中国で反日サイト急増 外交政策に影響力拡大
当局、過敏に反応 新幹線計画、首脳交流も足踏み
産経新聞 2003/12/30
 【北京=福島香織】中国のインターネット上の反日サイトが急増している。大手反日サイト「愛国者同盟ネット」から広がるリンクは掲示板も含めると七十以上。新華社などの掲示板への組織だった書き込みで、公式メディアの論調や中国政府の対日外交政策をも左右するなど、無視できない影響力を発揮しはじめている。

 最近のネットの反日世論形成の事例をみると、黒竜江省チチハル市の旧日本軍遺棄化学兵器事故では愛国者同盟ネットが被害者への賠償を訴え九月中旬までに百万人以上の署名を集めた。

 珠海市の日本人集団買春騒動も目撃者を名乗る人物のネット掲示板への書き込みが発端。西安市の日本人留学生らの寸劇が発端となった反日デモのケースはネット上に蔓延(まんえん)したデマで拡大した。

 反日サイトの多くは最近二年内にできたもので、公表している会員数などから推測すると“住人”は十万人程度。中国のネットユーザーは七千八百万人、中国人口約十三億人と比較すると実は世論とも言えないほど小さな世界だ。

 内容も時代錯誤な「日本製品の不買行動」を呼びかけたり、日本人女性への性的侮辱など下品なののしりばかりで本来なら無視してもよさそうなものだが、中国の外務省や国務院は過敏にこういったネット世論に反応している。

 北京−上海間の高速鉄道計画で日本の新幹線技術採用反対署名がネット上で展開され一週間で八万票を集めたことで、中国政府は年内に出す予定だった結論を棚上げしてしまった。胡錦濤政権は対日重視外交を打ち出しながらも、ネット世論の反発を気にして日中首脳交流の推進を足踏みしている状況だ。

 ある中国当局者は「小泉純一郎首相が世論に逆らえず靖国神社に参拝せざるを得ない状況は個人的には理解できる。われわれも中国の世論を説得できないからだ」ともらし、ネット世論を無視できない状況を示唆した。

 もっとも一部ではネットの反日世論激化の背景として「今年に入り言論統制が強化され、反日が一番無難な不満のはけ口となったせい」との指摘もある。阿南惟茂・駐中国大使も最近の定例会見で「インターネットを通じた反日感情の広がりが顕著に現れ、日中関係を考えていく上で新たな現象となっている」とし、ネットを通して社会のフラストレーションが反日世論に集約されることへの懸念を示している。


北京のコンサート、観衆が日本人バンドに「帰れ」連呼
読売新聞 2003/12/21
 【北京=浜本良一】中国・北京市の音楽学校で10月2日に行われた野外ロックコンサートで日本人の男性グループ「ブラフマン」が「日本人は帰れ」などのヤジを浴びたうえ、生卵や石を投げつけられ、4人のメンバー全員が軽いすり傷などを負っていたことが分かった。9月末に広東省珠海市で日本人による「集団買春」事件が明るみに出た直後で、反日機運の高まりが背景にあったとみられる。

 現場にいた関係者によると、演奏の準備が始まると、約5000人の中国人観衆のうち、舞台に近い一群が罵声(ばせい)を飛ばし、ヤジは会場全体に広がった。さらに生卵や石片、土塊、ペットボトルやビール瓶が投げられ、一部はメンバーの顔や体にも当たった。数曲目まで「出て行け」コールが続いたが、予定の9曲すべてを演奏。途中からは音楽に引きこまれるように聴衆の態度は鎮まったという。


反日感情刺激避け情報統制…中国・珠海の買春裁判
読売新聞 2003/12/12
 中国広東省珠海市で日本人団体観光客が「集団買春」を行ったとされる事件で、組織売春罪により起訴された中国人被告14人に対する初公判が、12、13日に同市中級人民法院(地裁)で開かれた。公判が民衆の反日感情を再び刺激する可能性もあり、地元政府は厳しい情報統制を敷いている。

 被告は、高級ホテル幹部やナイトクラブ関係者ら。審理は非公開で行われ、法院庁舎の周囲は立ち入り禁止となった。香港や中国の記者50人以上が取材に訪れ、関心の高さを示した。被告の家族や知人と見られる人々は、庁舎前で、「なにも情報がない」と一様に不安な表情を見せた。

 ケーブルテレビで視聴できる香港のテレビ局のニュース番組では、「検閲」が行われていた。初公判を報じる部分に入ると画面が切り替わり、別の映像が流れた。珠海の地元紙も初公判の事実を報じていない。

 法院は非公開審理の理由について、「被告のプライバシーに配慮した」と説明する。しかし、実際には、秘密厳守の徹底で、過激な反日感情が噴き出さないようにし、経済、社会の安定を守ることが本当の目的のようだ。

 珠海市には130社以上の日系企業が進出。事件発覚後の10月中旬にも、日系企業の誘致を狙う国際会議が当初予定どおり開かれたほどで、「地元政府は事件の影響で日本の投資が鈍ることを恐れているようだ」(現地消息筋)という。

 経済関係者らは同時に、日本批判の嵐に巻き込まれることも恐れる。日本人宿泊客の需要開拓に力を入れていた市内のホテルは、事件前、フロントに「日本人専用」と書いた看板を置いていたが、「なぜ日本人宿泊客だけを優遇するのか」との抗議を受け、これを撤去した。

 中国のインターネット上では、「日本人は裁かれないのか」などと、中国人だけを裁く公判に対する反発が出ており、状況によっては、民衆の批判の矛先が中国当局側に向かう可能性がある。10月末に陝西省西安で発生したような反日デモが起こることもありうる。

 情報統制の効果で、市民の多数は初公判が行われていることを知らないようだ。ナイトクラブや日本人カラオケも、今は通常通りに営業を続けている。(香港支局 関康晴)

 ◆日本人「集団買春」事件=会社の慰安旅行で珠海に来た日本人男性一行が、9月16日に、集団で買春したとされる事件。会社側は事実関係を否定しているが、中国当局は関係者を逮捕、起訴した。満州事変の発端となった柳条湖事件の記念日(9月18日)直前という事情もあり、中国で対日批判が強まった。


「中国侮辱広告」問題でトヨタが公式謝罪
朝日新聞 2003/12/6

 トヨタ自動車は4日、同社の新車「プラド」「ランドクルーザー」の広告が「中国を侮辱している」として反発を呼んだ問題で、中国の消費者に対し謝罪した。謝罪文の内容は次の通り。

 トヨタ自動車は、中国の消費者に対し書面で公式謝罪する。

 中国製「ランドクルーザー」「プラド」の最新の広告2種が、読者に不快感をもたらしたことに対し、心から謝罪の意を表す。これらの広告は純粋な商品広告であり、他意は全くない。

 トヨタ自動車はこれら広告の配布をすでに停止した。今後もこれまで同様に、中国の消費者に満足のいく商品とサービスを提供できるよう努力する。また、中国の消費者から引き続き支持を得られるよう希望する。 (12/06)


“侮辱広告”と中国で反発、トヨタが各紙で謝罪へ
読売新聞 2003/12/4

 【北京=東一真】トヨタ自動車が11月上旬に中国で発売したSUV(スポーツ用多目的車)の「ランドクルーザー」と「ランドクルーザープラド」の広告について、インターネットや雑誌などで「中国を侮辱している」との批判が相次ぎ、トヨタは5日付の中国紙約30紙で謝罪広告を出す。

 プラドの広告は「プラド、あなたは尊敬しなければならない」とキャッチコピーが付き、石橋の欄干上の獅子像がプラドに敬礼している構図。これが日中戦争発端の舞台「盧溝橋」に似ていたため、「盧溝橋の獅子が日本車に敬礼している構図は侮辱だ」など強い反発を受けた。

 一方、ランドクルーザーの広告は、トラックをけん引して坂道を上る構図だが、トラックが軍用トラックに見えるため、プラドの広告と合わせて戦争のイメージを喚起するとして問題になった。

 広告を管理する中国政府の国家工商行政管理総局が、制作した広告会社を呼んで説明を求めるなど波紋を呼んだ。トヨタでは「中国の皆様に不愉快な思いをさせて申し訳なく思う」(中国事務所)と話している。


中国で掲載のトヨタ広告、ネット上で「侮辱」と反発
朝日新聞 2003/12/4
 トヨタ自動車が中国の月刊自動車雑誌や新聞に掲載した4輪駆動車の広告が、中国人の感情を傷つけたとして、中国のインターネットなどで問題とされる「騒動」が起きている。トヨタは近く広告を掲載した媒体に謝罪広告を出すことも含めて対応を検討しているが、ある外交筋は「それほどひどい表現とは思わないが、中国人の対日感情の悪化を映す出来事だ」としている。

 広告の写真の1枚は、2頭の石の獅子がトヨタ車に敬礼やお辞儀をするポーズをとっており、「尊敬せずにはいられない」とのコピーがついている。もう1枚は、トヨタ車が雪道で中国の国産車とみられるトラックを牽引(けんいん)している。

 これらの写真が「中国の象徴である獅子に敬礼させたり、トヨタ車が牽引するのが人民解放軍の車に見える」などとして、一部の中国人がインターネットなどを通じて「中国人を侮辱している」と問題視した。

 トヨタは「気分を悪くした人がいるのは事実で、対応を検討している」としている。掲載した中国の媒体の中には、すでにインターネットを通じて謝罪した雑誌もある。 (12/04 03:07)


「謝れ」連呼、学生暴徒化 検証――中国・西安寸劇事件
朝日新聞 2003/11/28
 中国・西安市の西北大学で日本人留学生のひわいな寸劇に中国人学生が怒って抗議活動が広がった事件で、留学生宿舎が中国人学生らに襲われた時の生々しい様子が、留学生や関係者の証言で明らかになった。大学当局は留学生の安全を守ろうとしたが、暴行を止められず、中国人教職員ら28人が負傷していたことも分かった。また、騒ぎの広がりを受け、日本政府は西安を海外の「危険情報」の対象地とし、渡航自粛を呼びかける寸前だった。

●「寸劇見たのか」「見てない」

 「謝れ、謝れ」

 中国語の叫び声と足音が近づいてきた。日本人の学生が息を潜めていた部屋は、ドアがけ破られ、なだれ込んだ中国人の学生で埋まった。

 「日本人か」。中国人の男子学生に聞かれ「はい」と答えた女子学生はいきなり顔を殴られた。「なぜ殴るのか」と問い返したが答えはなく、今度は腹部をけられた。

 女子学生「日本人はすべて悪いのか」

 中国人学生「そうだ」

 女子学生「あなた方は昨晩の日本人の寸劇を実際に見たのか」

 中国人学生「見ていない」

 女子学生は駆けつけた中国人警備員に助けられた。顔から血が流れ、部屋のストーブやトイレは壊され散乱していた。

 10月30日。午後5時過ぎのことだった。

●中指を立てて挑発のポーズ

 前夜の文化祭で日本人留学生が演じた寸劇に怒った中国人学生が30日朝、謝罪を求める文書を学内に張り出した。

 同日昼。留学生宿舎の横にある広場に、中国人学生が集まってきた。日本人の男子学生が興味を持って近づくと、1人が中指を突き立てて挑発するポーズを見せた。

 午後1時ごろ。中国人学生らは留学生宿舎の入り口に詰めかけてきた。学生は中国の国歌を歌いながら、日の丸を描いた紙や布、「日本」と書いたブタのぬいぐるみに火をつけて燃やしていた。

●「申し訳ない」冷静な学生も

 男子学生は身の危険を感じた。北京の日本大使館に連絡を取った。

 だが午後5時、詰めかけていた中国人学生が、警備員を殴って留学生宿舎に乱入した。顔を殴られた女子学生とは別の女子学生の部屋にも、中国人学生は押し入った。

 「寸劇に参加した4人の部屋を教えろ」

 女子学生がはぐらかすと、暴力は振るわずに出ていった。冷静な様子の中国人学生が、「申し訳ない」と言って自分の名前や電話番号を教え、「壊した物は弁償する」と言い残した。

 各階にいる中国人の女性服務員が居残り、乱入者が来るたびに「この階には日本人はいない」とかばった。午後6時を回って、事態はやや落ち着いた。宿舎の壁はあちこちがけられ、短い鉄パイプも落ちていた。留学生担当の職員からは「外へ避難するので準備を」という連絡があった。

●バリケードに他大学も応援

 しかし、80人の各国留学生を受け入れるホテルはなかなか見つからず、宿舎から動けなかった。

 午後11時ごろ、再び中国人の学生らが広場に集まってきた。他大学の学生とみられる集団が赤い旗を先頭に到着するたび拍手で迎えられた。まもなく、2度目の留学生宿舎乱入が始まった。

 日本人の男子学生が殴られ、けがをした。腕時計と財布も盗まれた。部屋のトイレに隠れた女子学生はドアに穴を開けられ、顔を見られた。乱入者は「女でも殴ろうか、やめておこうか」と議論したあげく、部屋の窓ガラスを割った。

●中国人教職員ら28人けが

 別の日本人の男子学生は扉を閉めてイスを積み上げ、電灯を消した。

 同室の韓国人留学生は「自分は兵役の経験がある」と、男子学生に奥へ隠れるよう勧めた。ドアの前に陣取り、心を落ち着けるように韓国語で何ごとか唱えていた。米国人の留学生は、日本人学生の男女4人を自室に招き入れてかくまった。

 大学当局は学外者の侵入を防ぐため、教職員でバリケードを作った。他大学の教員も応援に駆けつけた。11時50分過ぎ、公安当局の部隊が留学生宿舎付近に展開した。中国人学生らはわずかの間に見えなくなった。

 留学生らは31日午前3時、ホテルに移るため宿舎を出た。中国人警備員が疲れ果てた様子で座り込んでいた。警備員は全員が殴られたという。負傷者は日本人留学生の男女2人のほか、中国側が教員、警備員、警察官ら28人。教員の1人は鼻の骨が折れていた。

●外務省、危険情報も検討

 「寸劇に出た留学生に反省文を書かせてほしい。西安には約40も大学があり、西北大だけの問題では収まらなくなる」

 10月31日。中国外務省の羅田広(ルオ・ティエンクワン)領事局長は、日本大使館の高橋邦夫公使を呼んで言った。公表された「日本人が中国の習慣を守るよう希望する」という外交辞令とは違う切迫感があった。

 このころ、抗議行動は他大学や住民も巻き込んだ街頭デモに広がっていた。西安の動きが全国に広がるのを中国政府は恐れている、と日本側関係者は受け止めた。実際、北京大学などはすでに学外者の出入り規制を始めていた。

 大学当局が「反省文」を求める以前から、寸劇に出た学生らは「直接中国人学生に謝りたい」と希望した。だが大学側は「すでに難しい」と認めなかった。自主的に書き始めた反省文には、寸劇で「日中友好を表そうとした」と書いたが、「そうは受け取れない」と削るよう指示された。

●大学措置で収束へ

 こんなやりとりが続いている間もデモの規模はふくらみ、市内の日本料理店が荒らされた。北京の日本大使館と外務省との間では、西安を「危険情報」の対象地とする検討がひそかに始まった。

 外務省は海外で紛争・疫病流行地域があれば「危険情報」を出す。中国では89年の天安門事件、今年4月の新型肺炎SARSの流行などで出された。日本人観光客が年間16万人訪れる古都・西安を対象とすれば、大きな影響が予想された。

 だが、検討結果は「11月1日夜になってもデモが収まらなければ、2日には踏み切る」だった。第1段階の「十分注意してください」ではなく、より強い第2段階の「渡航の是非を検討してください」を用意した。

 1日。大学は留学生の除籍や反省文を公表。同時に自校の中国人学生の出入りを厳しく制限した。デモの勢いは衰え、深夜にはほぼ消えた。翌2日も動きはなく、「危険情報」は幻で済んだ。

●中国メディアは報道せず

 11月4日、避難先のホテルから留学生宿舎に戻った日本人学生に、孫勇学長が「事件は誠に遺憾だった」と表明した。割れたガラスなどは修繕され、翌5日には授業が再開。残った日本人留学生30人余はいま、以前と変わらない生活を送る。

 日本大使館は大学当局に、留学生に暴行した者の処分を申し入れた。だが大学側は「当日は学外の人間も交じっており、特定は難しい」とし、まだ回答はない。中国メディアも留学生の除籍処分を報じた後、中国人学生らの暴力も含めて事件を全く報道していない。

●香港紙には当局批判も

 ただ、香港の新聞では事件後、中国側に反省を迫る論調も出ている。大公報は6日付で「寸劇に喜ぶ中国人はいないが、大声で反日を叫ぶ必要はない。多くの日本製品が中国で生産されているのに不買運動を呼びかけるとは、中国の労働者を失業させたいのか。学生の言行には恥ずかしくて汗が出る」と戒めた。

 また文匯報も7日付で「中国外務省はこの件で日本の外交官を呼ぶ必要はなかった。外交は民意の影響を受けるが、西安のデモは決して真の民意ではない」「中国人職員や日本人学生への暴行を伝えない中国メディアは社会の公器の役割を失った。まるで『反日』ならば、どんな暴力行為も合法化されるようだ」と、中国の外交当局やメディアの対応を批判した。

     ◇            ◇

◆事件の経過

 西北大学で10月29日夜に開かれた文化祭で、日本人の男子留学生3人と教師1人が寸劇に出演。Tシャツに赤いブラジャー姿で、背中に「日本」「?(ハート印)」「中国」と書き、腰に紙コップをつけて踊った。

 すぐに主催者に中断されたが、30日朝から中国人学生が留学生に謝罪を求め抗議。留学生が「これが中国人だ」と書いた札を下げていた、という香港紙の誤報もあって「中国を侮辱した」という不満が学生らに急速に広がった。11月1日にかけ、多い時は千人以上が大学や陜西省政府前でデモ行進。日本料理店への襲撃もあった。

 日本人約40人を含む留学生約80人はホテルに避難。寸劇に出た留学生3人は除籍、教師は解職となり、女子学生8人と3日に日本へ帰国した。

(11/28 03:41)


コラム:謝らない?日本人
朝日新聞 2003/11/27
(岩城 元 イワキ・ハジム
むかし新聞記者、いま中国はハルビンの大学で教師兼留学生。 )

ハルビンの幼稚園で園児二人が喧嘩した。二人を呼んで喧嘩の理由を問いただした先生が一人を指して言った。「あなたが悪い。謝るべきです」。そして、もう一人に言った。「謝られたあなたは相手を許さないといけません」。さらに続けた。「謝らないのは日本人のやることです」。

2年前、僕がハルビン理工大学に来てすぐのころ、同僚の男女の中国人教師二人から「日本は中国を侵略したことをいまだに謝っていません。許せません」と言われてギクリとしたことがある。ともに教授クラスで、日本に長くいたこともある。普段はニコニコして親切な二人だが、この時だけは目が三角になっていた。

わが日本語科の学生たちはどう思っているのか。あの戦争では日本は少なくとも中国に対しては一方的に悪かった、と僕は思っている。で、日本は中国に謝った? それとも、謝っていない? 君たち、どう思う? 女の子が多数のクラスでそう聞くと「謝っていませーん」と可愛い合唱が返ってきた。

「西安寸劇事件」の背景には、チチハル市での旧日本軍の毒ガスによる市民の死傷、珠海市での日本人団体客による「集団買春」騒ぎなど、最近相次いで起きた事件があると言う。が、さらにその奥には「日本人はいまだに中国侵略について謝らない」という、日本に対する長年の不信感があるように思う。「ドイツは第二次世界大戦後すぐ謝ったのに、日本は・・・」という尾ひれがつくこともよくある。

そうまで言われるといささか癪なので、このことを授業でとりあげてみた。まず、1972年、両国が国交を正常化した際の「日中共同声明」を配った。中国側からすれば「中日共同声明」だ。当時の田中角栄、周恩来両首相らが署名している。声明の中ほどにこうある。

「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」
「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」

僕には、日本側は90度の最敬礼で謝り、中国側がそれを評価して賠償請求も放棄した感じがする。ちゃんと一応のケリはつけているはずだ。が、学生たちは「これでは謝ったことになりません」と言う。問題は「反省」という言葉にあるようだ。確かに、日本の辞書を引いても「反省」は「自分の行いをかえりみること」(広辞苑)などとあるだけで「謝罪」の意味はない。

でも、これは日本側が一方的に述べたことではなく、両国の「共同声明」だ。中国側はこれを謝罪と受け止めて国交正常化に応じ、賠償請求も放棄したのではないか。そうは言っても、水掛け論になるかも知れないから、別のやつを学生たちに見せた。1995年8月15日、当時の村山富市首相が述べた「戦後50周年の終戦記念日にあたって」という、いわゆる「村山談話」である。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に過ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」

ここには、はっきり「お詫び」がある。謝罪している。これを見せると学生たちも「フーン」という感じで、一応は静かだ。

ところが、何週かたって学生の作文を読んでいると「日本はまだ謝らない」が相変わらず出てきたりする。どうも、かなりの中国人の頭には「日本は謝らない」が不変の真理として刷り込まれているのではないか。そんな気さえしてくる。が、中国人側から見れば「靖国神社参拝」にしろ、ごく最近の一連の事件にしろ、日本人のさまざまな行動を見ていると、心から謝ったとはとても思えない。村山談話だって、聞いてみれば「そうか」とは思うけど、あれは口先だけのこと、日本人は本当はまだ謝っていない――庶民の皮膚感覚としてはそうなってしまうのかもしれない。

冒頭の幼稚園での話を教えてくれた中国人女性が言う。「私も子供のころ、悪いことをして謝らないと、お前は日本人のようだと言われました」。さすがに、僕に気の毒だと思ったのか、あわてて付け加えた。「勉強でも仕事でも真面目にすると、日本人のようだと褒められましたけど・・・」。


西安の反日デモ・留学生暴行 原因と背景の検証不可欠
毎日新聞 2003/11/19
浦松丈二(中国総局)

 ◇交流促進が再発防止に

 中国・西北大学の日本人留学生らの寸劇をきっかけに西安市(陝西省)で起きた反日デモ・留学生暴行事件が、日中関係に暗い影を落としている。日中両国の大学関係者に、学生交流を控える動きが出ているからだ。私は、再発防止のためにも事件を検証する一方で、日中青年交流を促進するべきだと考える。

 中国国内では事件後、北京大学など日本人留学生が多い大学で文化祭を延期する動きが相次いでいる。何かの弾みで留学生を対象にした抗議活動が再燃する懸念があるからだ。日本の大学関係者からも、西安市への交換留学生の送り出しをためらう声が出ている。今回の事件が、そうした交流に影響を与えることを憂慮する。


 今回、西安で現地取材し強く感じたのは、中国人学生らが抱く反日感情が、巧妙に利用され事件が拡大したのではないか、という点である。


 寸劇から一夜明けた10月30日午前、大学構内に留学生らの寸劇を「悪意の挑発」と批判する壁新聞が張り出された。ひわいな仮装をした留学生が「これが中国人だ」と書いた紙を掲げたとのデマも流れ、抗議は周辺大学や市民を巻き込んでエスカレートしたという。


 事件拡大について西安の大学関係者は「文化祭を主催した共青団幹部が寸劇で体面を傷つけられ、日本人留学生を徹底的に攻撃しろと指示したらしい」と打ち明けている。共青団とは、胡錦濤国家主席の出身母体としても知られる中国共産主義青年団の略称で、全国的な青年組織。大学関係者の証言が事実としたら、組織的な扇動行為があったことになる。残念な話だ。


 また、大学当局の管理能力の低さも問題だ、と思う。外国人留学生の在籍者数すら十分に把握しておらず、中国外務省には日本人留学生を実際より半数以下の20人と報告していた。さらに寸劇を演じた留学生らに中国を侮辱する意図はなかったことを認めながら、一部の中国人学生らの要求を押し付け、留学生をまず除籍処分にし、後から反省文を提出させるという整合性を欠いた措置をとった。


 大学側は3日後の今月1日になって「全校学生に告げる書」を構内に張り出し、ようやく「下心のある者の扇動を受け、学内に重大な混乱が生じ、留学生宿舎を襲撃して外国人留学生を負傷させた」と説明した。大学側は負傷させた犯人の処分を日本側に約束しているが、中国メディアは留学生が負傷した事実すら報道していない。


 やりきれない事件だったが、今後の日中関係を考えるうえで救われたのは、中国の若い世代から、反日デモに象徴される排外的な民族主義への批判が出てきたことだろう。名門校・清華大学公共管理学院の陳林さんはニュースサイトへの寄稿文で、暴徒化した反日デモについて「90年代以降の狭隘(きょうあい)な民族主義の高まりは政府、学校、メディア、学界に責任がある」と批判した。留学生の寸劇にも「彼らの表現方法の一つでは」と理解を示した。


 対日世論の若手研究者として知られる中国社会科学院の劉志明・調査センター長はこう言う。「排外的な民族主義は、決して世論の主流にはなっていない。政府当局者までもインターネットなどで流れる『仮想民族主義』に振り回されているのは問題だ」


 実際、西北大学には1万人以上の学生が在籍しており、反日デモに参加したのは1割以下とみられている。ただ、中国では「冷静な多数派」の影響力が限られるのも事実だ。国政選挙もなく、独立メディアなど民意を効果的に吸い上げるシステムが整っておらず、結果として、当局者までもが極端な意見に振り回されることになる。日本側も冷静に「反日感情の実情」をくみとる必要がある。


 西北大学では今月3日に寸劇にかかわった日本人留学生3人と日本人教師1人の計4人が帰国した後、残った留学生は授業を受けており、中国人学生らの抗議活動も起きていない。日本人留学生らは事件経過を独自にまとめ、大学側に留学生にけがを負わせた中国人の処分など8項目の要求を提出している。大学側の適正な対応に期待したいものだ。


 寸劇を演じて除籍された留学生は帰国の飛行機に乗る直前、「もう一度、中国に留学したい。中国側は受け入れてくれるだろうか」と、日本大使館幹部にこうもらした。「強制退去ではないから大丈夫」と励まされると屈託のない笑顔をみせたという。事件にかかわった日中の青年たちが、キャンパスで自然に再会できることを願ってやまない。


中国で再び対日批判噴出 バレー試合の中継きっかけ
河北新報 2003/11/18
 【香港18日共同】バレーボールのワールドカップ(W杯)女子大会で優勝を決めた中国チームの試合後の様子が中継されなかったとして、18日付の中国系香港紙、商報が批判の評論を掲載した。また、中国国内のインターネットで同趣旨の対日批判の書き込みが増加、西安市の日本人留学生の寸劇を契機に反日デモが起きたばかりの中国で再び反日感情が高まる兆しが出ている。
 きっかけは15日に行われた中国と日本の最終試合。独占放映権を持つフジテレビが中継した。商報は、同テレビが試合終了後の約20分間、日本チームの様子ばかり放映したと主張。同紙は、映像提供を受けた中国中央テレビはやむなく北京からの中継に切り替え、中国人キャスターが日本のやり方を「品がない」と批判をした、と伝えた。


中国・西安寸劇事件 ”反日”火消しの動き
メディア デモ学生非難 反省促す声も
産経新聞 2003/11/16
  【北京=福島香織】陝西省西安市の反日デモ事件や広東省珠海市の日本人旅行者集団売春報道などの過熱している反日ムードに対し、中国メディアは中国人側に反省や冷静さを求める論評を相次いで発表している。対日重視外交にシフトしつつある胡錦濤政権の意向を反映しているとみられ、前政権時代からの”反日世論”の修正に動きはじめているようだ。

 西安の反日デモ発生当初、デマを含む情報を報道し、結果的に反日ムードをあおった中国系香港紙・文匯報は7日付紙面で「”反日デモ”の反社会的行動化を防止せよ」との論評を掲載。「大学構内の文化交流の中の小さな出来事が反社会騒乱となった。三人の留学生の寸劇が誤解を招いたのなら、どうして座って冷静に討論することができなかったのか」と、中国側学生を批判した。

 さらに、中国人側による日本人学生への暴行や日本料理店への襲撃を報じなかった中国メディアに対し、「メディアの社会の公器としての作用を失っている」と指摘。「事件は文化交流上の誤解であり、中国外務省は日本公使を呼びつける必要もなかった」としている。

 同じく中国系香港氏・大公報(6日付)も日本人女子留学生への殴打などを指摘し、「法律を完全に無視し”愛国行為”のまね事をすることは、中国の法律の尊厳を踏みにじることだ」と非難。学生たちがデモ中に掲げた「日本製品を買うな」というスローガンについて、「多くの日本製品は中国で生産されている。中国人の失業者を増やしたいのか」と皮肉まじりに論評した。

 中国時事週刊誌・新聞週刊(10日発行)は「中国が理知的に未来の発展の大局にたって、冷静に偶発的事件に対処し、高みから両国関係を見渡し、全力で両国人民の相互理解を促し共同の利益に向かって邁進すべきた」と主張した。

 中国当局は西安の反日デモで女子学生らが殴打された事実は発表していないが、西北大学の孫勇学長は、日本人留学生らに対して直接、「遺憾の意」を表明した。

 インターネット掲示板にも「反日行為が真の愛国行動ではない」「中国の学生のデモが海外に報道されて恥ずかしい」など反省を促す声もある。

 一方、珠海市の売春問題では、売春の現場となった高級ホテル関係者らの裁判が近く行われる。消息筋によると現地では問題発生後、報道は統制されており、中国当局は中国人関係者の処罰でこの事件を収束させる方針とみられる。現地を訪れた日本人大使館職員によると、地元当局は日系の進出企業や観光への影響を懸念しており、現地の日本人への配慮もあるという。

 中国系香港メディア、中国メディアの論調は一般に政府の意向を反映している。中国政府関係筋によると、中国当局は国内世論向けに日本批判もせざるを得ない立場だが、路線としては対日重視にあり、対日感情の悪化は中国にとっても不利益だとの認識があるという。こういった背景から反日世論の”火消し”に取り掛かっているとみられる。

 ◇

文匯報(7日付)
「反日デモの反社会行動化を防止せよ」
◆事件は本来大学構内の小さな出来事。留学生の寸劇や衣装が誤解を生んだのなら、どうして座って討論することができなかったのか。
◆中国メディアは中国人職員や日本人留学生が殴打されたり、日本料理店が打ち壊された違法行為をまったく報道せず、事実上騒乱の拡大を助長した。これは社会の公器としてのメディアの役割を失っている。
◆中国外務省は、このような文化交流における誤解程度の問題で日本外交官を呼ぶ必要はなかった。西安の”反日”デモは決して本当の民意といえるものではない。
◆注目に値するのは、反日を隠れみのにした一部の人の理性のない行動などが、民衆を突き動かす風潮だ。これをうまく処理できなければ、中国現代化の重大な挫折となる。

大公報(6日付)
「西北大学事件は反省に値する」
◆大学の警備員にビンや卵を投げつけ、日本人女子学生を殴り、日系商店を襲撃するのはやりすぎ。法を完全に無視し”愛国行為”のまね事をするのは、中国の法律の尊厳を踏みにじること。
◆日本製品のを買うなというスローガンは、ばかばかしい。多くの日本製品は中国で生産されている。中国人の失業者を増やしたいのか。


大学学長「中国侮辱の意図なかった」 西安寸劇事件
朝日新聞 2003/11/15
 中国・西安市の西北大学で先月末、日本人留学生のひわいな寸劇に中国人学生が怒って抗議行動が広がり、留学生3人が除籍処分になった事件で、同大学の孫勇学長が「(寸劇は)不適切だったが、中国を侮辱する意図はなかった」と他の日本人学生に語っていたことが14日わかった。

 学長はさらに、中国人学生の抗議がエスカレートした理由を「多くの不満を持つ人が事実をゆがめて言いふらした」としたうえで、関係ない日本人学生2人を殴ってけがをさせたのは「学外の社会人」だと主張した。

 関係者によると、学長は、留学生らが避難していたホテルから学内の宿舎に戻った今月4日、日本人学生らに事件に対する見解を述べた。

 その中で、事件全体を「誠に遺憾だった」としたうえで、暴力から留学生を守るため大学側が努力した点を強調。「学外の社会人が侵入して暴力を振るうのをコントロールできなかった。教師も殴られた」と語った。

 さらに「私の目の前で日本人学生が殴られた。すぐに警察に保護されたが、とても残念だった」とも述べたという。

 学長の見解は中国内では公表されていない。寸劇が「中国を侮辱する意図がなかった」と公言すれば、抗議した中国の学生らが再び反発しかねないためとみられる。

 これに関連して、阿南惟茂・駐中国大使は14日の記者会見で、日本大使館から大学当局に「留学生を殴った当事者を見つけ処分してほしい」と申し入れたことを明らかにした。大学側は「一般人も交じっており、特定は難しい」としており、申し入れに対する回答は今のところないという。

 同大学の40人余の日本人学生のうち、寸劇に出演して除籍処分になった3人のほか、中国人学生らの抗議行動や暴力にショックを受けた8人の女子学生が、大学を辞めて日本に帰国している。 (11/15 08:39)


反日機運 高まる
チチハル毒ガス事故 8割が「印象悪化」
産経新聞 2003/11/14
 中国で日本がらみの事件が相次ぐなか、中国人の対日感情が悪化していることが、中国の有力紙「中国青年報」の最近の調査でわかった。チチハル市で発生した旧日本軍の遺棄化学兵器による毒ガス漏出事故に関連、83%が「日本のイメージが悪化した」と回答。南部の海南島では今月初句、「抗日戦士」という店名のカフェが出現するなど、西安市でのデモでみられたような「反日」機運が高まっている状態にある。

 中国青年報(9日付)は、胡錦濤総書記の出身でもある共産主義青年団の機関紙。アンケート調査の回答者の年齢は平均28歳と若者が中心。

 調査では、毒ガス漏出事故での対日印象について、75%が、「もともと悪かったがさらに悪くなった」と回答。学歴が高まるほどこの問題に関心を持つ傾向が強いことがうかがえる。

 同紙は、先の戦争で中国側が賠償請求を放棄したことを理由に日本政府が被害者への賠償を拒んだことを挙げ、「実質的に戦争責任を逃れようとしている」との回答が86%に及んだことも指摘する。

 対日感情をめぐって新幹線技術導入のおける反対論や、広東省での集団売春報道をめぐる日本人排斥論がネット上で頻繁に書き込まれたことや西安市での大規模な反日デモでみられるように、刺激すれば一気に反日感情が噴き出す下地がある。 

 これは中国共産党が貧富の格差など国民の不満をそらし求心力を高める手段として、歴史的な「抗日運動」を「愛国教育」の柱として位置付けてきた結果にほかならない。

 これを端的に示すかのように、「抗日戦士」なる名前のカフェがこのほど海南島で登場した。「愛国」を売り物にしたこの店は、国営通信新華社電ネット版などによると、玄関には旧日本軍旗を模した絵が敷かれ、客はそれを踏んでから入店する。「日本の右翼分子は入るべからず」との看板が掲げられ、壁には「歴史、国の恥を忘れるな、振興中華」と書かれているという。(野口東秀)


コラム:「西安寸劇事件」余波
朝日新聞 2003/11/13
(岩城 元 イワキ・ハジム
むかし新聞記者、いま中国はハルビンの大学で教師兼留学生。)

夜8時前、街の日本語学校の中国人先生から電話がかかってきた。「今、やっと生徒たちから解放されて家に戻ったところです。まだ、晩ご飯も食べていません」。いつになく声がとげとげしい。そうだ、「西安寸劇事件」への生徒たちの反応を聞いてほしい、と彼女に頼んでいたのだ。

西安の西北大学の文化祭で日本人留学生らがTシャツに赤いブラジャー、下腹部に紙コップという姿で舞台に現れ、中国人学生の怒りとひんしゅくを買った。一時は千人を超える抗議のデモ行進になり、寸劇とは無関係なのに中国人学生に殴られた日本人留学生もいた。

よしよし、労せずして教材が飛び込んできたぞ。わがハルビン理工大学日本語科の授業でこれを使ってやろう。学生たちの意見を聞いてみよう。僕は能天気にそう考え、ついでに、街の日本語学校ではどんな反応だろうか、と思ったのだった。その彼女によると、午前の授業で冒頭にこの話をしたところ、「日本人は許せない」「理解できない」から「中国の政府は日本に対して弱腰だ」などと意見がまさに噴き出し、授業に入れなくなってしまった。

で、午後3時からの授業では冒頭に話すのをやめ、5時に授業が終わる直前に持ち出してみた。10分ほどで切り上げるつもりだった。ところが、やはり意見が噴き出し、今度は帰れなくなってしまった。6時を過ぎ、7時を過ぎた。あまりに長い授業を不審に思ってやってきた同僚の助けで、やっと打ち切ったのだそうだ。

わが大学の日本語科では、まず4人の大学院生に聞いてみた。みんな女性だ。僕が「確かにひわいな格好だったけど、Tシャツの背中には『日本』『中国』と書いた間にハートのマークを入れ、日中友好を訴えるつもりだったらしい。本人たちに悪意はなかったようだ」と言うと、「そんなひわいな姿に『中国』と書くなんて、それこそ中国に対する侮辱です」と、にべもない。普段は物静かな淑女たちだが、きょうは止まらない。聞いてもいないのに、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題が持ち出され、ついには、アニメ『火垂るの墓』までが槍玉に上がった。

『火垂るの墓』は野坂昭如さんの原作。1945年6月の米軍の神戸大空襲で14歳の少年と4歳の妹が孤児になる。その二人が野垂れ死にしていくまでの悲しい物語で、野坂さん自身の体験に基づいている。戦争の悲惨を描いたものとしては傑作だろう。だが、このアニメも彼女たちには日本人が「被害者」の面を強調しすぎているように思える、と言うのだ。

次には、日本語科4年生某クラスの作文の時間に寸劇事件の感想を書かせてみた。事件のことを知らない学生もいたので、最初にあらましを説明した。「赤いブラジャー、下腹部に紙コップ」のあたりでは、身振り手振りを入れてひわいな教師だと思われても困るから、ほぼ直立不動で話した。

ところが、感想文を書いている学生を見回っていると、「先生、下腹部に紙コップというのは、どんな格好でしょうか?」と聞くのがいる。幸い男の子だし、教室の最後列に座っていたので、「多分、こんな格好だろうよ」と、女の子には見えないように、こっそり実演してみせた。納得したようではあったが、中国の学生は日本の学生より純真なのだろう。この種のものには慣れていない感じである。

出来上がった感想文を読むと、日本人留学生の行動を批判する一方で、中国人学生の暴力も「行き過ぎだ」ときちんと批判しているのが多い。そして「両国の友好のために、日本語を学んでいる私たちの責任はいっそう重い」「中国に留学する日本人も、日本に留学する中国人も、相手の文化をよく理解すべきだ」などと結んでいる。壷を押さえていると言うか、良識的と言うか、言い方はよくないけど、面白みに欠けるきらいもある。

その夜、このクラスの女の子二人が鍋料理屋でごちそうしてくれた。食べながらそれを言ったら、「先生が文章で書けと言われたから、おとなしい内容になったのです。自由にしゃべらせていただけるなら、止まりませんよ」とのこと。胸の中は張り裂けるばかりなのだろうか。

次には、どんな教材が飛び込んでくることやら・・・。


中国人民大学:10大ニュースに日本人集団買春、わいせつ寸劇
毎日新聞 2003/11/13

 【北京・浦松丈二】中国人民大学の性社会学研究所が選んだ今年の「中国性領域10大ニュース」第3位に珠海(広東省)の日本人旅行客集団買春報道と西安(陝西省)の日本人留学生「わいせつ寸劇」報道が合同で入った。華僑向け通信社・中国新聞社(電子版)が12日伝えた。

 中国でも例年年末に研究機関や各メディアがその年の10大ニュースを発表しているが、日本人関連の報道が上位に入ることも珍しい。中国国内の反日感情の高まりを反映しているともいえそうだ。

 10大ニュース選びは同研究所が主催し、中国各地の大学、研究機関の研究者23人が中国国内の性に関する重要ニュースから投票で選んだ。1位は武漢(湖北省)と北京の両都市で起きたセクシュアル・ハラスメント裁判。

 主催者側は「ニュースの背景にある社会・文化的な意義を考慮して選出した。大衆の意識の進歩や問題研究に役立ててほしい」と説明しているという。


反日デモ 「愛国」と表裏の民衆感情 
西安・留学生の軽率な行動が刺激
読売新聞 2003/11/12

 中国・西安で発生した大規模な反日学生デモは、中国での反日感情の根深さ、そこでの軽率な行勤の危うさを改めて浮き彫りにした。上海支局 伊藤彰浩

 日本人留学生による寸劇をきっかけにした今回の事件は、「やはり日本人は悪質だ」、「中国人はこわい」という印象を日中相互に与え、日中交流に水をさした。寸劇を行った留学生は、「日中友好を表現しようと思った」と語った。だが、狙いが何であれ、女性の下着を身につけて踊る出し物に不快感を覚えた学生がいたことに不思議はない。

 大学当局とエリート学生が組織する中国の大学の文化祭は、往々にして「羽目をはずした無礼講」が許される日本の学園祭とは違う。性に対する受け止め方も違う。事前に中国人学生と相談するなどすれば、このような事態にはならなかったはずだ。

 中国に滞在する日本人留学生は、すでに一万六千人以上(二〇〇二年、国家留学基金背理委員会調べ)に達している。留学生は、周囲に日本の仲間がいる安心感に流されやすい。「日本」をそのまま外国に持ち込む危険性を知っておくべきだろう。

 また、外国で学ぶ者としてその国での「対日感情」、に目を向けておくことも必要だ。中国共産党政権は、改革開放に伴い所得格差、地域格差が広がる中、国民のまとまりを図るため、「中華民族の復興」を掲げて愛国教育を強化している。かつての抗日運動は格好の教材とされ、「愛国」と「反日」は表裏の関係だ。歴史認識を巡る日中間摩擦も、反日感情を助長する。

 昨年十一月の胡錦溝政権発足以降、中国では「歴史認識」
問題をやみくもに押し出さず、国益を優先すべきだとする研究者らの論文が相次いで発表された。だが、民衆レベルの反日感情には、あまり影響を与えていない。

 むしろ、今回の事件が発生した当時は、今年八月に黒竜江省で発生した旧日本官遺棄科学兵器による死傷事故、九月に広東省で問題化した日本人旅行客による集団買春事件などにより、反日機運は高まっていた。例えば、北京−上海間高速鉄道建設で、日本の新幹線技術導入脱が流れるたびに、ネット上には反対論があふれた。「寸劇」への反発が、大規模デモに発展する異常事態の下地はあった。

 一般的にいって中国の政権にとっては、批判の矛先が政権に向かいかねない学生デモは、断じて放置できない事件だが、「政権側の教育が作り出してきた側面もある反日運動に対しては、これを抑える”錦の御旗″がない(在中国の外交筋)という。

 「日中友好を表現しようとした」寸劇は、「中国人に対する侮辱」と受け取られた。「『これが中国人だ』と書いたカードをつけていた」との情報がネットなどで流れたが、留学生は日本大使館員に「つけてない」と言っている。日中のより深い相互理解を追求するなら、寸劇の内容について、改めて双方の学生が虚心坦懐に話し合う場が設けられてよい。

 しかし中国当局は一刻も早い「幕引き」を選んだ。今回の事件は、「反日」の扱いが中国にとっても容易でないことを如実に示している。


わいせつ寸劇:中国系香港紙が抗議行動への反省促す論評
毎日新聞 2003/11/8

 【香港・成沢健一】中国・西北大学(陝西省西安市)の日本人留学生による「わいせつ寸劇」問題で、6日付の中国系香港紙「大公報」は、中国人学生らの抗議行動が理性を失った方向に進んだと指摘し、「愚かな挙動は国家のイメージを損なうだけだ」と反省を促す論評記事を掲載した。反日世論が高まる中、抗議行動がエスカレートすれば中国にも不利な影響が出るとの見方も強まっているものとみられる。

 論評記事は、寸劇について「見たいと思う中国人はいない」としながらも、「悪ふざけのようなもので、見るに堪えなければ、やめさせれば済んだはず」と指摘した。

 その上で、一部の学生が無関係の日本人女子留学生を殴ったり、日系の店を襲ったりしたことを批判。日本製品の不買呼びかけに「経済がグローバル化した今日、多くの日本メーカーは中国で製造している。不買運動で失業者を増やすつもりか」と疑問を呈した。

 さらに、「中国が世界から尊敬されるためには、国家の実力と民族の資質が問われる。大国でありながら、どうして狭あいな民族意識を持ち続けられるのか」と問題提起している。


寄稿:「西安寸劇事件」
産経新聞 2003/11/8
 日本人留学生の寸劇を発端とした中国・西安での反日デモ(10月30日―31日)は、日中関係に新たな波紋を投げかける結果となった。中国留学中に歴史問題をめぐる議論から激しい対日批判や個人的な脅迫を経験した歴史研究者、水谷尚子氏は、現地での体験を踏まえて今回の事態を分析した。寄稿を紹介する。

根深い反日主義こそ問題

 「西安寸劇事件」に関する新聞各紙の論調、および(日本人留学生の行為を「無感覚」と評した)川口順子外相の発言に、私はどうしても納得できない。若い学生の行為を責めるのはあまりにも酷だと思うのだ。

 朝日新聞(5日付)の社説は「もう少し勉強しようよ」との見出しで「彼らはそもそも何をしに中国へいったのだろうか」と問いかけ、「一番大事な勉強が足りない」と学生をしかる。同紙に限らず全国紙から地方紙までこの論調は変わらない。だが、記者が現場で事件当事者に直接取材をした記事はほば皆無だったように思う。

 留学生らの悪ふざけは、日本で弁明の機会なく次々と糾弾される以前に、現地で鉄パイプやイスを手にした中国人暴徒から「日本人狩り」という集団暴行を受け、西北大学から実名公開の上で退学処分を受けたことを指摘したい。果たしてここまで過酷な仕打ちに値することだったのだろうか。

 「相手」に理解や配慮が足りなかったと非難されるべきは、三人の学生だけではない。リハーサルを行っているのだから、大学側も場にそぐわないのならば前もって注意すべきだし、騒ぎになった後でも学生に悪意がなかったことを述べる機会を与えるべきであった。 

 視覚的にわいせつなパフォーマンスが多くの中国学生の反感を買ったのは事実としても、暴徒が「おまえは日本人か」と寮の各部屋をまわり、まったく関係のない日本人女学生にまで殴りかかる口実にはなり得ない。中国社会においてすら、セックスに関する過激な小話は、学会の場であろうが女性がその場にいようが結構耳にする。「中国人は性に保守的」というステレオタイプな解釈は妥当ではない。

 問題はわいせつをめぐる文化摩擦ではない。「中国をバカにしている」と受け取られたゆえに発火した反日ナショナリズムの根深さこそが問題なのである。 

 この事件で、最も責任が重いのは、暴徒の留学生寮乱入を許した西北大学ではないだろうか。

 帰国してきた留学生によると、デモ隊が留学生寮を取り囲んだのは文化祭の翌日(30日)昼過ぎで、それから午後5時20分に暴徒化した中国人が寮に乱入するまで、「日本ブタ」と称する人形や日の丸を焼いて気勢を上げていた。この間、日本人を口汚くなじる群衆に、大学当局は何の対策もとっていなかったのである。

 寮内では一階食堂のガラスがすべて割られ、三階以上の留学生居住区のドアまでも次から次へとたたき破られた。負傷者が出たのは四階に集中し、パフォーマンスと関係ない男子学生が青あざを作り、つめによるひっかき傷を作っていたという。

 私もこれまで北京の中国人民大学に留学した経験がある。在ベオグラード中国大使館の誤爆事件(1999年)が起きた直後には、学内の外国人排斥を叫ぶデモ隊に対して、大学側の留学生担当教員がデモ隊を説得するなど外国学生をかばった。

 また、南京事件をめぐる裁判に絡んだ中国中央テレビの討論番組(1999年)での私の発言にも、「殺してやる」「暴行されたいか」といった脅迫電話が殺到したのだが、大学の外事担当部署は一切私本人には取り次がず、手紙のたぐいも渡さない配慮をしてくれた。今から思えば、外国人学生の安全面を第一に考えてくれたこの大学に留学したことは、大変幸運であった。

 今回の事件では、「なぐられた女子学生を含む関係のない八人も退学して帰国した」と報道されており、胸が痛む。私自身の体験と重ね合わせるとき、これは時代を超えた一種の「文革(文化大革命)体験」だったように思えるからだ。

 暴力をうけるかもしれないという恐怖、言葉の暴力による「つるし上げ」は、心のトラウマとして長く残り、なかなかその傷はいえない。たた単に日本人であることが原因で糾弾され、心身ともに傷を負った学生には、同じような体験をした者として心から同情する。中国にひかれて留学し、この事件で「挫折」して帰国した若者にはへこたれないでほしい。

 中国のインターネット掲示板を見ると、「下品な催しは他にもある。(反日的な主張は)暴れる口実を求めただけだ」とか「やみくもな愛国運動は真の愛国ではない」といった、中国人による冷静な書き込みも見受けられる。日本人女子留学生の部屋に乱入した暴徒を止めようとした中国人学生もなぐられたという。当たり前のことだが、良識ある中国の人だってたくさんいるのだ。


余録
毎日新聞 2003/11/7

 なにか腑(ふ)に落ちなかった。中国西安の大学文化祭で日本人留学生が演じたという「ひわい寸劇」の一件だ。男子学生3人が、Tシャツに赤いブラジャーをして、股間(こかん)に紙コップをぶら下げ、ラップ音楽で踊った。

 背中に「君は見たか」という札をつけていたという。中国人学生は「見たか、この醜悪な姿が中国人だ」と受け取り、激怒して反日デモに発展した。それにしても、その札はなんだったのか。3人はなにを考えていたのか。

 「あれ、志村けんなんかの物まねでしょ」。在日中国人向けの新聞社で働いている中国人記者の解説を聞いて、なんだそうか、と納得した。たしかに夜のテレビ番組でそんなシーンを見た記憶がある。

 男性タレントがブラジャーをして「見ちゃいや」などと言うおふざけコントだ。子供と一緒に笑って見ていた。後で3人が「笑わせようとしただけ」と弁解したのもわかる。中国人を怒らせた「君は見たか」は、「あんた、見たわねー」という定番のギャグのつもりだったのだろう。

 文化祭で欧米の留学生はシェークスピア劇を演じ、西欧文化を紹介した。日本の学生は、高い視聴率を誇るお笑い番組を再現しようとした。だとしたら、まさしく現代日本文化の紹介だ。それが大事件になった。3人を責めるのは簡単だが、「ひわい寸劇」で視聴率を競う日本のテレビ文化にも問題はないだろうか。

 3人は中国人を嫌っていたわけではないようだ。その証拠に、中国のインターネットを見ると、3人が大学を追放されるとき、中国人の友達が学生寮に荷物運びを手伝いにきてくれたという。押しかけたデモ学生に見つかり「売国奴め」と殴り倒されて血だらけになった。きっと3人の一番の理解者だったろうに、なんとも気の毒だ。

(毎日新聞2003年11月7日東京朝刊から)


社説:双方に反省迫る「西安事件」
日経新聞 2003/11/5
 中国の西安市で先月末に起きた反日騒動は、中国国民の反日感情の根強さを改めてみせつけた事件といえる。大学の文化祭での一部日本人留学生の愚かな寸劇が学生・市民のデモや暴行事件に拡大したことは遺憾である。事件は日中関係や両国の国際イメージを損ない、双方が傷ついた。事件の教訓をお互いが冷静、真剣に反省する必要がある。

 中国側報道によると10月29日夜、西安市西北大学の文化祭で日本人学生3人と教師1人が「中国人を侮辱するひわいな寸劇」を演じた。Tシャツの上に赤いブラジャーをまとい、男性器にみたてた白い紙コップを下半身に付けて舞台で踊りながらブラジャーの中からとりだした紙くずを観客に振りまいたという。

 これに憤激した1000人以上の中国人学生が翌日から謝罪を求める抗議行動を始め、一部は日本人留学生の部屋に乱入。寸劇とは無関係の日本人留学生2人が殴られ軽傷を負った。中国人学生はさらに街頭で市民を巻き込んだ数千人規模のデモ行進を行い、市内の日本料理店に投石したり、日本製品の不買運動を行った。

 31日には警察が出動し、当の留学生と教師が謝罪文を書くなどして騒ぎは沈静化しつつあるという。4人は3日帰国した。なんともやりきれない事件である。9月末には広東省珠海市で日本人団体客が「集団買春」を行ったと中国メディアが大々的に報道し、中国外務省が日本政府に抗議したばかりのことだ。

 日中関係は江沢民政権が1990年代に展開した愛国主義運動などで冷え込み、最近は3年続きの小泉純一郎首相の靖国神社参拝などで再び悪化している。日本国民は近代の不幸な両国関係の歴史をもっと直視、学習し、とりわけ中国内での言動には十分な配慮が必要だ。

 一方、中国側には今回のような事件は日中関係はもとより、中国の対外イメージや国益を大きく損ないかねないことを指摘したい。一部留学生の心ない行動に立腹するのはともかく、無関係の日本人に暴力を振るったり、日本という国や国民を敵視するかのような行動は常軌を逸しているというほかない。中国はすでにアジアの大国である。大国の度量、風格を取り戻してもらいたい。 


西安・反日デモ 繁栄の外…閉塞感 貧困と失業 爆破事件も続発
産経新聞 2003/11/5
 【北京=辻田堅次郎】中国陜西省西安市で起きた反日デモは、わずか3人の日本人留学生の寸劇に対し1000人以上がデモに参加する「特異な現象」だったと言わざるを得ない。寸劇が「中国人を侮辱した」と誤解された、あるいはだれかが意図的にうわさを流したとの見方もあるが、市場経済の導入で貧富の格差が拡大、繁栄から取り残された人々の間に閉塞(へいそく)感が広まっている状況も指摘できる。

 反日感情に火がつきやすい素地が中国に内在していることは確かだ。しかし反日感情を刺激されたからといって、街頭デモに繰り出したり、寸劇と無関係の日本人留学生に殴打を加えるものだろうか。

 西安自体が近年、不穏な空気に包まれていたことも、中国人学生たちが激しい行動に出る背景の一つだった可能性がある。

 西安はかつて「長安」と呼ばれた中国の古都だが、近年、多くの爆発事件が起きていた。

 中国の週刊誌「新聞週刊」は九月一日号で、西安の爆発事件の特集を組んだ。それによると、今年に入り爆発事件は四回起きている。ほかに未遂が二回、脅しが五回。七月十四日の爆発事件では五人が死亡し、九人が負傷した。

 昨年は西安郊外のダンスホールで爆発事件があり、二十数人が負傷。一昨年には、マクドナルド店で起きた爆発で死者二人、負傷者二十八人が出た。

 動機は個人的なものが多いようだ。七月十四日の事件では、妻と別れた男性が離婚後の財産分割方式に不満を抱き、裁判所の判決にも納得できなかったのが発端になったとされる。

 マクドナルド店での爆発事件は、死傷者こそ出なかったが今年六月一日にも西安市内の別の店で起きていた。犯人の動機は金だった。

 爆弾事件とは性格が異なるが、昨年三月、西安でサッカー試合の観客三万人がスタンドに放火するなどして大暴れしたこともあった。

 西安は繁栄を謳歌歌(おうか)する沿海地域とは異なり内陸部にあり、生活レベルは低い。貧富の格差拡大に対する不満も根強く存在しているに違いない。

 市場経済の導入でもたらされたのは貧富の格差だけではない。国有企業のリストラで失業者が増大、農民は労働者として都市に流れ込んでいる。

 貧しさのなかでの安定、平等という従来の価値観が否定されたのである。そうした状況の下で貧しさを甘受しなければならない人々は閉塞感にとらわれざるを得まい。サッカー試合で騒ぐのも、日本人留学生の寸劇でデモに繰り出すのも、根は同じといえるかもしれない。

                  ◇

≪西安で起きた主な事件≫

 01年12月 ファストフード「マクドナルド」で爆発事件

 02年 1月 硫酸を使った通り魔事件相次ぐ

     3月 サッカー試合で判定に不満な観客

        3万人が放火など暴徒化、武装警察出動

     9月 郊外のダンスホールで爆発

 03年 6月 「マクドナルド」に脅迫電話

        他店の「マクドナルド」で手製爆弾爆発

     7月 路線バスが爆発・炎上9人死傷

        レストラン街で爆発5人死亡

     8月 公安局、解放路のビルで爆破装置発見。台湾の通信社が現地紙を引用する形で「昨年から西安で18件の爆発事件発生」と報道

 (国営新華社通信、香港の中国人権民主化運動情報センターなどから)

                  ◇

 【日本人留学生の寸劇に関するインターネット情報の流れ】

 ■香港・文匯報(10月31日付)

 ブラジャーを着けて腰にニセの生殖器を結び「見よ、これが中国人だ」と書いた紙を掛けていた(30日西安発特電、電子版も同じ)

 ■新華社通信(31日午前)

 赤いブラジャーを着け下腹部に紙コップを結んでいた。ブラジャーから紙くずを取り出して観衆にまくなど、下品な舞踏を演じた(地方電子版=陜西省教育庁報道官の話として。この報道あたりから反日感情をあおる掲示板への書き込みが殺到)

 ■多維新聞(31日午後)

 日本人学生は上半身裸になってブタの面をかぶった。体には「みにくい中国人」などの文字を書いていた(北米拠点の中国語情報サイト)

 ■同上

 日本人教師が女のマネキン人形を抱いて舞台に上がり、中国語でこれが彼のガールフレンドだなどと述べた。続いて3人の学生が舞台に登場。背中に大きく「NA」と書き、「あなたどこの人?」「ぼくはNAだ」という問答をみせた。これは中国人を「支那人」とののしる意味だった(シンガポール・聯合早報掲載の目撃者談として引用しているが、産経新聞では同紙電子版への掲載を確認していない)


西安わいせつ寸劇騒動の背景
『反日』名目にうっぷん晴らし?
東京新聞 2003/11/5

 中国・西安市の西北大学で、日本人留学生のわいせつ寸劇騒動から“引火”した反日デモは、留学生らの謝罪、退学で一応終息した。寸劇は「下品で中国人を侮辱した」と報道されている。だが、それだけでこれほどの反日大規模デモが、連日起こることに疑問も残る。反日行動が一挙に燃え広がった背景とは−。

■経済格差に不満募らす内陸部 

 「見ろ、これが中国人だ」

 日本人留学生らの寸劇で掲げた言葉が、こう誤解されたことで、中国人学生らの反日感情に火を付けてしまったようだ。

 先月二十九日夜、中国・西安市の西北大学外語学院文化祭会場で、事件は起こった。日本人留学生三人と司会進行役の日本人教員が登場。文化的、学術的な出し物が続くきまじめな催しの場で、その姿を見た中国人学生らは仰天した。

 日本人留学生はそれぞれ「日本」「〓(愛)」「中国」と書かれたTシャツを着用。胸に赤いブラジャー、下腹部には男性器を模したのか紙コップを付けていた。その格好で数分間、ただ笑い続け、ブラジャーから紙ふぶきを振りまく悪乗りぶりだった。主催者は演技を途中でやめさせた。

■保守的な土地柄、性的表現タブー

 寸劇を見た学生のなかには「下品だが侮辱する内容ではなかった」と受け取った学生もいたが、問題は寸劇の品のなさだけではなかった。「中国」と書かれたTシャツを着た留学生は「何を見ているの?」という中国語の札を付けていた。だが騒動の翌日、同大学構内に「見ろ、これが中国人だ」と書いた紙を留学生たちは付けていたと、事実をわい曲して伝える壁新聞が張られ、同様な内容のビラも配られたという。

 中国メディアもこの騒動を「中国人を侮辱した」(ある香港紙)と報道、ネット上では「寸劇で中国人はブタだと叫んだ」という書き込みまで登場した。

 一方で、現地の公安当局などは日本人留学生と現地学生の接触を避ける措置をとった上、事態の正確な情報を公開しなかった。これらが重なり先月三十日から連日のデモに発展、一時は千人を超す行進が行われた。「何を見ているの?」との言葉が、下品さと相まって中国人を侮辱する言葉に置き換えられ反日デモが拡大したようだ。

 西安市出身で日本に留学中の女性(30)は「西安は保守的な土地柄。西北大の学生も内陸部出身者が多く、公の場で性的な表現はタブーだ。一方、裕福な層が多い沿岸部には売春婦が多く、あの格好で『何を見ているの』という札を見たら、現場にいた学生たちは『そういうことに興味があるだろう』と日本人から、からかわれているのと同じだ」と説明する。

■退学処分の学生「子どものよう」

 結局、教師は解雇、学生は退学処分となった。留学生たちは日本大使館の調べに「日中友好の気持ちを示そうとしただけ」と説明したという。大使館員は留学生について「年齢は二十−二十一歳ぐらい。何も(的確なことが)言えない子どものようだった」と振り返る。「何を…」という札については「何となく書いた」と言い、軽率さは否めない。

■『デモの実体 反政府感情』

 「中国では宴会レベルでもあんな下品な出し物はしない。北京や上海など沿岸部の都会なら、ひんしゅくは買ってもあれほどの騒ぎにはならなかった。(西安など)内陸の人はきまじめだから」と静岡文化芸術大の馬成三(マ・チェンサン)教授(中国経済)が指摘するように、日本人留学生が文化的な違いを理解せず、軽率に不道徳な寸劇を演じたことは批判を受けるべきだ。

 だがここまで事態が深刻化した背景には別の理由も垣間見える。「公安当局が学生でない身分不明者五十二人を処分した」と報じられているように「デモの参加者には無職青年らもいたようだ。反日という理由より、内陸部に色濃い経済的な不満が爆発したという側面もあったようだ」と馬教授は話す。

■戸籍制がネック 就職難は深刻

 この点は、中国全土を回った中国評論家宮崎正弘氏も同意する。

 「内陸部での若者の就職難は深刻だ。中国には住民票のような制度がなく、すべて戸籍制。そのため、内陸部の青年が都市部に就職するのは難しく、非合法に内陸部出身者の給与を半額に値切って雇うケースもあるくらいだ。政府はこの五年ほど、西安を含めた西部開発に力を入れたが、工業団地の誘致も不発で就職難の打開には至っていない」

 経済開放路線で豊かになるのは沿岸部の大都市ばかりで、内陸部は取り残されているという不満は以前から指摘されている。

 その不満の上に、九月の集団買春事件や黒竜江省の毒ガス事故など反日感情を刺激する事件が続いた。今回も日本人留学生を保護する一方で、中国人学生が拘束されたという情報が「当局の日本人びいき」として反感を増幅させた。報道管制が敷かれる中、口コミやネット上でデマも流れた。

 これらの要因が複合して事態は拡大したが、横浜市大商学部の矢吹晋教授(現代中国論)は「問題の底流として、一九九〇年代半ばからの両国関係の悪化は見落とせない」と日中関係を要因に挙げる。
 「九二年の天皇訪中までの約二十年間、日中関係は上げ潮だった。ところが、旧東側政権の相次ぐ崩壊に危機感を募らせた中国は国内引き締めのため、台湾問題を利用してナショナリズムをあおり、日本に対しても警戒心を強めた。日本側も中国などを仮想敵国とした周辺事態関連法を制定するなど、双方が内向きになった。そうした疑心暗鬼の大きな流れが小さな出来事にも火を付けてしまう」

 そうした流れの中で、宮崎氏は「反日だけがいわば合法扱いで、スローガンとして突出しやすい。七〇年代のタイなどと同じ。(それを逆手にとり)独裁への不満が反日の形で噴き出した。今回もデモの実体は反政府感情」と言い切る。

■靖国問題…『状況悪化させる小泉政権』

 ある外務省関係者も「公安当局が情報を公開せず、デモ隊も制圧したのは、他地域に反日のような名目で、反体制デモが拡大することを抑止したかったからだ」と同様の見方だ。

 ただ宮崎氏は「日本人が原爆や東京大空襲を非難しても、実際の対米感情はそう悪くない。同じ構造が日中関係にもある。反日はバーチャルな産物だ」と深刻視はしない。

 一方、矢吹教授は「問題はむしろ小泉政権の姿勢だ。一昨年八月の訪中でも、抗日記念館で論語の言葉から『忠恕』を記した。忠の字は『まごころ』と説明していたが、この字は軍国主義を想起させる意味がある。靖国問題と合わせ、そうした無神経さが状況を悪化させている」と言う。

 前出の外務省関係者はこう断言する。「中国人は理由をつけるのがうまい。反体制デモの火種はいくらでもあり、この際、騒ぎましょうという動きはこれからも続く」

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社説:留学生――もう少し勉強しようよ
朝日新聞 2003/11/5

 中国の古都、西安の大学で日本人の語学留学生が演じた寸劇が中国人学生の抗議デモを呼び起こした。留学生3人と日本人教師が帰国を余儀なくされた。

 何でこんなことになってしまったのか。学籍を剥奪(はくだつ)された当の学生たちは今そんな思いにとらわれているに違いない。彼らはそもそも何をしに中国へいったのだろうか。そう考え込む日本人も多かろう。

 若者のためのレジャー施設と揶揄(やゆ)されて久しい日本の大学ならいざ知らず、中国の大学は欧米の多くの大学と同様、一も二もなく学問を修めるところだ。文化祭では学生が日頃の勉学の成果を披露する。シェークスピア劇が英語で演じられ、ロシア語劇が人気を集める。

 だが、日本人留学生たちは何をしたか。Tシャツに女性の下着を着けて舞台にあがり、にやにやしていた。中国語を学んだ成果を見せたわけでもない。「侮辱された」と中国人の学生が思っても仕方ない。

 留学生らは「中国の思想、民族性、文化、風俗習慣への理解を欠いていた」と書いた反省文を大学に提出した。そんな大げさなことを言う以前に、相手の視線に自分はどう映っているかを考えながら行動するという、社会人としての基本的な訓練を欠いていたことを思うべきだろう。要するに一番大事な勉強が足りないのである。

 中国人学生たちの反応も行き過ぎだ。デモがエスカレートし、寸劇に関係ない日本人留学生の部屋が荒らされ、殴られてけがをした日本人もいる。恐怖から女子留学生8人が自主的に退学することになった。

 激しい抗議行動になった背景には、学生たちの強いエリート意識や愛国心、伝統的な反日意識、この留学生を保護した大学当局への不満など様々な要因が考えられる。

 中国では、約1万5千人の日本人が学ぶ。米国に次ぐ日本人留学生受け入れ国だ。とはいえ、大半が1年程度の短期の語学留学生で、難しい入試はほとんどない。授業料さえ払えばまず誰でも留学できる。

 だからでもあろう。勉強に身を入れず、現地の中国人と交流して実社会を学ぶわけでもなく、日本人学生仲間とばかり過ごす留学生も少なくない。麻薬や買春、暴力行為で摘発される例も後を絶たない。

 その逆もある。福岡の一家4人殺しのように、日本で学ぶ中国人学生が絡む凶悪犯罪が増えている。日本の奨学金制度がお粗末なのは事実だが、勉強そっちのけでアルバイトに精を出す学生も少なくない。

 それにしても留学とは何だろう。国内ではできない勉学をしつつ、外国を知り、外国人を知ることだ。それが自分の財産となり、国と国の間の信頼にも寄与する。そのために努力する留学生もたくさんいる。

 逆に日本をそのまま外国に持ち込んでいるだけでは、今度のように逆効果になることも起きる。異文化のなかに身を置く緊張感を持ってもっと勉強してもらいたい。


川口外相「留学生は非常に無感覚」 西北大・寸劇事件
朝日新聞 2003/11/4

 中国陜西省西安市で、日本人留学生が西北大学の文化祭で演じたひわいな寸劇をきっかけに抗議行動が広がった事件で、川口外相は4日の記者会見で、「留学生は相手の国の風習や習慣を十分に理解していくのが当然。非常に無感覚だ」と騒ぎの元になった留学生らを批判した。

 外相は「今の日米関係は非常にいいが、10年前は『嫌米』という言葉が新聞紙面を飾った。2国間関係にはアップダウンがある」とした上で、日中両国間では「長期的に良くしていくための努力が十分ではなかった。努力をずっと続けなければいけない」と述べた。


退学の邦人留学生襲撃を計画=西北大事件で一部の中国人学生
時事通信 2003/11/4
 【北京3日時事】中国陝西省西安市の西北大学で日本人留学生3人と教師がわいせつなパフォーマンスを演じ、中国人学生の反発を招いた事件で、一部の中国人学生が退学・解雇処分になったこの4人の襲撃を計画し、行方を捜していることが3日、関係者の話で分かった。
 日本大使館はこのため、校外に避難していた4人を同日午後、帰国させた。西北大に約50人いる他の日本人留学生の多くも、日本へ帰るとみられる。


反日デモの中国人52人処分 中国西安市公安当局
産経新聞 2003/11/3
 中国西安市の西北大学で日本人留学生が演じた卑猥(ひわい)な寸劇に端を発した反日騒動で、地元公安当局は3日までに、違法な対日抗議デモなどに参加した無職の中国人住民ら52人に教育的指導などの処分を行った。

 一方、寸劇により大学側から退学、解雇処分を受けた日本人の留学生3人と教師1人は3日午後、日本へ向けて帰国の途に就いたもようだ。

 地元紙、西安晩報によると、公安当局は1日夜の抗議デモに関連し、多数の学生や一般市民を取り調べ、このうちの一部が処分を受けた。

 北京の日本大使館は、同大学の留学生寮に乱入した中国人学生に殴られるなどして日本人学生2人が10月30日に負傷した事態を受け、中国側に「しかるべき処分」をするよう要求していた。日本人学生への傷害事件に関与した中国人学生が、今回取り調べを受けた学生の中に含まれていたかどうかは不明。

 関係者によると、西北大学に留学中の日本人学生43人のうち、処分を受けた3人以外にも留学生8人が帰国を希望、別の8人が他大学などへ転校する意向という。(共同)


寸劇利用、デマで扇動か  中国 なぜ抗議、真相を探る
京都新聞 2003/11/3

 中国西安市の西北大学外語学院の文化祭で日本人留学生が演じた卑猥(ひわい)な寸劇に端を発した反日騒動は「日本製品の排斥」という過激な呼び掛けにまで発展した。寸劇はなぜ「中国人を侮辱した」と受け止められ、大規模な抗議行動を招いたのか。地元の学生や市民の証言から真相を探った。

 ▽日中友好を訴え

 「ハッハッハッハ」−。10月29日夕の文化祭。日本人留学生3人がTシャツの胸に赤いブラジャー、腰に性器のような紙コップを着けて踊りながら3分間、ただ笑い続ける。下品な寸劇に、客席で見ていた中国人学生らは仰天。主催者側が慌てて演技の途中で幕を閉めた。

 3人の背中には「日本」「●」「中国」と描かれており「日中友好を訴えるつもりだった」と留学生らは説明する。卑猥な内容も「観客に笑ってもらいたかっただけ」という。3人は文化祭の「出し物」が前日まで決まらず「格好で目立とう」と思いついた。

 ▽壁新聞で扇動

 これが学生らの反発を呼び、抗議活動を招いたと伝えられているが、直ちにデモが起きたわけではない。抗議活動が始まったのは一夜明けた30日の午後2時ごろ。きっかけは同日、西北大学構内に張り出された壁新聞とみられる。

 壁新聞は卑猥な寸劇を演じた留学生らが「見ろ、これが中国人だ、と書いた紙を掲げた」と事実をわい曲して伝えていたと関係者は言う。同じ内容のビラが同時に西安市内でも配られた。「国辱」という題名のビラには「身近な人を連れて、われわれに加わり、憤りを表明しよう」と抗議行動を扇動する表現もある。

 何者かが寸劇を利用して反日感情をあおり、騒動を拡大させた可能性もある。

 実際に寸劇を見た学生は「卑猥だったが、中国人を侮辱する内容ではなかった。だから自分はデモに参加していない」と証言。デモで警官にれんがを投げるなどの過激な行動があったことを根拠に「学生はこんな野蛮なことはしない。誰かが利用して騒ぎを拡大しようとしたと思う」と語った。

 ▽遠い真の和解

 だが、多くの学生や市民はわい曲の事実を知らず、3日連続でデモを続行。地元のテレビやラジオは沈静化を呼び掛ける放送で「下心のある者に利用されるな」と繰り返した。

 扇動だとすれば、誰が何の目的で行ったのか。学生らは「失業者や幹部の腐敗に不満を持つ人々ではないか」と推測するが、真相は不明だ。「文化祭を主催した学生の一部が、下品な寸劇に面目をつぶされたと腹を立て騒ぎ出した」と指摘する関係者もいる。

 結局、留学生らの謝罪表明を機に事態はほぼ終息したものの、今回の騒動は、中国国内に反日感情がくすぶり続け、デマやうわさでも容易に火が付く現状をあらためて見せつけた。

 中国では日本の侵略戦争の記憶がまだ薄れず反日感情が根強い。最近は小泉純一郎首相の靖国参拝に加え、旧日本軍の遺棄化学兵器で死傷者が出た黒竜江省の毒ガス漏出事故や広東省珠海市での日本人集団買春騒動で、対日感情がいっそう悪化している。

 1972年の日中国交正常化以来、31年が経過したが、歴史を乗り超えた両民族の真の和解実現への道筋はまだ見えない。

 (注)●=ハートマーク


中国・西安の寸劇騒ぎ 「反日」実は「反政府」
産経新聞 2003/11/3
 【北京=辻田堅次郎】中国・西安市で日本人留学生の寸劇によって引き起こされた反日騒ぎは二日、ほぼ終息した。中国政府は抗議デモが拡大しないよう細心の注意を払い、この点は中国メディアの報道ぶりからも明らかだ。

 共産党機関紙、人民日報が今回の事件を初めて報道したのは、デモが起きた二日後の十一月一日だった。国営新華社通信の記事を掲載した。「西北大学、校則に違反した日本の教師、留学生を厳しく処分」の見出しのもとに、教師一人と留学生三人が処分されたことを紹介。

 中国外務省が日本大使館に対して、日本の留学生を教育し、中国の風俗習慣を尊重させるようにと申し入れたことも付け加えられていた。

 この記事が言わんとするところは明らかだ。「ふらちな日本人は処分した。外交ルートでも対処した。中国の若者よ、これ以上騒ぐな」ということにほかならない。

 中国では反日感情に火がつきやすい。しかも最近、旧日本軍の遺棄化学兵器による毒ガス事故や、広東省珠海市での集団買春騒ぎも起きた。

 だが、「反日」は形を変えた「反政府」との指摘もある。中国では政府を真正面から批判するのが難しい。そこで不満のはけ口として、日本を利用して騒ぐ。日本なら、いくら批判してもだれも文句を言わないからだ。

 中国政府も、このことに気付いているだろう。反日騒ぎの拡大を警戒するのも一つにはそのためかもしれない。


寸劇事件 デモはなぜ燃えた 中国学生の不満、根底に
大学側の「排除」に怒り メディアにも向く矛先 ナショナリズムにも絡む
朝日新聞 2003/11/3
【西安=栗原健太郎】
 中国・西安市の西北大学で起きた、日本人留学生の寸劇に対する中国大学生たちの抗議活動は2日目、ほぼ収束状態になった。ひわいな出し物をした日本人留学生に軽率な面があったにせよ、それが冗談では済まされず中国人学生の激しい怒りを買い、留学生への暴力や抗議デモ行進にまで結びついたのはなぜか。学生が掲げたスローガンからは、対日批判だけではなく大学や公安当局、メディア報道への不満やナショナリズムが、複雑に絡み合った様子がうかがえる。

◇公安にも抗議
 1日昼、大学正門前で行われたデモ行進では、学生らが「民主への支持を解禁、理解しよう」という意味を書いたスローガンを掲げた。
 この「民主」の意味をめぐっては、政治体制の民主化を求めた89年の天安門事件当時とは違う、との受け止めが一般的だ。「最近は自分の職場や学校、グループでの決定に参加したり、情報の公開を求める意味で『民主』を使う場合が多い」(共産党関係者)からだ。むしろ、「自分の意見も聞いて欲しい」との意思表示に近いという。
 なぜ、学生らはこうした不満を頂いたのか。理由として、大学当局に事後処理が素早く徹底されていたことが考えられる。 
 関係者によると、騒ぎが広がった10月30日の時点で大学側は、日本人留学生の言い分を積極的に中国人学生に知らせて誤解を解くのではなく、徹底して日中両国の学生の接触を避ける方針をとった。
 留学生ら4人は「中国人学生たちに謝りたい」とう意思をのぞかせたが、大学は「誤って済む段階ではない」とその機会を与えなかった。
 謝罪や説明を求める中国人学生が大学構内の留学生宿舎に乱入すると、大学はただちに陝西省政府に連絡。西北大は省内でも最も格が高い大学とあって、省政府は事態を重視して迅速に対応した。正午に治安部隊を入れ、2時半には乱入者を完全に排除。30分後には日本人を含む留学生約80人を市内のホテルに移送した。31日夕方には、全員を郊外のホテルに移した。
 しかし、こうした一連の措置は、留学生に「必ず謝れ」と要求した中国人学生を、より怒らせることとなった。また「仲間が公安に拘束された」との情報が学生間に広まり「捕まった学生を釈放せよ」という声も強まった。

◇大学封鎖措置
 「なぜ問題を起こした日本人は手厚く保護され、中国人学生が排除されるのか、という不満が高まったのではないか。『民主』の言葉は、詳しい事情を明かそうとしない大学当局に向けられたものだと思う」。北京大の研究生はこう解釈する。
 大学側はさらに、学生の動きを抑えるため外部との出入りを制限、授業を続行しながら、事実上の封鎖措置をとり、デモに参加させない方針をとった。「封鎖の解除を」というスローガンは、そんな大学当局への抗議だったとみられる。
 メディアも騒ぎの拡大に加担した。一部の香港紙が、ひわいな格好をした留学生が「これが中国人だ」との札を下げていた、と報じた。「日本」「ハート」「中国」と背中に書き、日中友好を表そうとしたパフォーマンスの曲解だった。だが、これをもとにネットや口コミで「許せない」という気分が急速に広まった。

◇「真実報道」を
 国営放送・新華社は、香港紙が報じた部分は触れなかった。ネット上に「なぜ報じないか」と抗議の書き込みが続いた。「真実を報道せよ」との声は、こうした状況を反映していた。逆に、日本人学生が殴られて怪我をしたこと、寸劇が中国を侮辱する意図がなかったことなどは、中国主要メディアではいまだに報じられていない。
 共産党は昨秋の党大会で「中華民族」のアイデンティティーを強調しはじめた。「中華の振興」というスローガンや、学生らが国家を歌いながら行進していたことにも影響が見える。日本を含む海外に意識が向いている沿岸部に比べ、内陸部の西安などは、日本の侵略の歴史を重点に教える愛国教育を比較的素直に受け止める傾向が強い、との指摘もある。



わいせつ寸劇:日本人留学生ら、3日にも帰国
毎日新聞 2003/11/3

 【西安(中国陝西省)浦松丈二】中国・西北大学の文化祭で「わいせつ寸劇」を演じて反日デモを招いた日本人留学生3人と日本人教師の計4人は2日、事態の早期収拾のため、3日にも当地から帰国することを決めた。連絡を受けた関係者が明らかにした。

 また、西安市郊外の宿泊施設に避難している日本人留学生ら43人のうち、女子学生8人前後が一時帰国の準備を進めている。大学側が1日に4人の最終処分を発表してからも抗議活動が散発的に続いているため、安全が確認されるまで学校を休むことにしたという。

 一方、西北大学当局者は2日までに、現地入りしている北京の日本大使館員に対し、同大留学生宿舎に入り込み日本人学生2人にけがを負わせた人物の特定を進め、厳格に処分し、公表する方針を伝えてきた。また、2日の陝西テレビによると、公安当局はデモに紛れて飲食店などを破壊したとして無職市民ら52人を拘束した。

 目撃者によると、10月30日、寸劇に反発した中国人学生ら1000人以上が宿舎を取り囲み、さらに40〜50人が宿舎内に入り込んだ。そのうちの数人が日本人留学生2人の顔や腹部をなぐり、ドアを破るなどして部屋を荒らした。


「おまえは日本人か」=寮の各部屋回り次々暴行−中国・西北大事件
時事通信 2003/11/2
 【北京1日時事】「おまえは日本人か」−。中国陝西省西安市の西北大学で日本人留学生のわいせつなパフォーマンスが中国人学生の反発を招いた事件で、激高した一部の中国人学生は留学生寮の部屋を1つ1つ回って、日本人と分かると、男女を問わず無差別に殴り掛かっていたことが1日、関係者の話で分かった。
 問題となった10月29日のパフォーマンスに参加したのは、留学生寮に住む日本人42人のうち3人だけだったが、中国人学生側は無関係の者も対象とする「日本人狩り」で、次々と日本人留学生を襲った。
 日本人留学生たちは一時、パニック状態になり、それぞれ北京の日本大使館や自分の実家に電話で助けを求めた。中国の大学は普段、警備が厳しいが、大学当局は留学生寮への出入りを規制するなどの措置を取らなかったという。 (時事通信)



個人の軽率さ、引き金中国 寸劇問題
東京新聞 2003/11/2

 【北京=鈴木孝昌】中国・西安市内の大学で日本人留学生の下品な寸劇に反発した中国人学生ら千人余りがデモ行進し、日本人が暴行を受け軽傷を負った事件は、歴史問題をめぐる中国内での反日感情の高まりを反映している。九月には広東省珠海で日本人旅行者による「買春事件」が外交問題に発展したばかり。今回も個人レベルの軽率な行動が、激しい反日行動の引き金になった。

 関係者によると、留学生三人はそれぞれ「日本」「中国」「〓(愛)」と書いたTシャツを着用。「中国」のシャツを着た学生が「何を見ているの?」と書いた札をつけて踊った。これを「侮辱」と受け止めた中国人学生が抗議を呼びかけるビラを配り、大規模デモにつながったようだ。

 今回の事件には伏線がある。今年の八月以降、黒竜江省の毒ガス事故や尖閣諸島の領有権問題で中国メディアが反日キャンペーンを展開。最近は小泉首相の靖国神社参拝発言に中国当局が強く反発した。日独仏の三カ国が受注競争を繰り広げる北京−上海間の高速鉄道計画も、「反日世論が高まり、日本に単独発注するのは難しい」(中国筋)状況にある。

 中国では報道規制が緩和され、日中間の事件が感情的に報じられることが多くなった。ネット上には過激な反日発言が相次ぎ、中国外務省も政策判断の参考にしている。

 外交関係者は「中国人の根底にある反日感情に誰でも簡単に火をつけられる時代になった」と指摘。両国で高まる民間レベルでの嫌悪感は、日中関係全体に大きな影響を与えつつある。

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やりすぎ「友好」、反日感情触発 中国・西北大寸劇事件
朝日新聞 2003/11/2

 日本人留学生のひわいな寸劇が発端になった中国・西安市の西北大学学生らの抗議デモは、1日夜も続いている。除籍処分となり、帰国することになった留学生らは「侮蔑(ぶべつ)の意図はなかった」と釈明したが、中国人学生の怒りは留学生らを避難させた当局側にも向けられ、中国全土にくすぶる対日感情の複雑さを見せつけている。

 「国の恥を忘れるな」。赤い国旗を掲げた女学生を先頭に数百人の学生が叫びながら練り歩く。

 1日夜、西安市の中心部は物々しい空気に包まれた。1000人以上が一時集結した西北大学正門前では、多くの市民も加わった。前夜に抗議デモが繰り広げられた市内の日系ホテルの入り口付近には、警察の車両がずらりと並んだ。

 当の日本人留学生たちは同日未明、面会した日本大使館員の前で、うなだれて説明したという。「パフォーマンスとしてやっただけで、悪意はなかった。みなさんにご迷惑をかけました」

 大使館側によると、29日の寸劇で留学生らは、Tシャツの上にブラジャーを着け、「何を見ているのか」と書かれた帽子をかぶって壇上に登場。音楽に合わせて声を上げながら後ろを向いて、背中に書いた「日本」「(ハートマーク)」「中国」の文字を見せ、日中友好を訴えるつもりだった。

 ところが他の演目は伝統舞踊など格調が高かったこともあり、観衆の中国人には理解されず、「ばかにしているのか」と解釈された可能性が高いという。北京の対日関係者によると、中国人学生は性的刺激を伴う見せ物には慣れていないのが普通。留学生らの寸劇は「日本ではさして問題にされないかもしれないが、中国ではやりすぎになる」。

 寸劇は中国人教師らに中断されて終わったが、中国人学生の動きはエスカレートした。関係者によると、翌30日午後、日本人留学生と教師の男女計43人が生活する7階建ての留学生寮を約1000人が取り囲み、謝罪を求めた。興奮した40〜50人が寮内に突入し、部屋を回って、「お前は何人か」と問いかけ、日本人と分かると、殴るなどの暴力を振るったという。

 警察当局は31日午前1時半ごろまでに学生を寮内から排除し、留学生たちを学外に移送した。学生が乱入していた間、留学生らはずっと息を潜めていた。4階の自室のドアに鍵をかけていた日本人女性は頻繁にドアをたたかれたためドアを開けたところ、男子学生に顔を殴られた。別の日本人女性は「精神的に消えない傷が残る。そんな怖さを感じた」と話した。

   ◇

 西安市内の大学、西安交通大学のホームページ上で公表された日本人教師と留学生の反省文の要旨は以下の通り。

 「西北大学の学生、教職員及び中国の友人に不快な思いをさせました。深く反省し、誠実におわびします。本意は、見ている人を笑わせようとしたものであって、貴国を軽蔑し、侮辱する意思は決してありませんでした。しかし、私たちの行為は中国の思想、民族性、文化、風俗習慣への理解を欠いていました。深く反省し、おわびします。」

   ◇

 <西安> 唐時代の都・長安として知られ、シルクロードへの入り口として栄えた。現在も中国の中・西部の拠点的な都市で、人口約700万。国民党指導者の蒋介石が内戦停止と抗日を求める張学良に監禁された西安事件(36年)でも知られる。秦始皇帝の兵馬俑や楊貴妃ゆかりの華清池など著名な遺跡も多く、日本人観光客は年間約16万人(01年)が訪れる。主要な店やホテルでは日本語を話す人も多い。93年には日本人旅行客3人が殺される強盗事件があった。西北大学は、中国西部地方の中心的な大学で、地域のエリートが集まる。


「これが中国人だ」掲げず 邦人留学生のわいせつ寸劇
共同通信 2003/11/2
 【西安(中国陝西省)1日共同】中国陝西省西安市で、西北大学外語学院の日本人留学生らの卑猥(ひわい)な寸劇に対し中国人学生の大規模な抗議デモが起きた問題で、インターネットのウェブサイトやうわさで伝えられた中国人を侮辱するような言動や掲示は寸劇になかったことが1日、目撃者らの話で分かった。
 留学生らは同日、大学側に謝罪文を提出したが、西安市では再びデモが行われた。
 西安市の学生や市民によると、留学生らが赤いブラジャーなどを着けて寸劇を演じた際「これが中国人だ」と書いた紙を掲げたと伝えられ、こうしたうわさが寸劇に対する反発を激化させ、反日感情に火が着いて抗議デモを招いた。
 しかし、実際に寸劇を見た学生は「かなり卑猥だったが、中国人を侮辱する内容ではなかった」と語った。(共同通信)



わいせつ寸劇:反日機運を刺激 「軽い気持ち」通じず 中国
毎日新聞 2003/11/2

 【西安(中国陝西省)浦松丈二】中国・西北大学の日本人男子留学生らによる「わいせつ寸劇」をきっかけに、陝西省西安市で広がった反日デモは1日、退学・解雇処分となった留学生3人と教師の計4人が連名で反省文を書いて提出したことで一応は収束した。軽い気持ちで演じた寸劇がケガ人を出すほどの大規模なデモに発展した背景には、日中双方の相互理解の難しさがある。いったん火をつければ、瞬く間に燃え広がる「反日」機運の根強さを改めて浮き彫りにした騒動だった。

 ◆「反省文」提出

 日本人留学生たちが演じた寸劇のテーマは「日中友好」だった。Tシャツにハートマークを背中に描いた留学生を、「日本」「中国」と背中に書いた別の2人の留学生がはさむように立ち、3人で手をつないだ。ハートマークに結ばれた日本と中国を表現したかったのだ、と彼らは言う。

 しかし、観衆の反応は違った。「文芸の夕べ」に集まった約400人の多くは「著しく下品。この催しと中国人を見下している」(大学側)と受け止めた。日本人留学生たちが胸に赤いブラジャー、腰に紙コップを突き立てた姿で、変則的な音楽をバックに叫び、跳びはねたからだ。5分ほどで中国人学生や教師に制止されたことからも、場違いな演出だったことがうかがえる。

 「文芸の夕べ」の翌30日午前、同大構内に留学生の「わいせつ寸劇」を批判する壁新聞が張り出された。学生たちは口々に「わいせつな格好をした日本人留学生が『これは中国人のイメージだ』と言った」などと憤ったという。こういう発言があったことは確認されていないが、寸劇の一部分が切り取られ、誤解を増幅させた形だ。

 関係者によると、留学生たちが宿舎で書いた反省文の下書きは誤字が丸く囲まれ、何度も推敲(すいこう)を重ねた跡があった。締めくくりの部分に「日中友好」の文字があったが、これに二重線が引かれ、提出された文から削除されていた。日中友好というスローガンと、自分たちの引き起こした騒動とのギャップの大きさに留学生たちがとまどったのかどうか――。

 ◆歴史問題の影

 この催しは学内のイベントでありながら、上海などの中国系企業がスポンサーになった「伝統と格式のある催し」(大学側)だった。政治的な影響力を持つ西北大学の中国共産主義青年団(共青団)幹部が企画運営にかかわっていたことも、事態を複雑にした。

 共青団は胡錦涛国家主席の出身母体として知られ、全国各地の大学にも活動拠点を持つ。メンツを傷つけられた共青団幹部に呼応して、反日デモは火がつくように広がった。西安は中国のかつての都・長安。西北大学は中国西部の名門大学で、学生たちには地方の出身者が多く、日本社会や文化との接触も少ない。「反日教育」を受け入れやすい地方のエリート層だといわれている。

 さらに最近、中国では満州事変の勃発(ぼっぱつ)した9月に珠海(広東省)で日本人旅行客による集団買春騒ぎが起き、8月にはチチハル(黒竜江省)で旧日本軍遺棄化学兵器の毒ガス漏れ事故が発生している。反日感情が高まり、日中関係は「歴史」にからみ、ぎくしゃくしやすい空気があった。

 デモ隊の要求が時間とともに留学生の「追放」から「謝罪」に変わったことからも、歴史問題の影響がうかがわれる。中国では「日本は過去の過ちを謝罪していない」との論調がいまだに受け入れられやすい。

 ◆官製デモ説も

 西安市内では1日夜、小規模な抗議行動が散発的にあるなど、反日の動きがくすぶった。ただ、地元のタクシー運転手(31)は「戦争は終わったじゃないか。大学内の問題を外に出すのはおかしい」と言った。

 また、デモ隊は公安当局の誘導に素直に従っていることから、地元住民には「官製デモ」と受け止められている。公安当局が反日世論の「ガス抜き」のため、あえてデモを黙認したのではないかとの見方もある。

 関係者によると、寸劇を演じた日本人留学生3人と教師は同市から車で1時間半かかる郊外の宿泊施設に泊められている。当局者たちは4人を安全に自主帰国させるため、中国人学生と接触させない方針だ。

 1日には中国のメディアが騒動を報じたが、反省文提出を撮影したテレビは留学生に危害が及ぶのを懸念してか、放映は控えているという。


社説:[中国反日デモ]「過剰な民族感情に益はない」
読売新聞 2003/11/2

 中国の西安で起きた反日デモは、二つのことを考えさせる。一つは、相手に対する理解不足が思いがけない騒動を招くということだ。もう一つは過剰な民族感情には、害はあっても益はないということである。

 発端は、西安の西北大学の文化祭で、三人の日本人留学生が演じた寸劇だ。三人はそれぞれ、「日本」「中国」「ハートマーク」の書かれた札をつけて、卑わいな格好で踊った。

 留学生たちは「日中友好の気持ちを示そうとしただけ」だった。だが、見ていた大学の教員や学生は、下品さが度を超しており、中国人を侮辱していると感じ踊りを中断させたという。

 中国人学生らは謝罪を求めて市内をデモし、寸劇とは無関係の二人の日本人留学生が殴られる事件も起きた。

 寸劇を演じた留学生らは、軽率だったと反省し、早期帰国することで、騒ぎそのものは、ほぼ沈静化したようだ。

 問題は、日本であれば、まゆをひそめるだけですんだかも知れないパフォーマンスが、なぜ、「日本人は帰れ」と叫ぶデモにまで発展したか、である。

 日本人留学生の側に、中国人が寸劇をどう受けとめるかに関して、思慮に欠けた点があったことは否定できない。

 しかし、寸劇への反発が、大規模なデモにまで発展したことには、強い違和感を覚える。

 中国では一九八九年の天安門事件以降の江沢民時代、共産党や社会主義への逆風が吹く中で、愛国主義教育が強化された。中国を侵略した日本軍の非人道ぶりと、共産党軍の英雄的な戦いぶりが強調された。そこでは、「愛国」と「反日」は、ほぼ表裏一体だった。

 共産党一党独裁体制の下で、中国は、国定の教科書によって、国家・党公認によるただ一つの歴史観を国民に浸透させている。ささいなとも言える寸劇をきっかけに民族感情が噴出した今回の集団デモの背景には、こうした「反日」教育の影響もある。

 過去四半世紀の著しい経済発展で中国は、自国に対する自信、さらには優越感さえ持つようになっている。アヘン戦争以降の屈辱的な近代史に由来する劣等感と、この優越感が混ざり、屈折した感情を生み出しているようだ。

 だが、「反日」教育によって醸成された反日感情は、日中関係を改善、発展させるうえで大きな障害となっている。

 日本が、日中交流に当たって、常識的かつ健全な配慮をすべきであるのは当然だ。だが、中国も「反日」的な民族感情の危うさを認識してもらいたい。


日本人留学生が殴られ軽傷 中国・西安の寸劇反発問題
朝日新聞 2003/11/1

 中国・西安市の西北大学での文化祭で、日本人留学生の寸劇に中国人学生が反発している問題で、同大学の日本人留学生の男女2人が中国人学生に殴られ、軽傷を負ったことが分かった。北京の日本大使館が31日、職員を現地に派遣して確認した。約40人の日本人学生を含む同大学の外国人留学生らは31日未明、中国当局により市内のホテルに移され、安全が確保されているという。

 中国外務省の羅田広(ルオ・ティエンクワン)領事局長は同日午前、日本大使館の高橋邦夫公使を同省に呼び、日本人留学生の卑猥(ひわい)な出し物に中国人学生が謝罪を要求した経緯を説明。日中双方の学生の衝突を避ける措置をとったことを伝えた。

 そのうえで「留学生のパフォーマンスは日本の公の場所でも許されておらず、まして中国ではなおさら許されない。日本人が中国で学習や旅行をする間、中国の法律、風習、習慣を順守するよう希望する」と述べた。

 これに対し高橋公使は「日本人留学生が負傷したり、複数の留学生の部屋が荒らされたりした。理由がどうであれ、このような事態に強い遺憾の意を表明する」と伝えた。

 日本大使館によると、留学生らはホテル内にとどまるよう大学当局から指示されている。ホテルでは中国人の出入りも制限されているという。

 北京のインターネットニュース「千竜網」は同日、西北大学が3人の日本人留学生を除籍処分にしたと報じた。これについて大学の広報担当者は朝日新聞の取材に「教育省からの連絡を待っており、今は確認できない」としている。

 香港紙「文匯報」は、日本人留学生らが問題の寸劇をした際、「ほら、これが中国人だ」と書いた札を掲げていた、と報じたが、実際にそうした事実があったかどうか、日本大使館員らが調べている。ただ、こうした報道をもとに、ネット上では「中国人を侮辱している」などと反発する書き込みが続いている。

 中国国営通信・新華社によると、29日夜にあった同大学外国語学院の文化祭で、日本人留学生3人と同教師の計4人が、胸に赤いブラジャー、下腹部に紙コップを付けて踊り、ブラジャーから紙くずを出し観客席にまいた。中国人学生や教師が怒って中止させ、翌30日には同大以外も含む千人以上の中国人学生が留学生寮前に集まり、謝罪を要求した。 (11/01 02:48)


民族感情の矛先また日本人に
産経新聞 2003/11/1
 西安で起きた街頭デモは、千人余の中国人学生が「日本のイヌコロは出てゆけ」「日本製品のボイコットを」など、激しい反日スローガンを叫ぶ異常な事態となった。発端は日本人留学生の下品な寸劇だったと伝えられるが、日本を標的とした急激な政治問題化の動きは、九月の広東省・珠海での「日本人集団買春事件」に通じるようだ。

 中国側報道を整理すると、(1)品格上の問題(西安の西北大学在籍の日本人男子留学生三人と日本人教師一人が二十九日、学内で下品な寸劇を演じた)(2)民族差別問題(寸劇で下品な役を演じた際に「これが中国人だ」など中国人を軽侮する言葉を書いた紙を身につけた)−に集約される。

 ただ、(2)に関しては、報道に食い違いがあり、国営新華社通信(電子版)が伝えた陜西省教育庁の発表では言及されていない。今後、特に事実関係の確認が必要な点はこの民族差別の有無だ。

 中国の大学・研究機関に在籍する日本人は長期滞在者だけで八千人前後とされる。学内で下品な寸劇を演じることは中国の刑事法令に違反する可能性もあり、事実なら処分や批判は免れない。

 なお多くの点が不明な騒ぎだが、日本人を好色で下劣な民族と印象づける▽中国人の民族感情を刺激する▽問題を外交ルートに乗せる−という三点で、珠海の「日本人集団買春事件」と共通のパターンがうかがえる。

 タイミングも微妙。福岡での一家四人殺人事件の容疑者として中国人拘束が明らかになった直後に「買春事件」が、瀋陽(遼寧省)で日本人旅行者誘拐事件が発生した後に今回の反日デモ騒ぎが、なぜか起きている。

 現在の中国の大学生は江沢民時代に進んだ民族主義教育を受けた世代であり、反日的動きには容易に同調する素地を持つ。ただ、中国での街頭行動は、その幕引きを誤れば、当局に批判の矛先が転じる危うさもはらむだけに、事態は中国当局にも両刃の剣といえる。(山本秀也)


中国で邦人留学生の「裸芸」に猛抗議
TBS News i  2003/11/1

 中国の西安市の大学で、10月29日、日本人留学生らが裸踊りをしたことに対して、中国人の学生が反発。大規模な抗議デモに発展し、緊迫した状況となっています。

 「日本を憎んでいる! 日本を憎んでいる!」
 
 ことの発端は、西安市の西北大学で29日、日本人の留学生ら3人が学園祭でぼ全裸に近い状態で芸を披露したことにあります。
 
 「日本人留学生らは舞台に上がって上半身に女性用ブラジャー、下半身には人工の男性器のようなものを付け、体に日本語で『これが中国人だ』と書いて歩きまわっていたのです」 (中国人の男子学生)
 
 抗議デモは1000人を超える規模に発展し、30日には一部の中国人の学生が留学生の寮に乱入、裸踊りとは関係のない日本人留学生2人が殴られ、軽いけがを負いました。日本人留学生はホテルへと避難していますが、31日の夜にはこのホテルをデモ隊が囲んで 「日本人の畜生め! 出て行け!」と声を荒げ、緊迫した状況となりました。
 
 抗議は、深夜まで続き、多数の警官が見守る中、日本製品の不買を訴えるプラカード等も掲げられました。芸を行った留学生3人は退学処分となり、担当の日本人教師は解雇されています。(1日 4:46)




12/30 中国で反日サイト急増 外交政策に影響力拡大 (産経新聞)
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