モンゴル地域研究講義
 

斎藤晶牧場から「近代」を問う

    〜蹄耕法による山地酪農−北海道旭川市の斎藤牧場にて〜    

        遊牧社会の地域研究プロジェクト実践チーム  


 
      斎藤牧場の経営ついて    澄川裕之      


    斎藤さんの牧場が注目される要因の一つは、経営の方法である。

    機械化に頼る省力化、能率増進という、日本に一般的な方法の流れに乗らない独自の哲学にもとづくところの経営元凶を記してみたい。

    

    ≪経営の特徴≫

    

    上記の特徴点は、斎藤さんの哲学および牧地造成法をみれば、納得できることと思う。

    資本の少ない理由は、

    「牛という大型機械で草地を作り、しかも、牛自体が大きくなって、いわば、貯金しながら草を処理し、乳を出してくれる」

        ⇒⇒機械もほとんどいらないし、償却もないことを意味しているのである。

    山に機械をいれないために、

    「どんな山地、傾斜地、石の多い山奥でも、資本をかけずに草地化できる」ことや、

    「「表土を動かさないため、健康な草ができる」ことなどによる。

    ここで、1984年度の具体的な経営指標をあげよう。

    

    ≪1984年度;経営状況≫

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

    

農業粗収益40,000,000円
農業経営費23,429,700円
農業所得16,570,300円
農業所得率41.4%
牧草地草地量3800kg/10a
年間月平均搾乳牛頭数63頭
年間産乳量5500kg/頭
平均乳脂率3.66%
借入金残高32,700,000円
借入金返済および返済利子5,000,000円
畜産収入40,000,000円
  生乳31,230,000円
  乳牛及び育成差益8,770,000円
種苗60,000円
動物21,949,000円
肥料3,000,000円
飼料14,000,000円
光熱動力400,000円
農機具11,886,000円
農用自動車費1,486,000円
農用建物維持・修繕3,672,000円
土地改良・水利費223,000円
農業被服費あわせて
農業雑支出500,000円

    (農業投資資本額は、1984年度にすべて新調したものと仮定した数字)

    

    農業所得が、4000万円台であることもさることながら、

    農業所得率が41.4%であることに特に注目していただきたい。

    北海道平均が20〜30%台であることから考えても、驚くべき数字である。

    もちろん、この数字を成立せしめているものが、投下資本額の少なさなのである。

    

    ≪コスト低減≫

    1)牛舎

            第一牧場:木造100坪(一部ブロック)=95万円

            第二牧場:木造  80坪(廃屋利用)=3万円

            野菜用ビニールハウスの牛舎:99屐瓧桔円

    

    2)サイロ

            斎藤式簡易サイロ(40t)=2万5千円

            ブロックつくりサイロ(3.3×6.6M)=6万円

    

    3)牧柵

            雑木のくい(牧場内の林地の間伐材利用)。毎年少量の腐ったものだけを取り返る。

    

    4)牛の水飲み場

            地下水をパイプで適当な場所までひいている。廃トラックの荷台にビニールシートを敷き、水槽としている。

    

    5)第二牧場の住居

            本来の住宅ではないが、生活できるようになっている。=建設費5千円

    

    ≪産乳量を減らす≫

    1984年度における斎藤牧場の年間産乳量は、一頭あたり5500kgであった。

    ところが、斎藤さんは

    「4000kg台に落とそうと思うんですよ。」という。

    これも常識では考えられないことであるが、

    やはり斎藤哲学に照らし合わせると、なるほど理屈にあっている。

    すなわち・・・・

    ★産乳量をあげようとすると・・・・・

    1:消化吸収の良い草しか食べない。

        (食べ残しがあるということは、牧地を有効利用していないことになる)

    2:配合飼料を多く与えなければならない。

        (飼料購入の必要が生じ、コストアップに直接つながる)

    3:運動量を減らさなければならない。

        (舎飼いを意味し、蹄耕法による牧地造成ができない)

    

    ★産乳量を下げようとすると・・・・・

    1:質の悪い草も食べるので、不食過繁地がなくなる。

        (牧地の有効利用ができる)

    2:「放牧地は徹底的に利用され、不思議に思われるほど、草丈は短く。斎一で、掃除刈りの必要がない)

    

    「どんな山でも放されれば、食うものはとにかく自分で探して食うというようにすれば、

    これが一番安上がり。

    それでも、4000キロは出る。」

    斎藤さんはこういいながら、高らかに笑うのである。

        参考:北海道平均年間産乳量=5681キロ(1984年)、USA=5709キロ(1983年)

    

  北海道単一経営酪農斎藤牧場
年度1973年1983年1973年1983年
搾乳牛頭数20頭以上40頭以上25頭63頭
農業粗収益(万円)1,0653,9236703,300
農業経営費(万円)7003,1183502,095
農業所得(万円)3658053201,205
農業所得率(%)34.320.547.836.5
牧草地面積(ha)17.445.01770
年間平均搾乳牛頭数25.548.12563

    

    何よりも、特記しないといけないことは、

    農業所得が、1983年度に斎藤牧場の方が多くなっており、

    道内平均を上回ったことである。

    農業粗収益は道内平均の方が上回っているにもかかわらず、

    農業所得で斎藤牧場が優っているということは、

    とりもなおさず、農業経営費の低減につとめたからに他ならない。

    従って、農業所得率においては、明らかに開きが出てきている。

    斎藤牧場は、道内平均の1.78倍を記録しているのだ。

    蹄耕法による効果が明らかに現れているところだと言うことができよう。

    しかし、斎藤さんは

    「数字に左右されて経営を行なっていてはいけない。

    迷わず進めていくこと。

    そうすれば、必ず将来それが芽を出してくる」

    と堂々と言ってのける。

    

    このレポートを書くにあたり、萩山深良先生の「蹄耕法の思想」(旭川大学、地域研究所)から数値を引用させていただきました。

    

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