータ生成手段と,前記影付き文字ベクトルデータ生成手段により生成された影付き文字のベクトルデータを,影付き文字のビットマップデータに変換する変換手段と,前記変換手段により得られたビットマップデータを出力する出力手段とを有することを特徴とする文書作成装置。
【請求項2】
データを入力する入力装置と,データを記憶する記憶装置と,データを表示する表示装置とを有する装置を制御する方法であって,入力装置から影付き文字の生成の指示があると,記憶装置に記憶されている文字パターンをその輪郭線上の座標列で表したベクトルデータを読み出し,読み出したベクトルデータから影付き文字のベクトルデータを生成し,生成した影付き文字のベクトルデータを影付き文字のビットマップデータに変換し,変換したビットマップデータを出力装置に出力するように制御することを特徴とする文書作成方法。

 で、裁判所の判断ですが、クレーム解釈として

「影付き文字のベクトルデータ」とは,文字パターンを表したベクトルデータから生成され,影付き文字のビットマップデータに変換される,影付き文字を表す一つのまとまりとなっているベクトルデータであると解するのが相当である。

と判断した上、ジャストシステム製品にはこのようになっているという認められないので、非侵害と結論しました。
 ジャストシステムは20年以上にわたり日本語入力やワードプロセッサを開発しており、ソフトウェア関係の特許係争にはさすがに強いなと感じるとともに、松下もいい特許を持っているなと感じました。

(2004.12.11執筆)

■年金管理会社の事件〜問合せ先の間違い

H16. 9.30 東京地裁 平成16(行ウ)118 特許権 行政訴訟事件(東京地方裁判所民事第46部三村裁判長)

 年金管理会社のミスにより、特許年金追納期限内に年金納付ができなった事件です。  ミスの経緯ですが、X(特許権者)が年金管理を委託している英国の特許法律事務所が、年金支払いの問い合わせを、Xと関係のない第三者に行い、この第三者が支払わない旨の返信をしたため、これを信じた英国の特許法律事務所が期限内に支払わなかった、というものです。
 特許法では、特許権者の責めに帰すことができない理由により追納期限内に納付できなかった場合の救済処置があり、この手の事件ではこれに該当するか争われるのが定型化しています。
 しかしながら、この「特許権者の責めに帰すことができない理由とは、天災地変等のように,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってなお追納期間内に納付できなかった場合のことを意味する」と多くの裁判例で解釈されており、また、特許権者が管理を委託した管理会社側に過失が認められれば、「通常の注意力を有する当事者が,万全の注意を払っていても特許料等を納付できなかったとはいえない」と多くの裁判例で判断されています。
 また、この手の裁判では、原告側(特許権者側)は、欧米の例を挙げて「特許権者の責めに帰すことができない理由」の緩和を求める、というのも定式化された主張となっています。
 まあ、ここまで定式化された裁判というのも珍しいかなと思うのですが、一般にこういうケースでは、ミスをした年金管理会社の負担で裁判が行われるのでしょうか。

(2004.10.23執筆)

■光ファイバコネクタ事件

H16. 7.28 東京地裁 平成15(ワ)20843 特許権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第29部飯村裁判長)

 譲渡担保権の実行に際して、米国特許及び日本特許出願(未権利化)の価額の算定がなれた事件です。譲渡担保権を設定することも余りないかと思いますが、証券化もブームですし、職務発明関係の事件での特許を受ける権利の対価の算定の参考にもなるかと思いますので、事件へのリンクだけ張っておきます。

(2004.10.23執筆)

■ヤマダ電機vsコジマ事件

H16.10.19 東京高裁 平成16(ネ)3324 不正競争 民事訴訟事件(東京高等裁判所知的財産第1部北山裁判長)

 自己店舗にて「ヤマダ電機より安くします」との表示を行ったY(コジマ)を、不競法2条1項13号(虚偽事実の流布)や景表法に違反するとしてX(ヤマダ電機)が訴えた事件の控訴審で、原審は前橋地裁です。
 裁判所の結論として、Xの訴えを退けているのですが、どうもYは必ずしもXの販売価格より安く値引きを行っているわけではなかったようで、裁判所はそれでもなお、消費者はこの表示に接しても、必ずYより値引きされるとは認識しないと判断しています。私なら、必ず値引きしてくれるんだろうなと認識するのですが。
 ともあれ、結構コジマって信用ならないんだなあと私は印象を持ちましたが、その点はXも訴訟を起こした成果があったというものでしょう。
(2004.10.23執筆)

■採光窓付き鋼製ドア事件

H16.10.15 大阪高裁 平成16(ネ)648 特許権 民事訴訟事件(大阪高等裁判所第8民事部竹原裁判長)

 特許権に基づく差止めの仮処分後、その特許の無効が確定したため、仮処分されたX(仮処分事件における債務者)がX(仮処分事件における特許権者、債権者)に、差止による損害賠償を請求した事件の中間判決です。
 同様のケースである判例随想#12で紹介した氷成形装置事件(H14.12.17 東京地裁 平成13(ワ)22452 特許権 民事訴訟事件(三村裁判長))では、債権者の過失を認め損害賠償請求を容認しましたが、本事件もほぼ同様の理由で過失を認めていますので、次に引用します。

 2 争点(1)について(筆者註:Yが本件仮処分命令を得てその執行をしたことについて、Yに過失があるか否か。)
  (1) はじめに
   ア 本件特許権は、本件無効審決の確定により、初めから存在しなかったものとみなされる(特許法125条)から、被告が、本件特許権に基づく差止請求権を被保全権利として本件仮処分命令申立てをし、本件仮処分命令を得てその執行をしたことは、結果として違法である。
   イ 仮処分命令が被保全権利の不存在を理由に取り消された場合において、同命令を得てこれを執行したことにつき債権者に故意又は過失があったときは、債権者は民法709条により債務者がその執行によって受けた損害を賠償すべき義務があり、一般に、仮処分命令が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において債権者敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情のないかぎり、当該債権者には過失があったものと推定すべきではあるが、当該債権者において、その挙に出るについて相当な事由があった場合には、上記取消しの一事をもって同人に当然過失があったということはできないというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和43年12月24日判決・民集22巻13号3428頁参照)。
   ウ このことは、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分命令が発令され、その執行がされた後に、当該特許を無効とする旨の審決が確定した場合においても同様であると解するのが相当である。
     確かに、特許権に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分は、被保全権利である特許権が特許庁審査官による特許出願の審査及び特許査定を経て設定登録されたものであるし、進歩性の有無に関する判断は、一般に、当該特許発明、引用発明及び上記両発明の対比による一致点・相違点の認定のほかに、これを基礎として、出願前に当業者が当該特許発明に容易に到達することができたか否かという評価が入るため、専門的、技術的知識を要する困難かつ微妙な判断であることが多いということからすれば、特許権が進歩性を欠くという理由で無効審決の確定により無効になったからといって、債権者に過失があったものと推定することは、酷に失するという余地もないではない。
     しかし、一方において、製造販売差止めの仮処分が執行された場合には、債務者は、営業上及び信用上、極めて深刻な打撃や影響を受けることも珍しくない(特に、対象製品が債務者の主力製品であったときは、債務者が倒産に至ることすら考えられる。)ことを考慮すれば、特許権が特許庁審査官の審査及び査定を経て設定登録されたものであるとか、進歩性の有無に関する判断が困難かつ微妙なものであることが多いなどという一般的、抽象的な事情をもって債権者の過失を否定することは、当事者間の衡平を失するものであり、相当ではないといわざるを得ない。
   エ そして、本件において、被告が本件仮処分命令申立てをし、本件仮処分命令を得てその執行をしたことについての相当な事由(以下、単に「相当な事由」ということがある。)があったか否かを判断するに当たっては、まず、被告において、本件仮処分命令申立て時までに、先行技術を既に知っていたか又は容易に知り得たかを検討し、その上で、既に知っていたか又は容易に知り得た先行技術に基づき、被告が、本件特許発明に進歩性があると信じるにつき相応の根拠があったか否かについて検討すべきである。

 で、無効資料となった文献2つはいずれも仮処分後に見つかったのですが、うち1つについては、本件特許発明と技術分野を同じにするので調査をすれば容易に見つかったであろうと認定し、もう1つは技術分野を同一ではないものの次のように判断しています。

    (イ) しかしながら、本件特許発明は、プレス加工等により採光窓付き鋼製ドアを製造する方法に係るものであるから(甲21、弁論の全趣旨)、刊行物2記載の考案の技術分野と本件特許発明の技術分野は、関連性が強いものということが相当である。
      そして、証拠(甲22)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、プレス加工技術についての当業者であると認められる。
      してみると、本件において、被告は、本件特許出願前か、遅くとも本件仮処分命令申立て前に、当業者の通常の注意力をもって本件特許発明と関連性が強い技術分野における先行技術を調査すれば、容易に刊行物2の存在を知り得たものである。

 当業者の通常の注意力ってなんだろうと思うのですが、どのような文献であれば、またはどのような調査を行っていれば、見つからなくっても仕方がなかった、という結論になるのか判決を読み限りわかりません。
 次に裁判所は、Yが本件特許発明が進歩性を有すると信じたことにつき相応の根拠があるか否かについて検討し、発明との相違点ごとに分析して、相応の根拠はないと判断しています。よくわからないのですが、仮処分時にこれら文献をYは見出してはいない訳ですので、これらから進歩性があると信じたかどうか議論する意味があるのかどうか疑問ですし、進歩性があると信じたことに相応な理由があったというのはどういう場合なのか、判決を見る限りではわかりません。
 個人的には原審の判断の方がしごくまっとうに感じられるのですが、次にリンクをつけておきます。

H16. 1.20 大阪地裁 平成15(ワ)6256 特許権 民事訴訟事件

(2004.10.23執筆)

■東芝温水器用ステンレス鋼製缶体事件

H16. 9.30 東京地裁 平成15(ワ)26311 特許権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第46部三村裁判長)

 職務発明の相当対価請求事件で、時効の成立が争点になっています。
 Y(東芝)では、補償金の支払いを、実施期間に区分し各期間ごとに支払うという分割払いが実施されていたのですが、このような場合における事項の起算点について裁判所は

本件のように,勤務規則等において,相当対価を分割支払として,特許権の存続期間中,一定の期間ごとに特許発明の実施の実績に応じた額を使用者から従業者に支払う旨の定めがされている場合にあっては,相当対価のうち分割された各期間における特許発明の実施に対応する分については,それぞれ当該分割金の支払時期が到来するまでその支払を求めることができないのであるから,相当対価の支払を受ける権利について,分割された各期間における特許発明の実施に対応する分ごとに当該支払時期から消滅時効が進行するものと解するのが相当である。

として、各期間ごとに時効が進行するとしています。
 また、Yは特許法35条の相当対価請求権の時効について、商行為により生じた債権について適用される「5年」の短期消滅時効(商法522条)が適用されるべきと主張しましたが、裁判所は

職務発明の相当対価請求権は,特許法35条により従業者に認められた法定の権利であるから,消滅時効期間は10年と解すべきものである。

と判示しています。
 職務発明の相当対価請求事件で、使用者側が勝った事例としては、発明者ではないとされたファイザーのケースを除けば、本事件のような消滅時効の援用が認められたケースだけかと思います。

(2004.10.11執筆)

■2画面特許事件

H16.10. 1 東京地裁 平成15(ワ)28554 特許権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第47部高部裁判長)
H16.10. 1 東京地裁 平成15(ワ)28575 特許権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第47部高部裁判長)

 日本のパテントマフィアとして最も成功しているエーディーシーテクノロジー株式会社が取得したとして有名になった携帯電話の2画面表示特許について、NEC及びNTTドコモが、損害賠償請求権等の不存在の確認を求めた事件です。
 ちょっと面白いなと思ったのは、本特許について取消し決定が出た後のADC側の主張で、

平成15年3月14日の時点(登録時)における本件特許権並びに平成16年4月15日付け訂正請求書の請求項1及び2に記載した発明に係る本件特許権に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権が存在しないことを認める

といっています。結局裁判所は、損害賠償請求権等が存在しないことについて争いがないとしてNEC及びNTTドコモの主張を容れています。
 なんで、ADCは自認しちゃったのかなと考えてみたのですが、下手に争って、本件特許には無効理由の存在することが明らかなので権利濫用により...と判決されてしまうと、訂正審判で無効理由を治癒しても権利行使ができなくなるので、それを避けたかったのかなと思います。
 なお、本件特許の登録日は2003年3月14日、公報発行日は2003年5月19日なのですが、NTTドコモに警告を出しているのは2003年4月17日で、さすがにADCは早いです。

(2004.10.11執筆)

■エアワイパー事件

H16. 7.29 大阪地裁 平成16(ワ)3264 実用新案権 民事訴訟事件(大阪地方裁判所第21民事部小松裁判長)

 エアワイパーについて考案を為したXが、X考案の実用新案出願の依頼を受けながら第三者にその内容を開示したとしてY1を、X考案を冒認して特許を出願・取得したとしてY2を、冒認であるY2の特許出願を拒絶することなく登録査定したとして審査官Y3およびY4を、エアワイパーを製造・販売するY5およびY6を、それぞれ訴えたという事件で、はっきりいってどういう理由で訴えたのか理解に苦しむ、電波系の事件です。しかも、前訴(大阪地裁平成11年(ワ)第2664号損害賠償請求事件、大阪高裁平成11年(ネ)第2604号損害賠償請求控訴事件)があったりします。
 訴訟というものは、ものごとがこじれて収拾がつかなくなり仕方なくするものだとは思いますが、個人が行う場合はもっと深いといいましょうか、人生をしょってますから、ビジネスライクに訴訟を行う企業同士の事件とは趣を異にします。本事件もそのようなケースで、審査官であるY3およびY4を訴えている点からして明らかなのですが、個人的にはY2への訴えの部分が気になりました。
 Y2も個人発明家のようで、本事件ではX同様に本人訴訟を行っているようです。Y2との関係で事件の経緯の時系列で示しますと、

となっておりまして、こういう経緯でXはY2に冒認だといっているのですが、これ以上に何か証拠があるわけではありません。裁判所は、Y2の特許出願は、XがY1に出願を依頼した時よりも3年以上前なので冒認とは考えられない、としています。
 Xはかなり無茶な訴訟をやったわけですが、本事件のXのような個人発明家の売込みには気をつけないと、こじれたときにはややこしくなって大変ですね、という点は企業担当者は肝に銘じなければと思いました。

(2004.9.18執筆)

■インクボトル事件控訴審

H16. 8.31 東京高裁 平成15(ネ)899 商標権 民事訴訟事件(東京高等裁判所知的財産第1部北山裁判長)

 判例随想#12で取り上げていたインクボトル事件の控訴審です。
 プリントゴッコでおなじみのX(理想科学工業)は、孔版印刷機と該印刷機用のインクボトル(Xボトル)を販売していましたが、YがX製品のユーザから回収した使用済みのXインクボトルにインクを再充填し、X商標が付されたままこれを販売などしたため、商標権侵害と訴えたのが本事件です。
 原審では「例えて言えば,顧客が酒店に空瓶を持参して,酒を量り売りで購入する場合や,顧客が鍋等の容器を豆腐店に持参して豆腐等を購入する場合と,同様である」と例示し、また再充填したXボトルを別のユーザに販売していたことについても「例えて言えば,年賀はがきの印刷において顧客が官製年賀はがきを持ち込んだ場合に,顧客に返還される官製はがきが必ずしも同一の番号のはがきとは限らないとしても,社会的には顧客の持ち込んだはがきに印刷がされるものと評価され,はがきの売買と評価されないのと同様である。」と例示して、商標権侵害には当たらないとしてXの訴えを退けていました。
 本審において裁判所は、Yの販売形態は「いわゆる1対1管理方式を採用しているとは到底認められず」「顧客から使用済みのインクボトル(空容器)の引渡しを受けて,同形のインクボトル(引渡しを受けた当該インクボトルに限らない。)に被控訴人インクを充填して販売する態様(控訴人主張の販売態様@)」「顧客から空インクボトルの提供を受けることなしに,自ら保管中の空インクボトルに充填された被控訴人インクを販売する態様(控訴人主張の販売態様A」であると認定しました。
 更に「「被控訴人インクが控訴人と無関係に製造されたものである」旨のいわゆる打ち消し表示」がないことやその他Y顧客からのヒアリングやYホームページの内容などから、

これらの事情によれば,被控訴人らの被控訴人インクの販売行為が,市場における取引者,需要者の間に,「本件登録商標が付されたインクボトルに充填されたインクが控訴人を出所とするものである」との誤認混同のおそれを生じさせていることは明らかであるから,本件登録商標は,商品(インク)の取引において出所識別機能を果たしているものであって,被控訴人らの行為は,実質的にも本件登録商標の「使用」に該当し,本件商標権を侵害するものというべきである。

として、原審とは異なり商標権侵害を認めました。
 損害賠償は、Yの販売した全量を基準に算定されていますが、1対1管理方式が全く認められなかったのか(一部、1対1管理方式が認められていたらその分が控除されていたのか)ちょっとわかりません。
 ところで、全量が1対1管理方式だと商標権侵害にならないのでしょうか。打ち消し表示がないため販売後の再譲渡による誤認混同は生じ得ます。また、打ち消し表示をしておけば大丈夫だったのでしょうか。Yのような詰め替え業者も今後は業態を変えてくるでしょうし、Xのようなメーカ側もそれを叩くべき法技術を駆使してくると思います。当分はいたちごっこぽくなりそうな気もしますが。

(2004.9.5執筆)

■ヘルプボタン事件

H16. 8.31 東京地裁 平成15(ワ)18830等 特許権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第47部高部裁判長)

 松下とジャストシステムとが争った事件で、松下がもっている特許ちょっと驚いたのですが、さらに裁判所の解釈に驚かされました。
 松下の特許を下に示しますが、そのまま読むと、ヘルプアイコン(第1のアイコン)を操作してから機能アイコン(第2のアイコン)を操作すると、その機能アイコンの説明が表示されるというもので、Windowsのヘルプボタン(?ボタン)機能そのものです。実施例では、機能説明アイコンを通信のアイコンへドラッグ((図中の○が機能説明アイコンを示し、ドラッグ前が破線で、ドラッグ後が実践で描かれています)することにより通信機能の説明が表示されており、WindowsなどでのUI作法とは若干異なります。もっとも、クレームに現れているわけではありませんが。

特許番号:第2803236号
登録日 :1998年7月17日
出願番号:特願平1−283583
出願日 :1989年10月31日
名称  :情報処理装置及び情報処理方法
特許権者:松下電器産業株式会社
特許請求の範囲
【請求項1】
アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と、前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と、前記指定手段による、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有することを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記指定手段による第2のアイコンの指定が、第1のアイコンの指定の直後でない場合は、前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
データを入力する入力装置と、データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって、機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させることを特徴とする情報処理方法。

図3

 本事件は、X(ジャストシステム)は、X製品(ジャストホーム2家計簿パック)がプリインストールされたパソコンを販売していた訴外ソーテックに対して、Y特許(上記の'236特許)に基づく警告や仮処分申請を行ったY(松下)に対して、X製品に対する差止請求権不存在の確認と不正競争防止法2条1項14号(営業誹謗行為)に基づく損害賠償等を請求し、その反訴としてYがX製品の差止を求めたものです。(なお、差止請求権不存在確認の請求は、Yが反訴として差止請求を行ったことから確認の利益がなくなったとして却下されています。)
 まず、X製品がY特許を侵害するかどうかですが、X製品は次のようなUIで画面上段にある『?ヘルプ』と書かれたボタンが、Y特許の第1のアイコンに該当するというのがXの主張です。

ジャストホーム2家計簿パック
左図はジャストホーム2の画面。


『ジャストホーム2』は、株式会社ジャストシステムの著作物であり、『ジャストホーム2』にかかる著作権その他の権利は、株式会社ジャストシステムおよび各権利者に帰属します。
『ジャストホーム2』は株式会社ジャストシステムの登録商標(商標)です。

画面写真利用ガイドラインから

 特許侵害に関する争点は、
(1) X製品をインストールしたパソコンに表示される「?」ボタン及び「表示」ボタン等はY特許の構成要件の「アイコン」に該当するか。
(2) Y特許は装置クレーム及び方法クレームだが、ソフトウェアであるX製品の製造・販売がこれらクレームの間接侵害(特許法101条2号及び4号)するか。
(3) Y特許に無効理由が存在することが明らかか否か。
で、うち(2)と(3)について裁判所は判断をしておりませんが、(3)については(1)のクレーム解釈に関係してきますので、簡単にXY双方の主張を次にかいつまみます。
 Xは、Y特許は、特開昭61-281358(三洋電機)と非特許文献2件から容易に発明できたものであると主張しています。三洋の公開公報では、機能キー(ボタンを押すとある特定の処理が実行されるもの)が採用された装置において、各機能キーの機能を取説によらずオンスクリーンで説明にするために操作説明キーを設け、操作説明キー⇒機能キー(例えば、削除キー)の順番でそれぞれのキーを入力すると、削除キーの説明がディスプレイ上に表示されるというものです。2件の非特許文献は、キーとアイコンは同じようなものですよということを示すためのもので、組合わせてY特許の進歩性を否定しています。
 これに対してYは、いずれの文献にも「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン」は記載されていないと主張し、その他、処理のモードがどうのこうのと反論しておりますが、最後に、Xが挙げた文献と同様の文献による異議申立てをY特許はクリアしているのだから、無効理由が存在することは「明らか」ではないと言っています。
 筆者としては、Y特許の進歩性の有無は非常に微妙といいましょうか、Xのストーリは非常に強力ですが、Yは難しいながらも反論可能だと思います。
 次に争点(1)についてですが、裁判所は、Y特許の明細書を検討し、「各種の処理コマンドを指示するもの」と判断しています。これはフローの説明で書かれたいたものです。面白いのは、Y特許の図6で説明されているメニューメッセージについての例で、メニュー項目(文字ベース)に機能説明アイコンをドラッグするとその項目についての説明が出るというもので、明細書に書いてありませんがメニュー項目をクリックすればそれが実行されるなど処理コマンドに相当するものです。さらに面白いのは、アイコンではないと判断した図6が「他の表示例」と記載されているから、同様に「他の表示例」とされている図5で説明されているスクロールバーもアイコンに入らないと判断していることで、次に引用しますが訳がわかりません。

 もっとも,前記イ(エ)及び(オ)記載のとおり,機能説明のアイコンをウィンドウの枠部分に設けられたスクロールバーや,別のウィンドウに表示されているメニューメッセージ上に移動させた時の機能説明の表示例が示されているが,「メニューメッセージ」は,「各種の処理コマンドを指示するもの」ではないから「アイコン」には含まれず,本件発明の実施例とはいえない。本件明細書にも,前記イ(オ)のとおり,第3図及び第4図は,「本実施例」とされているが,機能説明のアイコンをメニューメッセージ上に移動させた図である第6図は,本実施例の「他の表示例」とされており,区別されている。したがって,同じく「他の表示例」とされている第5図に記載された機能説明のアイコンをスクロールバー上に移動させた例も本件発明の実施例とはいえない。したがって,スクロールバーは「アイコン」には含まれない。

 裁判所は次に「以上のとおり,本件明細書の記載からは,「アイコン」について前記認定以上に定義されているとはいえないので,本件特許出願当時の「アイコン」の意義を参酌すべきものと解される」として、出願当時の技術常識の検討を始めるのですが、更に出願後の文献についても検討し、次のように結論を出しました。

ウ 前記ア(ア)ないし(ウ)で認定したとおり,本件特許出願当時の文献によれば,アイコンとは,「表示画面上に,各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示したもの」と一般に理解されていたものということができる。
 また,前記ア(エ)のとおり,アイコンを絵文字であるとした上で,ヘルプ機能を示す「?」,文書を閉じるときの「閉じる」,ページ割付けをするための「ページ割り付け」を「アイコン」と呼ばずに区別していると解される文献もある。
 さらに,前記イで認定したとおり,本件特許出願後の文献でも,アイコンは,上記と同様に解されている上,前記イ(ウ)及び(エ)からは,絵文字で表した「アイコン」と区別して,機能そのものをデザイン化したパソコンの画像表示を「ボタン」と呼んでいる。

 定義が決まればあとは早いもので、X製品ではデザイン化されていないから絵又は絵文字とはいえないとして、アイコンではないと判示しました。Yは、Y特許の実施例に文字だけ書いたアイコンの例を記載しているなどと反論していましたが、これについては「単に簡略に記載しただけである」と非常にそっけないです。
 最後に、Yの行為が不正競争防止法2条1項14号に該当するかどうかですが、裁判所は

 前記1で認定したとおり,本件製品は本件発明の技術的範囲に属さないのであるから,本件製品をプリインストールしたソーテックのパソコンは被告の本件特許権を侵害するものである旨の告知内容は,虚偽の事実に該当する。
 しかし,このような場合であっても,告知した相手方が本件製品をプリインストールしたパソコンを販売する者であって,特許権者による告知行為が,その相手方自身に対する特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められる場合には,違法性が阻却されると解するのが相当である。これに対し,その告知行為が特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも,競業者の信用を毀損して特許権者が市場において優位に立つことを目的とし,内容ないし態様において社会通念上著しく不相当であるなど,権利行使の範囲を逸脱するものと認められる場合には違法性は阻却されず,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当すると解すべきである。

と説示した上でこれまでの経緯をつぶさに検討し、Yの行為は、特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも権利行使の範囲を逸脱したものとはいえず、正当な権利行使であると判断し、Xの訴えを退けています。

 以上のように本事件は両者痛み分けの形で終わったのですが(ソーテックに対する仮処分でソーテックを販売中止追い込んだので、実質的にYが勝ったようなものですが)、アイコンの解釈はとても気になります。公知技術などからY特許の進歩性について疑問をながらも無効が明白とまで判断することができず、心象として非侵害が固まり、その理由付けとしてこのような結果になったと感じました。特に三洋の公開公報の差異としてアイコンによる機能説明をYは強調しておりましたので、じゃあキーとアイコンとはどう峻別されるのというところに落ちてしまったのかもしれません。
 まあ、結論ありきだったから、と考えても仕方がないので、本事件における実務的な教訓は何かを考えると、用語の定義...くらいでしょうか。クレームで不用意にアイコンという言葉を使ったとかいうことではなく、あの実施例にしてあのクレームというのは筆者としては満点に近いと思いますしY側担当者の実力を感じますが、できるだけ多角的な定義を明細書に記載しておき明確なクレームを記載する/できるようにしておくべきでしょう。また、定義を異ならせた複数のクレームからクレームセットを構成するようにすべきでしょう。特に本ケースでは、装置クレームと方法クレームとでは異ならせることも可能だったと思います。
 それにしても、ソーテックはいろんなところからやられていますね。iMacの事件が有名ですが、判例随想#13で紹介したH15. 4.16 東京地裁 平成13(ワ)15719 特許権 民事訴訟事件ではカシオから本件同様のWindowsにある機能で責められています。

(2004.9.4執筆)

■抗ダイオキシン健康食品事件

H16. 7.23 東京地裁 平成14(ワ)22594等 特許権 民事訴訟事件(東京地方裁判所民事第46部三村裁判長)

 Xは抗ダイオキシン健康食品に関する発明をし、これを製品化するためにBとともに有限会社Yを設立しXはその代表者となり、Yを出願人としてXの発明を特許出願し。そしてYは公的機関への助成金の申請を行い認められたが、その頃にBと不和になり、助成金が支給された場合にはXにも分配することをBと約してYを辞任した。その後、助成金が支給されたにもかかわらずYがXに分配金を支払わないことから、主位的に本件特許の移転を求め、予備的に特許法35条3項に基づく相当対価を求めたのが本事件です。なお、賃金支払いなどの他の請求もありますが、割愛します。
 Yが本件発明の特許出願をした際、特許を受ける権利の譲渡を定める規則などは存在しませんでしたが、裁判所は

イ 本件各特許発明が職務発明に該当するか
 前記(1)記載の各事実及び本件各特許発明出願当時被告会社における原告の職務が本件各特許発明の研究開発全般にわたっていたこと(甲17,弁論の全趣旨)に照らせば,本件各特許発明は,性質上,被告会社の取締役であった原告の被告会社における業務の範囲に属し,かつ,その発明をするに至った行為は被告会社における原告の職務に属するものと認められる。また,被告会社の設立総会から本件特許出願までの期間が約4か月間と短いが,この間に,原告は,Bらと共に,発酵大豆の抗ガン作用について講演を行い,漢方薬の配合について会議を持つなど,本件各特許発明の完成について,被告会社における職務として研究していたと認められる。
 上記によれば,本件各特許発明は,特許法35条1項の職務発明に該当するというべきである。
ウ 特許を受ける権利の承継について
 原告は,本件各特許発明の商品化を企図して被告会社を設立し,被告会社の代表取締役に就任するとともに,本件各特許発明につき被告を出願人として特許出願手続を行っているのであるから,原告と被告会社の間には,特許を受ける権利ないしその共有持分を被告会社に承継させる旨の黙示の合意が存在したものと認められる(なお,Bと被告会社の間にも,同様に,特許を受ける権利の共有持分を被告会社に承継させる旨の合意が存在したと認められる。)。

として、職務発明であると判断しています。その上で、特許法35条3項の相当対価の算定において、Yの利益を

イ 被告会社の受けるべき利益
 被告会社は,本件各特許発明に係る健康食品の商品化にはいまだ成功していないものの,近い将来においてこれを商品化して独占的販売を行う可能性を有するものであり,本件特許権を有することによって,他社に対して本件各特許発明の実施を禁止できるという利益を享受している。
 そして,本件各特許発明の内容,存続期間,その属する技術分野,それを実施した商品の内容等の事情に加えて,本件各特許発明の内容が評価されて被告会社が振興公社から助成金447万8000円の交付を受けていることなど,本件にあらわれたすべての事情を総合考慮するときには,原告の本件各特許発明(本件特許発明1及び本件特許発明2)についての特許を受ける権利を被告会社が承継したことにより被告会社が受ける独占の利益としては,400万円をもって相当と認める。

と判断し、結果的に192万円(400万円×0.6(1-Yの貢献度)×0.8(共同発明者中のXの貢献度))を相当対価として認めています。
 これまで、明文の規則がない場合であっても、従業員がその為した発明を会社に譲渡する慣習などがある場合は予約承継が認められていましたが、本事件におけるYは、Xは知的財産権をBは出資金をそれぞれ提供するという合意の下設立されたものであり、予約承継された発明とはその性質を大きく異にするものと思います。
 また、Yの利益として助成金とほぼ同じ金額が認められていますが、発明の実施や許諾による利益以外で、使用者の利益が認められたのははじめてのケースだと思います。
 特許法35条3項に基づく相当対価の請求に対抗するためには、いくつかの争点が存在しますが、予約承継ではない、という反論はかなり難しいのかもしれません。

(2004.8.15執筆)

■maxcell事件

H16. 7.15 大阪地裁 平成15(ワ)11512 不正競争 民事訴訟事件(大阪地方裁判所第26民事部山田裁判長)

 本事件は、maxcellの商品等表示を使用しているXが、風俗店を営業しているYが、マクセルなどの商品等表示を使用することが不正競争防止法2条1項1号または2号に該当し、maxcellgrp.comのドメイン名を登録・使用することが不正競争防止法2条1項12号に該当するとして、その差止めと損害賠償を請求した事件です。
 裁判所はXのmaxcellの表示を著名として認め、マクセルなどの表示をYが使用することを不競法2条1項2号に該当するとして判断しています。
 次にmaxcellgrp.comのドメイン名については、要部がmaxcellでありXの表示に類似すると判断し、不正の利益を得る目的については、

 (4) 不正競争防止法2条1項12号の「不正の利益を得る目的」について検討するに、上記「不正の利益を得る目的」とは、公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的をいうと解すべきである。
 ところで、原告商品等表示が、遅くとも、昭和50年ころには、原告及びその関連会社の営業ないし商品を表すものとして著名となっていたと認められることは、上記(1)のとおりであり、これと類似する被告旧商号や被告営業表示の被告による使用が不正競争行為にあたるというべきことは、前記1で判示したとおりである。
 以上述べたところに照らせば、既に著名となっている原告商品等表示と類似する被告ドメイン名を使用してウェブサイトを開設して、その経営する飲食店の宣伝を行う行為は、著名な原告商品等表示が獲得していた良いイメージを利用して利益を上げる目的があったものと推認することができる。
 したがって、被告には、不正競争防止法2条1項12号にいう「不正の利益を得る目的」があったものというべきである。

と判断しています。
 この不正の利益を得る目的に対する説示は読み方によっては著名表示をドメイン名に使うだけで不競法2条1項12号に該当してしまうように読めてしまいますので、ちょっと驚いたのですが、X主張の本事件の事実関係においては、このドメインを使用したサイトにおいてmaxcellに類似する表示をYの営業表示として使っていますので(裁判所の上記引用において「その経営する飲食店の宣伝を行う行為」と述べているのはこのことだと思います。)、そこまでいっているわけではないと思います。
 なお、不正競争防止法2条1項12号の条文は次のとおりです。

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 12.不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

(2004.8.15執筆)

 記載については充分注意を払っておりますが、なにぶん無資格者が学習の目的とはいえ趣味の範囲で行っているものですので、万一内容に起因する損害や不利益などが生じても一切責任は負いかねますので、予めご了承下さい。