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「――まあね、人間なんてのは馬鹿で手前勝手でどうしようもないもんだけど、あれでなかなか見所もあるんだよ、一応」 彼女は愛嬌のある吊り目でちらとキヨイを見た。だが彼は不服だとでも言いたげに、唇を尖らせて空を睨んでいる。 「アンタは人間と関わらず生きてきたから分からないだろうけど、上手く取り入ればおまんまにも寝床にもありつけるんだよ? アタシのご先祖さんが、まあとんでもなく昔の話らしいけど、それを選んだって文句は言えないやね。それに、」 続く言葉を彼女は切った。キヨイがふとそちらを向くと、今度は縁側に座る彼女がきまり悪そうに宙を仰いだ。 「それに、ホラ、結構大事にしてくれたりもするしさ。ちょっと具合悪そうにしてりゃ、うちのちびなんかワアワア泣いちゃってねえ。こりゃあ死ねないなあと思ったもんよ」 「……でも、その人間自身が僕らを殺しているじゃないか」 遮るようにキヨイは吐き捨てた。淡い緑の瞳が、空の青に似つかわしくないほどに、怒りと侮蔑に燃えていた。 「殺して、貪り食っている。それだけじゃない、本当に、何の意味もなく殺すこともある。それを君は許せるというのかい?」 抑えた声で彼は問うた。彼女はその視線を真っ向から受け止める。そして、 「――はん、馬鹿馬鹿し。アタシだって肉ぐらい食べるわよ」 金褐色の目を細めて彼女は言った。予想外の返答だったのだろう、キヨイは目をぱちぱちさせている。 「意味のない殺しだって、認めたかないけどたまにはやるわ。こないだだってホラ、知ってるでしょ、五丁目のハナさんが自分の子供殺しちゃったってやつ。ストレスだか何だか知らないけど、子供に罪はないのにねえ」 「………え」 「それにアンタ、自分は草食だーなんて威張ってるけど、草は生きてないとでも思ってるのかい? 文句言わないから大丈夫だって?」 「…………」 黙り込むキヨイに、彼女は静かにため息をついた。小さな風が裏庭の木々を、さや、と揺らして去った後、つまりね、と彼女は口を開いた。 「つまり、アンタにとって都合のいい世界ってのは、誰かにとっちゃ都合悪いこともあるわけよ。でもお互いがお互いに依存していて、もう離れられないようになってるんだから、どこかで折り合わなきゃならないの」 「……うん」 「だから殺してもいいって理屈にはならないけど、どうせいつかは死ぬわけだから、ならいっそ誰かに食べてもらうなり役に立ちたいとアタシは思うね。まあ実際その時になったら死にたくないって騒ぐだろうけど」 勝手なもんよねえ、と彼女は笑った。つられてか、キヨイも少しだけ笑う。 「もっとも、アンタはいろいろつらい目に遭ったみたいだから、割り切れっていうのも酷な話だね。でも、人間にもいい奴はいる、これだけは覚えといて頂戴」 * * * * * 「――キヨイ、さっきから何してんの?」 白金が不審げに眉根を寄せた。キヨイの「ひとりごと」を聞いてやって来たらしい。 「ちょっとね、彼女にお説教されてたところ」 キヨイは苦笑混じりに白金に答えた。その隣で、首輪の銀の鈴を振るわせ、小柄な三毛猫がにゃあと鳴いた。 * * * * * オンリーイベント「Look Up!3」にて配布したペーパーSSです。勘のいい方なら最初の2,3行で気づかれたかもしれない叙述トリック。お粗末様でした。 このペーパーは外見がなかなか好評でございました。 Last up 07/11/08 |