Cooperative Research In Mystery & Entertainment
探偵小説研究会
「CRITICA」第12号 目次


探偵小説研究会編著「CRITICA」第12号
 (2017年 8月発行、A5版、表紙カラー)



目次

序文

特集――新本格の30年、社会派の60年
新本格三十周年ふりかえり座談会 秋好亮平・小田牧央・川井賢二・蔓葉信博
点線の十角形
市川尚吾
「一人の芭蕉」という陥穽 巽昌章
 社会派推理小説の「社会」をめぐって 横井司
 『占星術殺人事件』を読む 佳多山大地
 〈新本格〉という病 秋好亮平
 暴力と生の狭間で 小田牧央

解放区
それぞれのディストピアの形 円堂都司昭
乱歩の余白/余白の乱歩(その3――最終回) 巽昌章
「推理小説の論理」をめぐって――『探偵小説の論理学』批判(その4――最終回) 巽昌章
 アガサ・クリスティー『愛国殺人』を読む 横井司
原作と映像の交叉光線 出張版6/伝染する怪異――『残穢―住んではいけない部屋―』 千街晶之
原作と映像の交叉光線 出張版7/水銀の因果の環――『お嬢さん』 千街晶之
原作と映像の交叉光線 出張版8/探偵と呼ばれる資格――『貴族探偵』 千街晶之

「ミステリー×札幌」イベントレポート
ミステリーを読んで札幌へ行こう! 諸岡卓真
札幌とミステリ 大森滋樹

中辻理夫追悼
最後の夜 笹川吉晴
「普通の人」 巽昌章
中辻理夫さん 羽住典子
 中辻理夫氏を偲ぶ 廣澤吉泰

執筆者後記



「CRITICA」第12号 序文

『CRITICA』12号をお届けする。

 一九八七年九月、綾辻行人の『十角館の殺人』が講談社ノベルスから上梓され、若い世代を中心とする本格ミステリのムーヴメントが始動した。翌年二月に刊行された『水車館の殺人』のオビには「新本格推理」という惹句が掲げられ、後にこれをもとにして、新しい本格ミステリは「新本格」と呼ばれるようになる。
 『十角館の殺人』で注目を受けたのは、登場人物の一人が語る以下のような言葉だ。

  • 「僕にとって推理小説(ミステリ)は、あくまで知的な遊びの一つなんだ。小説という形式を使った、読者対名探偵、読者対作者の刺激的な論理の遊び(ゲーム)――それ以上でも以下でもない。 だから、一時期日本でもてはやされた〝社会派〟式のリアリズム云々は、もうまっぴらなわけさ。1DKのマンションでOLが殺されて、靴底を擦り減らした刑事が、愛人だった上司を捕まえる。――やめてほしいね。汚職だの政界の内幕だの、現代社会の歪みが生んだ悲劇だの、その辺も願い下げだ。ミステリにふさわしいのは、時代遅れと云われようが何だろうが、やはりね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可能犯罪、破天荒な大トリック……。絵空事で大いに結構。要はその世界の中で楽しめればいいのさ。但し、あくまで知的に、ね」

 ムーヴメントが進むにつれて、新本格のマニュフェストのように扱われるようになるこの台詞が仮想敵としているのは、いうまでもなく「社会派」だ。
 一九五七年一月、雑誌『旅』で松本清張の長編推理小説『点と線』の連載が始まった。連載中は話題にならなかったそうだが、翌年の二月に光文社から単行本化されると、ほぼ同時に刊行された『眼の壁』とともに、たちまちベストセラーとなり、ミステリの新しい読者を開拓した。それが後に「社会派」と呼ばれることになる。
 新本格登場当初は、仮想敵として扱われていた社会派ミステリだが、最近になってその傾向に変化が見られるようになった。昨二〇一六年度の本格ミステリ大賞候補となった早坂吝の『誰も僕を裁けない』は、「本格と社会派の新しい融合」をめざす試みが作品に盛り込まれていた。今年に入ってからは、江戸川乱歩と松本清張の生涯を並行して描き、社会派を「探偵小説」と絡めて、その両方の捉え直しを促す、郷原宏の『乱歩と清張』も刊行された。
 こうした状況をふまえ、新本格30周年の節目の年である本年、『点と線』が雑誌に掲載されてから30年後に『十角館の殺人』が上梓されたという偶然も鑑み、特集「新本格の30年、社会派の60年」を組んでみた。新本格と社会派とを同じ土俵で見つめ直すことで、何がしかの化学反応が起こることを期待して、これまでの号とは異なり、二部立ての特集とはしなかった。その企てが吉と出るか凶と出るか、ご愛読いただき、判断を仰ぐ次第である。

 ヴァラエティに富む解放区では、巽昌章の二大連載が完結した。注目は、今年の五月、北海道情報大学の公開セミナー「ミステリー×札幌」に参加した当会会員からのレポートである。北海道出身のミステリ作家や評論家が多いことは、それだけで一冊の本が書かれたことがあるほど。東京一極集中では見えてこないミステリ界の側面をうかがわせるイベントの雰囲気を楽しんでいただければと思う。

 巻末には、本年一月に逝去された評論家で、日本推理作家協会および当探偵小説研究会会員でもあった中辻理夫氏への追悼文集を掲載した。中辻氏は一九六七年に北海道で生まれ、二〇〇三年に結城昌治論で第10回創元推理評論賞を受賞してデビュー。二〇一二年に刊行した『淡色の情熱 結城昌治論』によって、第24回大衆文学研究賞を受賞している。創元推理評論賞受賞後、当会にも入会され、『CRITICA』でもたびたび健筆を振るわれてきただけに、早世が惜しまれてならない。その業績と人柄を偲ぶために、ささやかながら追悼のページを作らせていただいた。末筆ながら、中辻氏のご冥福を祈ります。


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