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a Symmetry 1 暗い海だった。翳った夜は静かで、時折ちらちらとまたたく波間さえ月が雲に姿を隠すとその輝きを止めた。身体にまとわりつく漆黒の闇の底から、じわりと迫るように響く潮騒に、妙に怯えたことを覚えている。 だが、傍らの男は、俺を縮こませるその音にむしろ郷愁を呼び起こされたらしい。以前どこかの小島をねぐらにした時に常に聞いていたのだという。そして、その時につるんでいた連中のことを懐かしげに話した。 コモンは、パラノイドサーカスを名乗る彼らを語る時だけは拳を振るうこともせず、鋭い目を和らげ、いとおしむように言葉を紡いだ。その折に微笑んでさえいたのだから、余程忘れられない日々であったのだろう。 その上機嫌は、表情よりも尻尾によく表れたものだった。……そう、彼らは人間ではない。いや、確かに俺も人間とは言い難いが、それ以上にコモンは人間ではなかった。そもそも出自からして違う彼らを、人間願望、と呼ぶことを俺はこの時初めて知った。 いつだったかコモンは自嘲するように語った。人間願望とは、すなわち、圧倒的な人間の力に焦がれ、その身を重ねる者である、と。 ――そういえば、お前も俺の「憧れ」だったな。 ふと気づいたというようにコモンはこちらを見る。 ――もっとも、お前に人間の面影なんざ残っちゃいねえか。 言葉と共に押し出した笑みは一体どういう意味だったのか、それは未だに分からない。だが俺は何も言わなかった。言い返せる立場ではなかったし、実際その通りだったからだ。 獣の名残が見られるとはいえ、すらりとした姿や端正な横顔は余程人間らしかった。否、時折口許から覗く尖った犬歯や、黒光りする長い爪、先を見据えて揺るぎない赤く燃える瞳は人間を越えた妖艶さがある。精緻な瑪瑙細工のような完璧な美しさだった。一介の醜い陰魄に過ぎなかった俺だからこそ、なおのことそう思われたのだろう。 コモンが人間に憧れたように、俺はあいつになりたかった。まるで子供のようだろう? 鏡の向こうの世界に手を伸ばしても届くはずなどないというのに、それでも求めずにはいられないのだ。 この願いは、さしずめ何と呼ぶのだろう。 next * * * * * オンリーイベント「Look Up!3」にて配布したハセ&コモン。日記を見返すに、彼らついては1年3ヶ月ぐらいねちねち考えていたようです。 Last up 07/11/9 |