判例随想#7



もくじ

 横浜市営バス事件、呉青山学院事件、壁紙糊付機事件、プレステソフト独禁法違反事件審決、ダビスタ事件、コルチャック先生事件、ニセバーキン事件、携帯電話機用アンテナ事件、自動巻線処理装置事件、フマル酸含有徐放性製剤事件
 文字色は、判決文よりの引用法律条文の引用、となっています。
 なお、判決文に関してリンクが切れている場合、最高裁HPで検索して下さい(→こちら)。

フマル酸含有徐放性製剤事件

H13. 9. 6 東京地裁 平成12(行ウ)230 特許権 行政訴訟事件
事件の概要
原告(特許権者)が特許の分割出願につき,分割出願手続の後に,特許法41条1項の規定による優先権主張の欄を願書に追加する旨の手続補正書を提出したところ,被告特許庁が手続却下の処分をしたことから,原告が,この処分は,(1)本来認められるべき補正を却下したものであり,かつ,(2)法律的な根拠を示さないでしたものであって,違法であると主張し,その取消しを求めている事案である。
結論
請求棄却
 事件の概要に示した(1)、つまり、出願時に優先権主張を行わなかった分割出願について後になって優先権主張ができるかどうかが気になった事件です。
 問題となった分割出願は原告が補正を行おうとしたときには既に登録査定がなされており(原告が補正を行おうとした契機は第3者からの特許異議申立でした)、被告特許庁は、本分割出願は特許庁に係属しなくなっていたので補正できないと予備的に主張しています。しかし、裁判所は特にこの点には触れず、優先権主張を出願後にできるかどうかを判示していますので、出願後の全ての段階において対象になると思います。
 まず裁判所は、「国内優先権は・・・第三者に及ぼす影響が大きいものである」ため特許「法41条4項は,特許出願について国内優先権の主張をしようとする者は,その旨及び先の出願の表示を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出しなければならないとして」おり、特許「法44条2項は・・・分割出願について国内優先権の主張をしようとする場合には,改めて上記の法に定められた方式を履践することが要請されている」と述べ、
 補正とは,特許庁への手続が不備であったり,明細書,図面や要約書に不備,誤記,不明瞭な記載があった場合にそれらの補充や訂正を行うことをいうものであるところ,上記のような国内優先権の制度趣旨及びその手続に関する規定の内容に照らせば,国内優先権の主張は,特許出願の分割の場合であっても,法に定められた方式により厳格にされなければならず,具体的な手続としては,国内優先権の主張は,特許出願と同時(特許出願の分割の場合は分割による新たな特許出願と同時)にされる必要があるというべきであるから,特許出願の際に実際にされた国内優先権の主張の記載上についての明白な誤記を補正するような場合は別として,特許出願の際に優先権主張の手続をしていないこと自体を後になって補正することは,補正の限度を超えるものとして許されないと解するのが相当である。
 としました。参考までに引用条文を以下に示します。(括弧書きは省略しました)
特許法第四十一条(特許出願等に基づく優先権主張)

2 前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明についての第二十九条、第二十九条の二本文、第三十条第一項から第三項まで、第三十九条第一項から第四項まで、第六十九条第二項第二号、第七十二条、第七十九条、第八十一条、第八十二条第一項、第百四条及び第百二十六条第四項、同法第七条第三項及び第十七条、意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第二十六条、第三十一条第二項及び第三十二条第二項並びに商標法第二十九条並びに第三十三条の二第一項及び第三十三条の三第一項の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にされたものとみなす。

4 第一項の規定による優先権を主張しようとする者は、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出しなければならない。


特許法第四十四条(特許出願の分割)

2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用並びに第三十条第四項、第三十六条の二第二項、第四十一条第四項並び第四十三条第一項(前条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。
 優先権主張を後ではできない、というのは特許本にも書いてあるとおもうのですが、本件は分割出願に係るものであり、親出願では優先権主張がなされていたので、原告は「本件分割出願の願書に国内優先権主張の記載がないのは,単なる記載漏れであることが明白であ」り、補正を認めても(後で優先権主張を行っても)「第三者に不測の不利益をもたらすことはない」と主張していました。
 この点について裁判所は、
 しかし,国内優先権を主張するか否かは,そもそも出願人の自由な選択に任されているのであり,前記のとおり,法は分割出願の場合であっても国内優先権の主張につき厳格な手続を規定しているのであるから,原告が本件分割出願の際に優先権の主張をしなかったことをもって,単なる記載漏れとして扱うべきものと解することはできない。原告の主張するところは,実質的には国内優先権の主張を伴わない分割出願を国内優先権の主張を伴う分割出願に変更することを求めるものであり,補正の名の下に新たな手続を行うことを認めることを求めるものであるが,そのような補正が,現実に履践された手続についてその不備を訂正するという法17条1項の補正の範囲を逸脱するものとして許されないことは,明らかである。原告の上記主張は理由がない。
として、これを退けています。

 まあ、本事件、原告の知財担当者のうっかりミスが原因だと思いますので、特許実務に携わっているものとしては他人事ではなかったりします。願書なんてものは、前の出願からコピーして使ってます、なんてこともあると思いますが、入念なチェックが肝要であるということを再認識させられる事件でした。願書を入念にチェックしてもせいぜい数分ですしね。
 なお、本分割出願では適用はありませんが、平成11年法で
第四十四条(特許出願の分割) 4 第一項に規定する新たな特許出願をする場合には、もとの特許出願について提出された書面又は書類であつて、新たな特許出願について第三十条第四項、第四十一条第四項又は第四十三条第一項及び第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは、当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。


附則 (平成一一年五月一四日法律第四一号) 抄
(特許法の改正に伴う経過措置)
第二条
2 この法律の施行後にされた特許出願であって、特許法第四十四条第二項(同法第四十六条第五項及び実用新案法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定により施行前にしたものとみなされるものについては、第一条の規定による改正後の特許法(以下「新特許法」という。)第四十四条第四項(新特許法第四十六条第五項及び実用新案法第十一条第一項において準用する場合を含む。)の規定を適用する。
と改正されましたので、今後このような事件は起きないかなと思います。
(2001.9.15執筆)


自動巻線処理装置事件

H13. 9. 6 東京地裁 平成12(ワ)6125 実用新案権 民事訴訟事件
事件の概要
自動巻線処理装置の実用新案権を有する原告が,被告に対し,被告装置は原告の上記実用新案権の技術的範囲に属しており,被告装置の製造・販売等は同実用新案権を侵害すると主張して,同実用新案権に基づき,製造等の差止め、損害賠償を求めたもの。
結論
請求棄却
 本事件は、被告の被告先行製品(本件被告製品よりも前に実施されていた被告の製品)による先使用権に基づき(それにプラスして被告の公然実施によって原告実用新案権に明白な無効事由があるため権利の濫用に当たるとして)、原告の請求が棄却されたのですが、実施例に関しての裁判所の説示が気になりました。

 本事件では、被告の先行製品が本件実用新案権の権利範囲に属するか否かが争われたのですが(これが肯定されると被告に先使用権が認められます)、被告先行製品は本件実用新案の実施例に相当する構成でした。(なお、本件にかかる被告製品の構成は被告先行製品の構成と若干異なります。)
 原告は実施例に相当する構成を権利範囲外であると主張したようですが(判決文に明確に記載はされていませんでしたが)、この点につき裁判所は、括弧書きで次のように説示しました。(括弧ははずしています)
なお,付言するに,本件考案の技術的範囲の認定をさておくとしても,原告は,本件考案の出願に当たって願書に添付した明細書及び図面において,前記の実施例(本件公報第1図)を本件考案の実施例として記載したものである以上,その後の侵害訴訟において,これを翻し,自ら実施例として記載したものを考案の技術的範囲外のものと主張することは,禁反言の原則に照らし,許されないものというべきである(そのような行為は,実用新案登録公報に記載された実施例と同一の物を実用新案登録出願前から製造等している第三者が,公報の記載を信頼してその製造等を継続する利益を,不当に覆すものであって,信義則上許されない。)。したがって,本件において原告が被告の先使用の抗弁を争うことは許されないというべきであり,被告の先使用の抗弁は,この点からも理由があるということができる。
 この説示、特許実務者としての観点でみると、ちょっとどうかなという気がします。どこが禁反言?公報の記載を信頼してその製造等を継続する利益って何?という点はさておくとして、本来、権利範囲に属するもの(本件実用新案/発明を実施したもの)が実施例である、というのは考え方はよくわかりますが、さほど気にせずに明細書を作成することは結構あるのではないかと思います。
 比較例として記載してしまうと権利範囲に属さないと自認したことになる、という判例(事件番号などは失念)がありましたので、クレームに入るものは実施例として記載する、というのは少なくとも個人的には強く敢行しているのですが、クレームに入らないものは実施例としては記載しないようにしているかといえば、ちょっと自信がありません。
 特に出願後のクレームの補正や分割出願に際しては、クレーム範囲に入らなくなった実施例を比較例や参考例に変更していない例も多いかと思います。
 まあ、本事件はクレームの解釈からしても被告先行製品が本件実用新案権の権利範囲に属するとされうるものでしたので、こういう風に裁判所は説示したようで(それに括弧書きですし)、あまり気にしなくてもいいのかなとは思うのですが、米国特許や欧州特許のようにクレームは補正しても詳細な説明は補正しない、といった実務を日本出願でもおこなうと、意外な落とし穴があるのかも知れませんね。
 とかく、詳細な説明を参酌しすぎるきらいがありますから、日本の裁判所は。
(2001.9.14執筆)


携帯電話機用アンテナ事件

H13. 8.30 東京地裁 平成11(ワ)7300等 不正競争 民事訴訟事件
事件の概要
原告が,(1)被告の製造販売する携帯電話機用アンテナは,原告の製造販売に係る携帯電話機用アンテナ(後記「第1アンテナ」及び「第2アンテナ」)の形態を模倣した商品(不正競争防止法2条1項3号)である,(2)原告と被告との間には携帯電話機用アンテナについての継続的商品供給契約が締結されていたところ,被告が正当な理由なく商品供給を停止したことは債務不履行又は不法行為に当たると主張して,被告に対し,(1)又は(2)を理由とする損害賠償(選択的請求)を求めた(甲事件)のに対し,被告が,反訴として,原告に対し,(1)原告の製造販売に係る携帯電話機用アンテナは丙事件原告の有する意匠権を侵害するものであるとして,この意匠権の独占的通常実施権及び専用実施権に基づく損害賠償1億円,及び,(2)被告が原告に供給した上記アンテナ等の売掛金残金1024万0034円の各支払を求める(乙事件)とともに,丙事件原告(D)が,原告に対し,意匠権侵害に基づき損害賠償(被告への専用実施権設定前の期間についてのもの)を求めている(丙事件)事案
結論
一部容認(乙事件(2)について)
 原告が、被告携帯電話用アンテナが原告携帯電話用アンテナの形態を模倣したものと主張しながら、被告意匠権(被告携帯電話用アンテナはこの意匠権の実施品に相当)に類似しないと主張することが、信義則に反するかどうかの裁判所の説示に興味を持った事件です。
 次に、裁判所の説示部分を示します。
しかし,不正競争防止法2条1項3号の趣旨が,前記のとおり,他人が資金・労力を投下して開発・商品化した商品の形態を模倣して,その成果にただ乗りする行為を不正競争行為と位置付けることにより,先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたものであるのに対して,意匠権制度は,視覚的な美感上の創作物である意匠の保護を通じて,意匠の創作を奨励し,産業の発達に寄与することを意図したものであって,両者は,制度趣旨が異なるものであるから,不正競争防止法上,自他の商品の形態が実質的に同一かどうかの判断と,意匠法上の自他の意匠の類否の判断は,それぞれ,その制度趣旨に照らして行われる異なる観点からの判断である。したがって,不正競争防止法上,実質上同一の形態と評価される商品であっても,当該商品の分野における既存の公知意匠等との関係から美感上は異なる印象を与えるものとして,意匠の類似の範囲に属しないと評価されることもあり得るものというべきであるから,本件本訴及び反訴において,原告が不正競争防止法上の形態の同一性と意匠の類否の点について,それぞれの観点からの主張をしていることをもって,訴訟上の信義則に反するということはできない。被告及び丙事件原告の前記主張は,採用できない。
 本事件では、この意匠登録出願がされていたこともあって、被告製品は原告製品の形態を模倣したものではないとされましたが、不正競争防止法2条1項3号と意匠権や特許権などの知的財産権がコンフリクトしてしまうことなんてありうるのかな、とちょっと疑問に思いました。
(2001.9.9執筆)


ニセバーキン事件

H13. 8.31 東京地裁 平成12(ワ)26971 不正競争 民事訴訟事件
事件の概要
エルメス社のバッグ・バーキンに酷似するバッグ(商品名:エポニーヌ)を製造・販売していた原告が、被告の被告バッグを製造・販売する行為が不正競争法の商品形態模倣行為(不競法2条1項3号)に該当するなどとして、損害賠償を求めたもの。
結論
請求棄却
 盗人猛々しいとはこのことか、という事件です。
 被告の主張によると、被告バックもエルメス社のバッグ・バーキンを模倣したもので、原告・被告ともバーキンのニセモノ(というのには語弊がありますが)を作っていたということなのですが、そのことはさておき、不競法2条1項3号
第2条
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
3. 他人の商品(最初に販売された日から起算して3年を経過したものを除く。)の形態(当該他人の商品と同種の商品(同種の商品かない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入する行為
における「他人」とは誰を指すのか(不競法に基づく請求をできるものは誰か)について、裁判所は、不競法2条1項3号が「費用,労力を投下して,商品を開発して市場に置いた者が,費用,労力を回収するに必要な期間(最初に販売された日から3年),投下した費用の回収を容易にし,商品化への誘因を高めるためには,費用,労力を投下することなく商品の形態を模倣する行為を規制するのが相当である」という趣旨で設けられたものなので、「法2条1項3号所定の不正競争行為について同法4条により損害賠償を請求することができる者は,自ら費用,労力を投下して,当該商品を開発して市場に置いた者に限られる」としました。
 この点については、いくつかの裁判例でも同様の説示をしており、被告自身も費用、労力を投入していたので「他人」に当たるとされた例などもあったりしたのですが、商品形態模倣行為を考える上で基本になることだと思います。

 さて、本事件について原告が「他人」に該当するかについて裁判所は、
原告製品の形態は,著名なエルメス社のバーキンの形態を模倣したものであり,原告は,自ら費用,労力を投下して,商品を開発して市場に置いた者ということはできない。そうすると,原告は法4条により損害賠償を請求することができる者に当たらない。
として、「他人」には該当しないとしました。

 原告の主張に面白い点(例えば、「原告製品は,エルメス社の顧客とは異なる顧客層を対象とし,独自の市場を開拓したものであるから,原告製品の形態にはその市場において独自性があるといえる。」など)もあるのですが、原告の成功もエルメス社へのただ乗りのおかげなわけで、クリーンハンドの原則で考えてもいい事件だと思いました。
 なお、営業秘密に関する点は割愛しました。
(2001.9.6執筆)


コルチャック先生事件

H13. 8.28 大阪地裁 平成11(ワ)5026 著作権 民事訴訟事件
事件の概要
原告が、被告らが劇を上演・放送した行為は、原告著作権を侵害するものとして、損害賠償等を求めたもの。
結論
請求棄却
 マスコミでも報道され目にされた方も多いかと思いますが、内容として今一つかなという感じです。
 被告劇団は原告著作の「コルチャック先生」などをもとに舞台劇を作り、被告放送協会がこれを録画・放送したのですが、この「コルチャック先生」を出版していた、舞台劇の後援者でもある被告新聞社が、本の宣伝のためもあってか舞台劇の原作者が原告であると触れ回り、原告に対してもそのように扱っていたようです。
 裁判所は、本件舞台と原告著作物とを比較検討の上、本件舞台劇が原告著作物を翻案したものとは言えないと判断しました。

 本件の舞台劇作成の過程において、はじめは原告と被告らとの関係は良好だったようですが、その後関係が悪化し、本事件へと発展したわけで、裁判もこの点は、被告らの「態度は、原告に対する関係では背信的な行為であるといわざるを得ない」としているのですが、「背信的な事情があるからといって、本件舞台劇・・・が原告著作の翻案とはいえないとの前記判断を左右するものではない」わけでして、本事件は著作権事件にありがちな著作権者の思い込みに起因するものはありますが、ちょっと原告がかわいそうな気もしてきます。
(2001.9.2執筆)


ダビスタ事件

H13. 8.27 東京地裁 平成10(ワ)23824 その他 民事訴訟事件
事件の概要
競走馬を所有する原告らが,原告らの所有する競走馬の名称を使用して家庭用ビデオゲームソフトを製作,販売等する被告の行為は,いわゆる「パブリシティ権」の侵害に当たるとして,前記ゲームソフトの製作等の差止め及び不法行為に基づく損害賠償を請求している事案。
結論
棄却
 先行のギャロップレーサー事件(H12. 1.19 名古屋地裁 平成10(ワ)527)では、競走馬のパブリシティ権が認められていただけに注目を集めた事件です。両事件を比べると、一見、結論が逆になっているようですが、理由付けを読んでみると、さほど違った判断をしているのではないな、という印象を持ちました。
 次に、両事件を対比しながら見ていきます。

 まず、物のパブリシティ権は認められるか、差止請求できるか、損害賠償請求できるか、の点について両事件の判断をまとめると次のようになります。
   ダビスタ事件   ギャロップレーサー事件
物のパブリシティ権は認められるか×
差止請求できるか××
損害賠償請求できるか
 まず、物のパブリシティ権について本事件では、
(1)排他的な権利を認めるためには,実定法の根拠(人格権など明文がないものも含む。)が必要であるが,原告らが主張する「物の経済的価値を排他的に支配する権利」を,従来から排他的権利として認められている所有権や人格権の作用を拡張的に理解することによって,根拠付けることは到底できない。
(2)上記のとおり,排他的な権利を認めるためには,実定法の根拠が必要であるが,知的財産権制度を設けた現行法全体の制度趣旨に照らし,知的財産権法の保護が及ばない範囲については,排他的権利の存在を認めることはできない。また,「物の経済的な価値を排他的に支配する」利益を尊重する社会的な慣行が長い間続くことによって,これが慣習法にまで高められれば,明文上の根拠がなくとも,排他的権利の存在が認められるとの見解に立ったとしても,原告らが主張する排他的権利を肯定することは到底できない。
との理由から(理由の補足もされていますが割愛します)、裁判所は物のパブリシティ権の「存在を肯定することはできないと判断」しました。
 これは、ギャロップレーサー事件において名古屋地裁が「(1)成立要件、(2)侵害があった場合の救済手段、(3)譲渡による効果、(4)権利期間等はどのようなものか検討」してまで物のパブリシティ権を認めていたことに比べると、かなり異なる判断だと思います。

 また、差止請求権については、本事件ではパブリシティ権が認められなかったわけですからそのまま否定されましたが、ギャロップレーサー事件においても「差止めは許されないもの」と判断されています。理由付けはともかく、この点は両事件にあまり差がありません。

 次に、賠償請求についてですが、裁判所は「被告の行為が民法所定の不法行為に該当するとして,損害賠償義務を負うと解する余地もない」として被告の行為を検討し、「被告は,本件各ゲームソフトを販売するに当たって,特定の競走馬に対する関心,好意又は憧憬に訴えて,顧客の購買意欲を高めようとしたことはなく,また,特定の競走馬に関連する宣伝広告をしたことはない」として、損害賠償を認めていません。
 一方、ギャロップレーサー事件においても、不法行為により損害賠償が認められるかどうかは「物についての名称、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、右使用が物の名称、肖像等のパブリシティ価値に着目してその利用を目的とするものであるといえるか否かにより判断すべきである」として被告の行為を検討してこれを認め、損害賠償請求を認められました。
 つまり、ざっくりいってしまえば、両事件の結論で差(損害賠償請求)が生じた理由は、本事件では原告競走馬が登場することを売りにはなっていなかったので損害賠償が認められなかったに対し、ギャロップレーサー事件ではこれが売りなっていたために損害賠償が認められた、ということになると思います。
 中田英寿選手のサッカー選手パブリシティ事件でも同様に中田選手の写真などを売りになっていたかどうかの判断がなされていますが、著名人/物のパブリシティ権に基づく損害賠償請求と一般不法行為による損害賠償請求とはどう違うのかな、というのが本事件を読んだ感想の一つです。

 最後に、本事件において物のパブリシティ権が認められたかった理由として気になったのは、著名人のパブリシティ権について
第三者が,社会的評価,名声等を獲得した自然人の氏名,肖像等を,当該自然人の承諾なく利用した場合に,その利用行為が,当該自然人の社会的評価,名声等を低下させると評価される限りにおいて,当該自然人の人格権を侵害することになるため,当該自然人は,自己の人格権に基づいて,氏名,肖像等を利用する第三者の行為を差し止めることができる。このことを経済的な側面から観察すれば,自然人が社会的評価,名声を獲得した場合には,顧客吸引力などの経済的価値を利用する一切の行為を独占することができると理解することもできよう。
と述べている点から、あくまでもパブリシティ権は人格権の行使による反射効だと捉えたからじゃないかと思いました。この点、ギャロップレーサー事件では著名人のパブリシティ権を人格権とは別個に肯定しているため、物のパブリシティ権を肯定したのだと思うのですが。
(2001.8.30執筆)


プレステソフト独禁法違反事件審決

H13. 8.2 公正取引委員会平成10年(判)第1号審決
事件の概要
ソニー・コンピュータ・エンターテインメント(SCE)が、小売業者に対し、ゲームソフトの再販売価格を拘束し、また中古販売を禁止・制限し、独占禁止法第19条の規定に違反するか否かが、公正取引委員会の審判で争われたもの。
結論
独占禁止法第19条の規定に違反する。
 初めての独禁ものです。独禁法は入門編を触った程度でよくわからないので、著作権がらみで気になった点だけ紹介します。
 まずは、独禁法19条ですが、
第19条
 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
というもので、具体的な取引方法は別に定められています。
 ところで、独禁法は、その21条で
第21条
 この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。
と、適用除外が定められており、SCEは、映画の著作物であるゲームソフトの著作権者であるSCEによる頒布権を行使であり、独禁法の適用はないと主張しました。
 これに対して、審判は、
しかしながら,同条の規定は,著作権法等による権利の行使とみられるような行為であっても,競争秩序に与える影響を勘案した上で,知的財産保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,当該行為が同条にいう「権利の行使と認められる行為」とは評価されず,独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると解される。そして,前記イのとおり,本件においては,中古品取扱い禁止行為が再販売価格の拘束行為と一体として行われ,同行為を補強するものとして機能しており,中古品取扱い禁止行為を含む全体としての再販売価格の拘束行為が公正競争阻害性を有するものである以上,仮に被審人の主張するとおり,PSソフトが頒布権が認められる映画の著作物に該当し,中古品取扱い禁止行為が外形上頒布権の行使とみられる行為に当たるとしても,知的財産保護制度の趣旨を逸脱し,あるいは同制度の目的に反するものであることはいうまでもないから,被審人(筆者註、SCE)の上記主張は採用できない。
と判断しました。
 中古ゲーム事件の高裁判決が色濃く影響を及ぼしているのかなとも思うのですが、今後著作権の重要性は増すばかりですから、著作権の行使と独禁法の問題も重要性を増していくと思いました。
(2001.8.10執筆)


壁紙糊付機事件

H13. 7.26 大阪地裁 平成12(ワ)4184 特許権 民事訴訟事件
事件の概要
壁紙糊付機についての特許権を有する原告が、被告製品がこれを侵害するものとして、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのための展示、輸出の差止めを求め、損害賠償を請求したものです。
結論
差止請求棄却、損害賠償一部容認
 なんでそんな請求をしたのかな、と気になった事件です。
 事件の概要にも記載しましたが、原告は輸出の差止めを求めました。輸出は発明の実施行為にはあたらず、裁判所も「輸出自体は物の発明の実施に含まれないから(特許法2条3項1号参照)、原告による輸出の差止めの請求も、理由がない」と一蹴しています。輸入の差止めが必要な何かがあるのかなと思いましたが、原告の主張を読むにそのような箇所は見あたりませんでした。

 で、損害論についてなのですが、原告は、設定登録日から本訴提起までの期間分の損害賠償求めました。これに対して、被告は特許登録公報が発行されるまでは特許法103条による過失推定は成立しないと反論し、裁判所も、
特許法103条により過失が推定される根拠は、特許権の存在が公示されていることにあるから、特許権登録後であっても、特許公報の発行が行われていない期間については、過失推定の根拠を欠き、過失は推定されないというべきである。
として被告の主張を認めました。
 特許法103条とは、
第百三条(過失の推定)
 他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
で、青本での解説もこの通りなのですが、なぜ(ちゃんと弁護士と弁理士がついていた)原告がこのような主張をしたのかわからないです。

 更に不可解なのは原告が主に主張していた「本件特許権の登録日の翌日である平成12年1月15日から同年6月30日までに原告が販売できると見込まれた補助動力源付手動壁紙糊付機の数は600台であり、この間に原告が実際に販売したのは66台であるから、原告は、被告の販売によって、534台分につき販売する機会を失った」からこれについて賠償せよというもので、その根拠って何?って感じなのですが、裁判所もこれを「裏付ける証拠はないから、この点に関する原告の請求は理由がない」として退けています。
 損害論における原告の主張って意外と面白いな、ということがわかっただけでも収穫かなと思います。

 ところで、先に説明すべきだったかも知れませんが、本件特許は、公開公報が公開(平成12年4月4日)される前に設定登録(平成12年1月14日)され特許公報が発行(平成12年3月15日)されたものでした。公開される前に特許公報が出ること自身は最近では珍しくはないですが、本事件では、差止請求が棄却されたことからもわかるように被告は急いで設計変更したけれども損害賠償を免れなかったわけで、特許ウォッチングを慎重にやったとしても限界があるな、いろいろと考えさせられました。
(2001.8.5執筆)


呉青山学院事件

H13. 7.19 東京地裁 平成13(ワ)967 不正競争 民事訴訟事件
事件の概要
原告は「青山学院大学」「青山学院中等部」等の学校を設置運営する学校法人であるが,被告が設置運営する中学校に「呉青山学院中学校」,ローマ字表記,英語表記として「Kure Aoyama Gakuin」,「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の名称を用いる行為は,不正競争行為に当たり,同時に「青山学院」「AOYAMA GAKUIN」等の原告の商標権を侵害するとして,被告に対し,選択的に,不正競争防止法2条1項1号,2号又は商標法36条1項に基づき上記各名称等の使用差止めを求めるとともに,被告の不正競争行為又は商標権侵害を理由とする損害賠償を求めたもの。
結論
使用差止め容認、損害賠償請求棄却
 マスコミに取り上げられた事件ですので、目にされた方は多いかと思いますが、個人的には、不競法2条1項1号(周知表示混同惹起行為),2号(著名表示冒用行為)の適用除外に関する不競法11条1項1号の判断、「普通名称等を普通に用いられる方法」について興味を持った事件です。
 なお、不競法11条は次の通りです。
(適用除外等)
第11条
第3条から第8条まで、第13条(第3号に係る部分を除く。)及び第14条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。

1. 第2条第1項第1号、第2号、第12号及び第14号に掲げる不正競争
商品若しくは営業の普通名称(ぶどうを原料又は材料とする物の原産地の名称であって、普通名称となったものを除く。)若しくは同一若しくは類似の商品若しくは営業について慣用されている商品等表示(以下「普通名称等」と総称する。)を普通に用いられる方法で使用し、若しくは表示をし、又は普通名称等を普通に用いられる方法で使用し、若しくは表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入する行為(同項第12号及び第14号に掲げる不正競争の場合にあっては、普通名称等を普通に用いられる方法で表示をし、又は使用して役務を提供する行為を含む。)
 さて、本事件で被告が「「呉青山学院中学校」という名称は営業の普通名称であり,不正競争防止法11条1項1号が適用されるから,被告が被告名称を用いる行為は,不正競争行為に該当しない」と主張したのに対して、裁判所は、「呉青山」については「呉青山学院中学校の所在地が呉市青山町2番1号であることに照らせば,「呉青山」は,「呉市青山町」を短縮表記したものとして,役務提供の場所を示す名称ということができる」とし、「中学校」については「学校教育法上の中等普通教育を施すことを目的とする学校を示す普通名称」としつつも、「学院」については
他方,「学院」は,学校の異称であって,ミッションスクールや各種学校等において多く用いられる普通名称であるが,法令上の根拠を有する語ではない。「学院」の語は,所在地の地名と組み合わせて学校の名称として用いられることもあるが,地名(地方名,県名,市町村名等)に「学院」の語を直接続けた「○○学院」の名称を用いている中学校ないし高等学校の数は約30校で,全国の中学校,高等学校の総数からみれば極めて小さな割合であり,また,それらの名称をみると,例えば,地方名を冠したものは東北学院,関東学院,関西学院,九州学院,常総学院など,県名・市町村名等を冠したものは広島学院,宮城学院,目黒学院,帝塚山学院などであって,その多くは,単に当該地名により表された地域に所在する学校という意味を超えて,特定の経営主体により設置運営されている特定の学校を示す固有名称として社会的に認識されていること(弁論の全趣旨により認められる。)に照らせば,所在地の地名と「学院」の組合せが,普通名称又は学校について慣用されている表示に該当すると認めることはできない。
としました。
 ちょっと強引かなという気もしますが、本事件、原告の「青山学院」なる表示の著名性が認められており、被告表示についても「原告名称が著名性を有するものであることに照らせば,「青山学院」の部分が,特に被告漢字名称を目にした者の注意をひき,強い自他識別力を有するものと認められる」とされている点から、「青山」という地名と「学院」との組合せについて判断する必要があったわけで、不競法11条1項1号の「普通名称等を普通に用いられる方法」について考える上で、参考になるなと思いました。
(2001.7.29執筆)


横浜市営バス事件

H13. 7.25 東京地裁 平成13(ワ)56 著作権 民事訴訟事件
事件の概要
原告の絵画(原告作品)が車体に描かれた横浜市営バス(本件バス)の写真を掲載した被告書籍を販売した行為が、原告が有する著作権及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると主張して,損害賠償の支払を求めたもの。
結論
請求棄却

 路線バスの車体に描かれた絵画の著作物性が認められたとして、マスコミをにぎわわせた事件ですが、個人的には、路線バスに描かれた原告作品について公開の美術の著作物等の利用に関する著作権法第46条の適用が争点となった事件として、興味を持ちました。
 公開の美術の著作物等の利用とは、公園に設置された銅像は自由に写真に撮ったり模写してもよい、といった著作権の制限に関するもので、ちょっとした著作権のテキストには必ず出てくるのですが、これに絡んだ事件ははじめて目にしました。そうそう、条文は次の通りです。
(公開の美術の著作物等の利用)
第46条
 美術の著作物でその原作品が前条第2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

1. 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
2. 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
3. 前条第2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
4. 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合
なお、上記条文の柱書中の「前条第2項に規定する屋外の場所」とは「街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」のことです。

 さて、本事件ですが、原告は、「本件バスに描いた原告作品は,屋外に恒常的に設置されたものではない。設置とは,場所的な固定を意味する。本件バスは,指定された運行時間内のみ道路を走行するものであって,一定の場所に固定されていない。また,運行時間外は,塀で囲まれ,かつ,ガードマンによって警備される市営バスの専用駐車場に駐車されているのであって,一般公衆に開放されている屋外の場所に恒常的に存在しているものでもない。」として、原告作品は「屋外の場所に恒常的に設置されているもの」ではないと主張しました。
 裁判所は、まず、この条文の趣旨について
法46条柱書は,美術の著作物で「その原作品が街路,公園その他の一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」に「恒常的に設置されているもの」は,所定の場合を除き,いずれの方法によるかを問わず,利用することができる旨を規定し,屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物について,一定の例外事由に当たらない限り公衆による自由利用を認めている。同規定の趣旨は,美術の著作物の原作品が,不特定多数の者が自由に見ることができるような屋外の場所に恒常的に設置された場合,仮に,当該著作物の利用に対して著作権に基づく権利主張を何らの制限なく認めることになると,一般人の行動の自由を過度に抑制することになって好ましくないこと,このような場合には,一般人による自由利用を許すのが社会的慣行に合致していること,さらに,多くは著作者の意思にも沿うと解して差し支えないこと等の点を総合考慮して,屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物については,一般人による利用を原則的に自由としたものといえる。
と説示した上で、「屋外の場所」については、
前記の趣旨に照らすならば,同条所定の「一般公衆に開放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」とは,不特定多数の者が見ようとすれば自由に見ることができる広く開放された場所を指すと解するのが相当である。原告作品が車体に描かれた本件バスは,市営バスとして,一般公衆に開放されている屋外の場所である公道を運行するのであるから,原告作品もまた,「一般公衆に開放されている屋外の場所」又は「一般公衆の見やすい屋外の場所」にあるというべきである。
とし、「恒常的に設置する」については、
前記の趣旨に照らすならば,同条所定の「恒常的に設置する」とは,社会通念上,ある程度の長期にわたり継続して,不特定多数の者の観覧に供する状態に置くことを指すと解するのが相当である。原告作品が車体に描かれた本件バスは,特定のイベントのために,ごく短期間のみ運行されるのではなく,他の一般の市営バスと全く同様に,継続的に運行されているのであるから,原告が,公道を定期的に運行することが予定された市営バスの車体に原告作品を描いたことは,正に,美術の著作物を「恒常的に設置した」というべきである。
この点,原告は,本件バスが,夜間,車庫内に駐車されるため,恒常的とはいえない旨主張する。しかし,広く,美術の著作物一般について,保安上等の理由から,夜間,一般人の入場や観覧を禁止することは通常あり得るのであって,このような観覧に対する制限を設けたからといって,恒常性の要請に反するとして同規定の適用を排斥する合理性はない。
とし、更に原告が、「「設置する」とは,美術の著作物が,土地や建物等の不動産に固着され,また,一定の場所に固定されていなければならないと解すべき」と主張した点について、
確かに,同規定が適用されるものとしては,公園や公道に置かれた銅像等が典型的な例といえる。しかし,不特定多数の者が自由に見ることができる屋外に置かれた美術の著作物については,広く公衆が自由に利用できるとするのが,一般人の行動の自由の観点から好ましいなどの同規定の前記趣旨に照らすならば,「設置」の意義について,不動産に固着されたもの,あるいは一定の場所に固定されたもののような典型的な例に限定して解する合理性はないというべきである。
として、原告作品は「屋外の場所に恒常的に設置されているもの」であると判断しました。

 46条の適用のためには、46条各号の例外に当てはまらない必要があるのですが、特に4号について、被告は被告書籍を販売していたため4号に該当すると原告は主張していました。
 裁判所は、まず4号の趣旨について、
法46条4号は,「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し,又はその複製物を販売する場合」には,一般人が当該美術の著作物を自由に利用することはできない旨規定する。同規定は,法46条柱書が,前記のとおり,一般人の行動に対する過度の制約の回避,社会的慣行の尊重及び著作者の合理的意思等を考慮して,一般人の著作物の利用を自由としたことに対して,仮に,専ら複製物の販売を目的として複製する行為についてまで,著作物の利用を自由にした場合には,著作権者に対する著しい経済的不利益を与えることになりかねないため,法46条柱書の原則に対する例外を設けたものである。
と説示した上で、被告書籍について検討し、
以上認定した事実によれば,確かに,被告書籍には,原告作品を車体に描いた本件バスの写真が,表紙の中央に大きく,また,本文14頁の左上に小さく,いずれも,原告作品の特徴が感得されるような態様で掲載されているが,他方,被告書籍は,幼児向けに,写真を用いて,町を走る各種自動車を解説する目的で作られた書籍であり,合計24種類の自動車について,その外観及び役割などが説明されていること,各種自動車の写真を幼児が見ることを通じて,観察力を養い,勉強の基礎になる好奇心を高めるとの幼児教育的観点から監修されていると解されること,表紙及び本文14頁の掲載方法は,右の目的に照らして,格別不自然な態様とはいえないので,本件書籍を見る者は,本文で紹介されている各種自動車の一例として,本件バスが掲載されているとの印象を受けると考えられること等の事情を総合すると,原告作品が描かれた本件バスの写真を被告書籍に掲載し,これを販売することは,「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し,又はその複製物を販売する行為には,該当しないというべきである。
として、4号に該当しないとしました。
 「「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的」の考え方を見ると、サッカーの中田英寿選手の詩を書籍に掲載した事件での判示を思い出しますが、問題の複製物がどれくらい“売り”になっているかが判断のポイントかと思います。

 ところで、本事件、被告書籍は「なかよし絵本シリーズ (5) まちをはしる はたらくじどうしゃ」という幼児向けのもので、だいたいどんな内容か想像がつくのですが、「画家としてのイメージを大切にしたいとの思い等から,作品発表の場を慎重に選択し,特にマス・メディア関係では,慎重な姿勢を維持し続け,画家としての力量が充実した時点で,初めてマス・メディアにデビューしようと計画していた」原告のイメージを損なうような事件じゃないかと思ったりします。
 まあ、芸術の源は案外こんなところにあるのかも知れませんが。
(2001.7.29執筆)



 記載については充分注意を払っておりますが、なにぶん無資格者が学習の目的とはいえ趣味の範囲で行っているものです。万一内容に起因する損害や不利益などが生じても一切責任は負いかねますので、予めご了承下さい。

最終更新日:更新:2001年 10月 6日 土曜日