リウマチ膠原病科のご紹介
勤医協中央病院 内科医長 長谷川公範
1.はじめに
有病率が0.7−1.0%と考えられている関節リウマチ(以下RAと略)をはじめ、運動器障害を呈する膠原病関連疾患は極めて多数にのぼります。この間の医学医療の進歩や人口の高齢化に伴い、機能回復のための外科的対応が必要となる患者数も年々増加の傾向を示しております。その一方で、関節リウマチをはじめとする膠原病の症状は全身に及ぶことも多く、全身の診療に精通した極めて高度な内科的知識と技術を必要とします。そのような中で当院はリウマチ内科と整形外科の両者で緊密に機能分担・連携を行ない、より良い医療を提供しようと日夜奮闘しております。今回はリウマチ診療の最新の情報とともに、当院でのリウマチ診断・治療の実情をご紹介したいと思います。
2.当院でのリウマチ膠原病内科について
勤医協中央病院のリウマチ膠原病内科グループは現在、院長以下4名の医師団を形成し、外来・入院診療に携わっております。外来診療ですが、当院および隣接の伏古10条クリニック、さらには勤医協札幌病院でのリウマチ診療を担当することで、極めて多くのリウマチ患者の診療に従事しております。患者数は、関節リウマチ患者が約600名、シェーグレン症候群300名、SLEをはじめその他の膠原病疾患が約100名、病棟も恒常的に15−20床程度が常時フル稼働している状態です。その中には不明熱や関節痛の精査など、他疾患との鑑別に苦慮する症例も多く、グループ回診や討議はもちろんのこと、週に一度のグループミーティングと学習会を通して、積極的に最新の知見を学習しております。
3.リウマチの原因
さて、そのリウマチ膠原病疾患ですが、免疫学的異常を主因として骨・関節、結合組織や血管などにおこる慢性炎症性疾患と定義づけられております。これまでは、その背景となる免疫機序に不明な点が多かったために、とかく漠然とした、正体不明の“難病”と誤解されることも多かったのがリウマチ膠原病の実情ではなかったかと思います。しかし、近年の基礎免疫学や分子生物学の進歩を通して、病気の発症や進展の機序が次々と明らかになってきております。さらには、それらの知見をもとにした新たな診断法や治療が次々と登場しております。次にそれらの新しい診断や治療の一端をご紹介したいと思います。
4.最近のリウマチの診断
リウマチ膠原病の診断も病歴聴取、診察等が基本となることは他の疾患と異なることはありません。それらに加えて、背景となる免疫現象には白血球(顆粒球やリンパ球など)をはじめとする造血系細胞が深く関与していることもあり、血液学的検査が診断に極めて有用という特徴があります。その中で、自己抗体、特にリウマチ因子(RF)が広く診断に用いられてきました。
その一方で、RFは早期の関節リウマチでの陽性率が低いこと、RA以外の膠原病でもしばしば陽性になること、さらには加齢に伴い非特異的に陽性となる症例がしばしば観察され、臨床医を困惑させておりました。そのような中、診断的特異性の低いRFに代わる新たな検査法が生み出されております。
その一つに、抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)が挙げられます。抗体自体の性質などの詳細は省きますが、国内外の多くの報告から、抗CCP抗体の臨床的意義が証明されています。例えば、RAに対する疾患特異性が90%以上と極めて高く、さらにはRAの発症早期、時には発症前から検出されることが知られています。後述の核磁気共鳴映像法(MRI)との組み合わせることで、極めて早期の段階からRAの診断が可能となり、より早い時期から積極的に治療が可能となります。
もう一つの有用な血液検査としてマトリックスメタロプロテアーゼ−3、通称MMP-3の測定が挙げられます。タンパク分解酵素であるこのMMP-3は関節軟骨などの組織破壊や組織再構築に関与するタンパク分解酵素のひとつで、主に増殖する滑膜組織から分泌されます。CRPなどの急性期タンパク(炎症マーカー)とは異なり、関節破壊をより正確に反映すると考えられております。加えて、MMP-3はRAの早期から滑膜組織に発現しているため、早期診断にも有用と考えられております。
次にRAの画像診断をご紹介したいと思います。これまではレントゲン写真を用いて骨びらんや関節破壊などの評価がされてきました。安価に、そして手軽に関節病変の評価が出来るという利点の一方で、早期の関節リウマチ病変、例えば炎症性滑膜の増殖や炎症性肉芽組織の延長であるパンヌス、あるいは早期の骨びらんなどの早期RA病変の検出が極めて難しいと言った限界がありました。そのような中、MRIはこれらの早期病変を無侵襲に検出できる画期的な画像診断法として脚光を浴びております。
図1に一例を紹介します。左上の単純写真では、関節の腫脹が認められる一方で、炎症性滑膜や骨びらんなどの評価が困難です。それに比べ、MRIを用いた検査では、骨びらん(図中の青丸)や滑膜増殖(図中の赤矢印)が簡便に検出することが可能となります。後述する極めて効果的な治療法を早期から開始するためにも、RAの診断にMRIは欠くことの出来ない検査となっております。
5.最近のリウマチの治療
先ほども触れましたが、RAの治療はこの10年間に一変した状況となっております。図2にRAの滑膜組織で起こっている免疫反応の概略をお示しします。病気の最初のスイッチ(図中の赤線で囲まれたT細胞の活性化の仕組み)に関しては残念ながら不明な点が多いのですが、その後に関節腫脹や骨破壊、発熱や炎症反応が起こる仕組みに関しては相当細かなことまでわかってきております。特に、TNF-α、IL-6、IL-1などの炎症性サイトカインやB細胞の役割に注目が集まっています。
例を挙げますと、T細胞やマクロファージから産生されるTNF-αによるマクロファージや滑膜組織の増殖、そして骨破壊の仕組みが知られつつあります。あるいはIL-6によってCRPなどの急性期タンパクの産生や好中球・血小板などの炎症性細胞の活性化、さらには抗体産生に及ぼす影響など、一昔前なら全く暗やみの中にあった病気のメカニズムが次々と明らかとなってきました。そうした仕組みを背景として、分子レベルでこれらの炎症性サイトカインを阻害する治療法が現在のリウマチ治療の主流となりつつあります。
従来の治療法、例えばプレドニンをはじめとするステロイド治療は、図中のあらゆる免疫現象を押さえることで関節リウマチの症状を抑える一方で、前述の炎症性サイトカインそのものを押さえる力が弱く、易感染症、糖尿病や高血圧などの副作用の重大さと比較して、関節破壊などの阻害効果が弱いことがわかっています。さらに、解熱鎮痛薬はプロスタグランジンなどの炎症性メディエイターを押さえることで、鎮痛作用を示しますが、関節破壊には効果のないこともわかってきております。これらの治療法は現在でも汎用されておりますが、RA治療の究極の目的を関節破壊の防止とQOL(生活の質の向上)と捉えるならば、決して満足のゆく治療法ではありませんでした。
そうした中、前述の炎症性サイトカインを選択的に阻害する治療法、つまり抗体や融合タンパクなどの生物製剤を用いた治療法が臨床の現場の主役となりつつあります。図3にそれらの薬剤の作用ポイントをお示しします。これらの治療法は、点滴や皮下注射で使用するもので、その効果は従来の治療法で見られなかったほどの劇的な効能を示すことが多く、さらに、早期からこれらの治療を用いた場合、その後の関節変形を抑制するだけでなく、完全緩解(全く治療が不要になる状態)に至る可能性も示唆されております。
その一方で、図中の作用機序の所から推察されるように、TNF-α阻害によってマクロファージの活性化が阻害され、マクロファージを主な潜伏場所とする結核菌や非定型抗酸菌などの感染症の発症が見られることがあります。あるいは、IL-6を阻害するアクテムラの使用により、気管支炎や肺炎などの重症感染症の発症時にCRPが上昇しないといった、診断上極めて厄介な事態に陥る危険があります。さらに、これらの生物製剤全般が、経済的に極めて高価であるという問題点を抱えております。
6.当院でのリウマチ診療
これらの生物製剤の使用に際してですが、当院では結核感染の有無を始め、悪性腫瘍の有無を含めた全身精査を行った後に、細心の注意を払いながら使用しております。当院でもこれらの薬剤の使用を開始して既に数年の年月が経過し、現在も多数の症例で使用しております。図2で示したように、RAそのものの病態が症例毎に極めて不均一な事情もあり、すべての症例で同一の効果が認められないのも事実です。その一方で、極めて著効を示す患者さんも多く、今後はRAの早期診断と患者さんそれぞれに最も適した治療法の選択を通して、危険な副作用を可能な限り減らし、さらには10年後20年後に関節変形へと至るRA症例を少しでも減らすことを夢見て、日常の診療に励んでおります。
7.当科でのその他の診療範囲
当科ではRA以外にも膠原病全般、さらには不明熱などの精査も精力的に行っております。これらの疾患群もRAに劣らず、分子レベルでの診断や治療が進みつあります。以下に膠原病や免疫病を疑わせる所見を列記いたしました。このような症例の精査などが必要な場合、ご連絡を頂ければ責任をもって精査を進めさせていただきます。
- 関節痛や筋肉痛
- 不明熱
- 原因不明の炎症マーカーの上昇(CRP,血沈,TTT/ZTTなど)
- 皮疹やリンパ節腫脹、口や目の乾燥症状
- 凝固異常や血栓症状
8.おわりに
RAをはじめとする膠原病の診断治療のこの間の劇的な進歩が、少しでも質の高い健康生活に寄与することを強く願い、筆をおきたいと思います。
長谷川公範
1989年 旭川医科大学卒業
1991年 東京都神経科学総合研究所免疫学研究部門
1997年 ワシントン大学ハワードヒューズ医学研究所
2001年 Genentech社免疫学部門
2005年 秋田大学医学部21世紀COEプログラム
2007年 勤医協中央病院内科
医学博士
専門:分子免疫学、免疫病学、リウマチ膠原病学
趣味:読書(洋の東西を問わず)、料理を作って宴会すること、音楽鑑賞(最近はマドンナ、レイチャールズ、ヒラリーハーンにはまってます)、免疫の勉強も趣味です


