大恐慌真っ只中の1932年、アメリカ南部の町モンローヴィル。この街に住む2児の父親で正義感の強い弁護士アティカス・フィンチは身に覚えのない暴行事件で起訴された黒人トムの弁護を引き受ける。しかし、トムの有罪を信じ、黒人に対して偏見を持つ街の人々はトムを弁護するフィンチに冷たく当るが、彼の子供達は、冷たい態度や脅しに動じないフィンチの勇気ある行動を目の当たりにしながら大きく成長してゆく。閉鎖的な南部を舞台に、人種差別問題、父親の苦難、町の人々との交流を子供達の目を通して描いたハーパー・リーのベストセラー小説を基にして、数々の社会派作品を手掛けてきたプロデューサーのアラン・J・パクラとロバート・ミリガン監督のコンビが静かながらも力強くノスタルジックに描いた作品。
ハーパー・リーが彼女の子供時代の体験をもとに執筆し、61年に発表した『ものまね鳥を殺すには』アメリカでベストセラーとなり、翌年にはピューリッアー賞を受賞する。
聖書の次によく読まれた本と言われたほど知名度の高い作品ながら、映画スタジオはロマンス、アクション、ミステリー、アドベンチャーの要素が全く無い本作の映画化に興味を示さなかった。
しかし、エージェントのイザベル・ヘイルバートンは、この本を『栄光の旅路』(57)を製作後ニューヨークの演劇界に戻っていたアラン・J・パクラに送り、
本に興味を示したパクラは『栄光〜』で一緒に仕事をした監督のロバート・ミリガンに話を持ちかけ、意気投合した二人は『ものまね鳥〜』の映画化に取り組む。
二人が主人公フィンチに白羽の矢を当てた俳優は、誠実なキャラクターが売りのグレゴリー・ペックであった。二人はペックに本を送り、彼がフィンチ役に惚れ込んで映画への出演を承諾すると、同じくペックの出演作を物色していたユニヴァーサル社も興味を示す。
しかし、ユニヴァーサルは妻に先立たれた中年で子持ちの弁護士というキャラクターはペック向きではないと考え、映画化に難色を示すが、どうしてもペックが欲しいユニヴァーサルは製作に同意する。
リーが本作の脚本化を辞退したため、脚色は劇作家のホートン・フートが担当。
パクラとミリガンは物語の舞台となるモンローヴィルでのロケーション撮影を予定していたが、残念なことにモンローヴィルには恐慌時代の面影はなく、すっかり近代化されていた。
そこで、ユニヴァーサルの屋外スタジオ内に32年頃のモンローヴィルが再現されることになり、美術監督のヘンリー・バムステッドは、ロサンゼルスの荒廃した地域から家屋を取り寄せて30年代の古き良き街並みを作り上げた。
ペックは役作りのため、アティカス・フィンチのモデルとなったハーパー・リーの父親アマサ・コールマン・リーに会い、
彼はアマサ・リーの勇敢かつ知的で礼儀正しい人柄に触発されて、フィンチを正義感にあふれる父親の鑑ともいえる頼もしいキャラクターとして演じた。
ペックの演技は観客からも批評家からも絶賛を浴びて、彼の長いキャリアの中で唯一のアカデミー主演男優賞を獲得。2003年にアメリカ映画協会(AFI)が発表した「最も偉大な映画のヒーロー」では、インディ・ジョーンズやジェームズ・ボンドといった人気ヒーローを抑えてアティカス・フィンチが第1位に選出された。
フィンチの子供スカウトとジェムを演じる子役は、アラバマ州のバーミングハムでスカウトされ、それぞれメアリー・バダムとフィリップ・アルフォードが演じた。
ジョン・メグナ演じるジェムのクラス・メイトのディルは、リーの子供の頃からの友人で、『ティファニーで朝食を』(61)の原作者として有名な小説家トルーマン・カポーティがモデルになっている。
ミリガンはキャメラなどの撮影機材は距離を置いて設置し、撮影時はキャメラをゆっくりと目立たないように前進させることによって、子役たちが子供らしく振舞うことが出来るような雰囲気を作り出すようにつとめた。
また、後に『ゴッド・ファーザー』シリーズなどでスターとなるロバート・デュバルがフィンチ家の隣人の精神異常者ブーを演じ、少ない出番ながらも強烈な印象を残す演技を披露して華々しいスクリーンデビューを飾った。
映画は批評家から絶賛され、63年度の興行成績第8位を記録するヒットとなり、第35回アカデミー賞では作品賞を含む8部門にノミネートされ、主演男優賞(ペック)、脚色賞、白黒美術監督・装置賞の3部門に輝いた。
|